11 新聞部の話し
新聞部というのは誰もが思う通り目立つものではない。仕事をサボりさえしなければ特別忙しい訳でもなく、他の部活のように練習しなくてはいけないようなこともないので内職をしているような気分にさえなったこともある。一つの教室に新聞部の人が何人か集まって来週の記事の見直しをしていた。皆バラバラで二人ずつくらいに席についており、時折笑い声が教室に響く。バドミントン部に勝るものはないが、この新聞部特有の空気も好きだなぁと由依は思った。
かくいう由依の後ろに座っているのは白石で、風にさらりとゆれる髪は本当にきれいだと思う。白石目当てで新聞部に入った子は次々と部長に退部させられていったので、白石にとってもここは中々安全な場所なのだと思う。今もそうなのだけれど、この彼は本当に隙がないと思う。こちらがやろうと思っていたことはもう既に白石が済ませていて笑顔で終わった新聞の資料を渡されたり、手伝おうと思って彼が持っている原稿を見てみれば終わっているどころか次の回の原稿や他人の原稿を手伝っていたりだなんてことが少なくなかった。無駄がない、なんて、彼の一見ふざけたような呼び名にも納得ができた。
白石か、白石の手元の原稿かどちらかは定かではないがじっと見てくる由依に白石は苦笑して視線をあげた。
「なん?」
「あ、ごめんね、邪魔して!何でもないんだけど……」
「そう?何か聞きたそうな顔しとると思ったんやけど」
少し笑っていう白石に今度は由依が苦笑する番だった。全くその通りだったからだ。
「白石くんて、あんまり弱味みたいなものないなぁって……これを出されたらまずいっみたいなの、あるの?」
いっそのこと聞いてしまおう、と疑問に思っていたことを聞けば白石はぱちりとまばたきをして、おかしそうに笑った。
「あったとしても弱味やろ、そう簡単に教えへんで」
「えっ!あ、そっか!」
「……まぁ、答えはイエスやな」
そして順当に、ぱちぱちとまばたきをするのは由依である。きょとんとする彼女に白石はにぃと笑って、質問の答え、とだけ言った。
と言うと、白石本人も分かっているほどに彼には弱味というものが存在するらしかった。
「ほら、原稿出来とるんやったらはよ先生んとこ出してき」
「教えてくれないの!」
「弱味やしって言うたやん。俺はそんな安ないで」
行ってらっしゃい、と白石が手をひらひらと振れば由依はしぶしぶ原稿を片手に机から離れて行った。白石はふぅとため息をつきながら、由依の背中を見つつ小さく呟いた。勿論、由依にそれが聞こえることはなかった。
「由依が知ってもうたら、あっちゅー間に伝わってまうやろうからなぁ……"俺の弱味"に」
(彼の唯一弱いこと、)