12 内緒だった事








だるい、と紗雪はただそれだけ思ってふらりと教室を出た。次の授業は確か古典でそこまで苦手教科という訳でもないことが彼女を後押ししてサボりという言葉をイメージし、そのまま流れに身を任せててくてくと屋上に向かった。5限目始まりのチャイムは階段を上っている最中に鳴ったが、サボりに行くので特に気にした様子はない。真面目に授業に出ているだろう由依も最早紗雪のサボりはお馴染みで理解しているだろうから心配はなかった。
がちゃりと扉を開けると同時に青空がいっぱいに広がっていて気持ち良かった。カーディガンを羽織ってちょうど良いくらいの気温に紗雪は嬉しそうに目を細めて、持ってきていた膝掛けをコンクリートにひこうとした時目の前の存在に気付く。



「千歳、またサボり?」
「人のこと言えんたいね、真中」



こちらを見ることもなく名前を言ってくるあたり意地が悪い。同じクラスの千歳千里がここに居るのは珍しいことでもないので、そのまま膝掛けの上に紗雪は座りこんだ。



「千歳、単位大丈夫なの。義務教育と言えどあんま休むと危ないんじゃない?」
「最高授業全部の三分の一の欠席までがセーフたい、何とかなっとうよ」



そんなこととテニスのことだけにはこのぽやぽやな頭も無駄に働くらしい。呆れたようなため息を吐き出してから紗雪は笑った。ごろんと横になって脱いだカーディガンをスカートの上にかけた。コンクリートだからやはり痛いが、サボるのに贅沢はよくない。少し離れたところで横になっている千歳よりはましだろう。
もう秋かぁ、と紗雪が目を閉じようとしたところで今度は千歳から声がかかった。



「真中は軽音部で文化祭出ると?」
「そだよ」
「高橋は?」
「さぁ…でも新聞部で何かあるんじゃない?多分」
「へぇ、」
「…何その顔」
「妬けるんじゃなかと?」



にやりと意地の悪そうな笑みを浮かべる千歳を見た瞬間紗雪はだらりと脱力したようにコンクリートに突っ伏した。もういやだ、と呟く紗雪に千歳は面白そうに眺めて紗雪の隣に座った。じろりと睨んでくる紗雪に今度こそ千歳は声に出して小さく笑う。



「なんなの、まじ」
「バレバレたいね」
「うそ」
「嘘。気付いとるんは俺くらいじゃなか?」
「…なんでお前が気付くんじゃーい」



うだうだとぐずる紗雪に千歳は妹みたいだとまた笑って、ぐしゃぐしゃと頭を撫でた。紗雪はため息をついて、不機嫌そうな何ともいえない顔をした。




「…内緒にしといてよ」




それは一生口にする気はなかった、小さな気持ちだった。





(小さい、なんて嘘だけれど)







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