10 軽音部の二人








「あ、光ー。早いじゃん」
「アンタが遅いだけっすわ」



またそういうこと言う、と笑った紗雪が扉を開けた教室に居たのはひとつ年下の後輩で、紗雪につられて少し口元をつり上げて笑った。財前と紗雪は同じ部活仲間で、今日は二人で文化祭のためにまだ完成していない曲の作曲に取りかかるため残ったのだ。謙也は作曲は出来ないこともないがどうやってもアップテンポな曲になってしまうため今回は呼んでいない。ギターを片手に窓際に座っている財前の後ろの席に紗雪も座って譜面を覗きこんだ。



「うわ、結構出来てる…あたしいらないでしょ」
「サボろうったってさせへんで紗雪さん」
「光のあほ」
「誰がすか」



無駄口をたたきながらもケースからギターを出すあたり紗雪はやる気はある。そんなことは始めから財前もここ一、二年の付き合いで理解しているので目を向けることもなくギターを弾いていた。今年は皆でできる最後の文化祭だ。紗雪は勿論のこと、素直ではない財前もいつも以上に曲作りに手をこめ、真剣だった。
掛け持ちが出来るこの学校で軽音部に所属する人間は勿論紗雪たちだけではなかった。大体仲間と一緒に入ってくるパターンが多いので軽音部の中でバンドがいくつか組まれている状態な訳だが、その中でも飛び抜けて上手いという自信があった。コピーバンドが多い中自分たちで作詞作曲した曲が持ち歌でコピーと同じくらいにある彼らは生徒にも人気で、昨年の文化祭でも盛り上がりはどこにも負けていなかった。何より本人たちが部活が大好きで、メンバーと仲良しで、音楽を楽しんでいたのが強みかもしれない。学生ながらに精一杯で、そしてこの部活を楽しみながら上達していった。そんな中での、最後の文化祭だった。



「あ、ねぇあの歌詞出来たよ」
「ああ、あれすか」
「うん。あたしが今流行りのがーるずとーくとやらに混じってきて書いたんだよ褒めろ」
「あー凄い凄い」
「光のどアホ」



それから作曲も少しだけやってきたんだ、とピアノで弾いたらしい録音されたレコーダーを出して紗雪は再生ボタンを押した。作詞してきたというルーズリーフに綴られた歌詞を、レコーダーから流れるピアノをBGMに財前はさらりと流し読む。読み終えたあたりで丁度レコーダーからの音も止まる。



「…良いんじゃないすか。編曲とか色々俺いじっても?」
「むしろ任せた」



頼みますと言う紗雪に軽く頷いてから財前はもう一度ルーズリーフを眺めて、それを紗雪に差し出しながらからかうようなにやりとした笑みを浮かべながら言った。



「"これ"、アンタの気持ちも入っとるやろ」



つーか大半。分かってますとでも言いたそうな表情の財前に紗雪は決まりの悪そうな、何とも曖昧な表情をしながらルーズリーフを受け取った。



「……それは、まぁ、書いたのあたしだからね」



財前から視線をそらして言ったときの紗雪の表情は、ひどく曖昧なものだった。







(それは内緒のこと)













人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -