15 隠していた人






「しーらいーしくんっ。宿題みして」


にっこりと数学のノート片手にやってきた千鶴に白石はあからさまにため息をついた。



もう始めからこの学校に居たんじゃないかと思うほどに千鶴は四天宝寺という場所に慣れていて、彼女の順応能力には白石も驚かされていた。常日頃から通常運転でボケをかましまくる千鶴に皆ツッコミを入れ仲良くなるという流れであった。会った瞬間告白をかまされ少し苦手そうにしていた謙也もいつの間にか彼女と親しくなっていて、今では二人で帰っている姿を見ることも少なくない。そんな自分の前の席に座る千鶴を見て、白石は頬杖をついた。


「謙也に教えて貰ったらええやん」
「きゃー!何言ってるの白石くん!変態!」
「何でやねん」


訳の分からない受け答えに典型的なツッコミを入れる。なんだか面倒になりノートを手渡せば千鶴は神!と叫んでからその場で問題を写し始めた。彼女のノートは見事に真っ白で、相変わらず宿題はやって来ないらしいと白石は伏し目がちに数字を並べていく千鶴のシャーペンの動きを眺めて行く。
そういえばこの千鶴は彼女と以前からの友人なのだとふと思った。確かに煩いくらいお喋りでテンションの高い千鶴と、面倒くさがりで血圧低そうな紗雪とでバランスが取れている気もする。(それに加え天然で控え目な由依を入れても中々のバランスだ)自分達の知らない彼女を知っている千鶴、またそんな千鶴を知っている紗雪。白石は目を細めて、やっていられないとばかりに千鶴から目線を反らした。同時にドアから元気よく入ってくる金色が見える。


「おお、何しとん」
「宿題!写してる!謙也くん終わってんの?!」
「俺数学得意やし授業始まってからでも別に間に合うねん」
「嘘だ!謙也くんどっちかっていうとうちのお仲間ぽい!そしてそんな謙也くんもすき!」
「アホや言いたいんかこら、俺頭ええねんで意外に!そんでついでに告んなや!」
「自分で意外に言うとんで謙也」


お前ら喧しいなぁ、そう呟いてもお構い無しに謙也は白石の隣の席の椅子を引っ張って座りながら千鶴とぽんぽんとリズムよく会話していく。この二人もあれから相変わらずと言えば相変わらずだった。必死にシャーペンを動かす千鶴を見ながら謙也は指でドラムのリズムをとっていた。上手くて早いその動きは恐らく無意識で、そして見ている白石からしたら目について仕方ない。要するに鬱陶しいということだ。


「そういや、最近紗雪達とは一緒におんの?」
「いるよぉ、お昼は一緒に食べてるもん!放課後はうちが部活か向こうが部活ですれ違ってるー」
「へぇ、真面目に出てるんやなぁ」
「勿論さ。てゆか軽音部がいっぱい活動するからうちは謙也くんとも紗雪とも遊べないんだよー部活なくしてよ」
「いや無茶言うなや」


黙って見ていれば面白くないことはない。段々千鶴のペースにハマっていく謙也を見るのが白石は何だか楽しくなってきてさえいた。第三者の立ち位置で見物していた白石だが、


「そんなんだから紗雪は恋に専念出来ないんだよ!」
「は?紗雪彼氏居らんやろ」




「や、あれは好きな人いるね、絶対」




がくんと、何かが急降下して白石も当事者の仲間入りとなる。






(千鶴は無駄な観察眼をお持ちのようだ)





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