考え方を変えるだけで、思い込むだけで世界は随分生きやすくなる。嫌いなものをなくすと、生きるのが楽になる。目を瞑って、耳を塞いで、心をそらせて生きるのが楽だ。でもそのぶん、孤独だ。彼はそう言ってた。自分は世界を諦めたのだと。
ぼくは、彼と似ているけど彼とは違う。ぼくは彼と違って中途半端なのだ。彼女に目を瞑りきれず、あの子達の声が聞こえるまま耳を塞げず、あの人から心をそらせないでいる。見て見ぬふりを決め込んで、保身のために一切干渉しないほど徹底した彼とは違うのだ。彼は、苦しみもない代わりに満足も出来ないのだ。特別をつくらないから悲しまなくて済むし傷つけなくて済むのだ。
彼がそんな世界に幸せを感じているかは分からない、でも楽しいと言っていた。きっと充実はしてるんだ。
ぼくは全てを諦めて、手放して、自分を守る世界をつくるにはまだ覚悟が足りなかった。彼には言えなかった。
来るもの拒まず去るもの追わず、そんな彼の生き方はぼくには出来ない。
2012/10/05(Fri)