19 伝えないから






「真中?珍しいやん」
「白石、」




久々にあたしは図書館に来ていた。着々と近づく学園祭、うちのクラスは甘味喫茶ということでそのメニュー決めに取りかかり、大まかなものが決まったため何か料理の本がないか探しに来たのだ。何で甘味喫茶にしたかって実はほんのちょっと私情を挟んでいるのだがそれはまた今度。
適当に料理やお菓子の本を探して纏めて何冊か持って椅子に座る。図書館と言うのは学生らしからぬ静けさがある。外から聞こえてくる僅かな喧騒を聞き流しながら、たまには図書館も良いかななんて考えた。ぱらぱらとページを捲りながら眺めていれば、正面に椅子を引く音。ちらりと見れば見覚えのある男で、冒頭の会話に至った。白石はそのままあたしの前の席に座る。机に置かれているのは相変わらず訳の分からない本が数冊。


「また変な草の本読んでんの」
「変なて…毒草は奥が深いねんで」
「何に使うんだっつー」
「まぁ、色々やな」


含みのある言い方にあたしはそれ以上追求せずふぅんとだけ返した。この毒草好きみたいなのは一生理解出来そうにはない。その話は終わりにして意識を本に戻そうとするが、次のページを開いたところでまた白石が声を掛けてくる。


「料理本?何でそんなん読んでるん」
「クラスでやんの」
「ああ、文化祭な。1組食べ物出すん?」
「そ、甘味喫茶」


今度は白石がへぇ、と相槌を打つ番で、当日休憩になったら邪魔するわと笑いながら言った。毒草の本は未だ閉じられたままだ。白石、ではなくその表紙を眺めていればまた白石が話始める。


「軽音はまた発表するんやろ」
「うん」
「今年も凄そうやな、楽しみにしとるで」
「またあんたはそういうプレッシャーかけて」


あたしが不満そうに言えば白石はまたはは、と笑った。ああ、何でこんな質問したんだ白石は。あたしまで聞かなくちゃならなくなったじゃないか。


「白石は」
「ん?」
「由依と何かやるんでしょ、新聞部で」


白石はああ、と言ってまぁ由依だけじゃないけどな、と少し笑った。
(あーあ、)その場でため息をつきそうになってぐっと堪えた。新聞部のよしみだか何だかで由依だけを名前で呼ぶこと、何かを思い出して楽しそうに笑うこと、その他諸々あたしはそんな白石を見るのが正直辛かった。何となく白石は由依が好きなのかなと思っている。新聞部でも特に仲良くしてるらしいし、教室で二人話しているところを見ても楽しそうだと思う。思う、のに、由依の好きな人は光と言うことでそれに協力している。由依を応援したいのは確かだし、由依が幸せになれば良いなとも勿論思っている。でもそれはイコール、由依のことが好きであろう白石は失恋コースだ。


(あたしはほんと嫌なやつだなぁ)


今度こそ本当にため息をついて、思わず机に突っ伏した。白石からどうしたんと声が掛けられたが曖昧な返事で返すと、白石はまた少し笑ってあたしの頭をぽんと叩いた。そういうの、やめてほしい。






(勘違いするから)






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