17 堪えきれない






「よい、しょっと」



ゴミが詰まった袋をゴミ箱に放り込んで由依は一息ついた。掃除当番だった上にゴミじゃんけんに負けてしまった彼女は帰る前にゴミ捨て場までやって来ていた。
今日は珍しく紗雪も部活に行かないらしく、お互い塾もないので久々にどこか寄り道して行こうということで紗雪は教室で由依のことを待っている。早く戻ろう、と由依が元来た方を向いた時後方から話し声がした。本来ならば気にせず帰るところだが、


「あ、あの、…ずっと好きでした!」
(わぁ…!)


内容が内容であった。よく考えてみれば普段人がわざわざ留まって会話をするような人気な場所ではないところから話し声など不思議なことだった。由依はどうしてか好奇心が勝ってしまい、ちょっとだけ、と校舎の影に隠れて聞き耳をたてた。



「…悪いけど、俺好きな奴居んねん」



声を聞いた瞬間、さっと、心臓が一気に冷えていく感覚がして、気付けば由依はその場から走り出していた。今の声は聞き覚えがある。むしろ由依にとっては聞き間違える訳がないその声に、そしてその声が発した言葉に由依は動揺を隠せなかった。咄嗟に走り出してきたのでもしかしたらどちらかに音が聞こえてしまったかもしれない。すぐに壁から顔を出して見ない限り誰かは分からない、さらに後ろ姿だったら余計。
校舎の中に入ったところで、人通りの少ない廊下で走ったせいで上がった息を整える。はぁ、と息をつけば額にほんの少し汗をかいていることにやっと自分で由依は気付いた。そのまま階段を上がり、3‐1とかかれた教室へ入る。中では紗雪が暇そうに待っていて、由依が入って来るのが分かるとぱっとドアの方を向く。紗雪が何か言おうと口を開こうとして、由依を見て表情を変える。


「…どしたの」


静かな紗雪の問いかけに由依は答えないまま、紗雪が座っている前の席にすとんと腰をおろす。紗雪はそれをただ見ているだけで、由依はそれに視線を返すようにやっと紗雪のほうを向いたと思うと、すぐにまたそれは下へと反れ机に注がれた。


「…今ね、財前くんが告白されてたの」
「……へぇ」
「私、逃げてきちゃった」


あはは、と小さく笑ってから、由依は机に乗せていた拳をきゅっと握りしめた。


「…勝手に聞いて勝手にショック受けて、私って身勝手だね。関係ないことなのに」


哀しげな目で自分を笑うかのように言う由依に対し、紗雪はひどく真面目な顔で一言だけ返した。


「光が好きなら、関係あるでしょ」


さらりと、当然のようにそう言ってくれる紗雪に由依は思わず紗雪のことをじっと見つめてから、じわじわ視界が霞んでいって鼻の奥がつんとするのがわかった。ぽたりと机に涙が落ちるのを見て、何故泣くんだろうと由依自身思ったが、それは止まらなかった。
紗雪は力の入った由依の拳に手を重ねて、ぽんぽんとあやすように動かす。多分紗雪は何故由依が"泣いて"いるのか分かっていない。それでも何も聞かずに居るのが由依にとって助かっていた。


(でも、でもね紗雪、財前くん好きな人が居るって…言ってたんだよ)


誰に訴えるでもなく、由依は先ほどの静かな男の声を頭に響かせながら、ほんの少しだけ泣いた。





(とまらない、)







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