都忘れ
―――――○○――
あなたは誰?
――――――もうすぐ会えるよ―――
私はそこでハッと目が覚めた。
最近、同じ夢を見る……けれど、朝起きるとそれがどんな夢なのか、何も覚えていない。
不思議な夢−−−
ただ、いつも私の名を呼ぶ声が聞こえる気がして、同じ夢を見ているという感覚だけが頭に残る。
それが何の夢だったのか、後々私は解るの事になるのだった。
++++++++++
「申し訳ありません…戻れなくなってしまって…大変助かりました」
「気にせんで下さい。この辺は似通った景色やし、大分入り組んでますからね。初めて来た方には解りづらい思います」
私は道に迷っていたのをすっかり忘れ、見事な桜を眺めていたのだった。
その時に”▽▽○○さんですか?”と声をかけて貰わなければ、私はまだ迷っていただろう。
出張所で”すぐ戻ります”と言伝を頼んできた私だったのだが、余りにも遅いとの事で探しに来てくれたらしい。
ご迷惑をかけてしまった事に、私は何だか申し訳なさでいっぱいで”すみません”とばかり口に出た。
「そんなに謝らんで下さい。俺も仕事合間の息抜き出来て、逆に御礼を言いたいくらいです」
そう言ってニコリと優しく笑うのだった。
法衣を着ているし、こちらの言葉だから明陀の方なのだろう。
背の高い方で、髪は黒くて短く、落ち着いた雰囲気で優しく話し、笑顔の素敵な方だった。
「随分桜をご覧になってはったんですか?」
「いえ、偶然あちらに出たもので……。京都は桜が本当に綺麗なのですね……町並みのせいでしょうか?」
「桜は何処で見ても綺麗やと思いますが、先程の場所は俺も気に入りですね」
「はい…とても綺麗でした…ずっと眺める事が出来たら良いでしょうね」
私は先程見た綺麗な景色が眼に浮かんだ。
綺麗な小川が流れているから、あの場所は夏になると、蛍も見られるのだと教えてくれた。
”夏の京都もよいですね”と私が言うと”暑くて大変ですよ”と言われてしまった。
「是非、また見にいらして下さい。ご案内しますよ」
「ありがとうございます。機会があれば……」
そう、機会があれば……。
次はいつ来れるかはわからないから……
でも、綺麗なこの街に、また来てみたい……そう思う。
話しやすい方だったからか、初対面の方なのに、私はいつもより話した気がした。
((…そう言えば…私、まだこの方のお名前……))
「▽▽!!!!よかった!・・・・・・で、着いた所で悪いんだが……新幹線の時間が近いから急いでくれるか?」
急に名前を呼ばれて見れば、同行していた方が出張所の入口で慌ただしくしていた。
「も、申し訳ありませんでした……今用意します。」
”新幹線の時間が”との事だったが、時計も持ち合わせていなかった私は、時間もわからずに、出張所についてからすぐ慌ただしく出て来てしまった。
((……挨拶、出来なかった。名前も聞かずに出てきてしまった))
あの方の優しく話す声と、笑顔を思い出し、ご迷惑をかけたのに挨拶もせずに出てきてしまった事・・・・・・それだけが京都を離れる心残りではあった。
((また、機会があれば・・・・・・))
急いで京都駅へと来た私達は、帰り道の新幹線には余裕で間に合い、今はホームで新幹線を待っている。
と、同じ新幹線のホームに、小さな女の子が両親と一緒に手を繋いで歩いてきた。
女の子の手には、青い風船が握られ…楽しそうな笑顔で笑っている。
『○○、よかったね』
『うん!また来たいっ』
『そうだな、また3人で来ような』
・・・え・・・・・・・・・・・・・・・あれは・・・・・・・・・私?
風船を持ち、楽しそうに笑う女の子は小さな頃の私の姿で、手を引くのは・・・私の両親・・・・・
・・・・・・どうして?・・・だって・・・
私は、その楽しそうに笑う3人の姿から目を離せずにいたら、小さな私とパチリと視線が重なる。
クスっと、その子が笑った・・・・・・
『○○、み〜つけた』
そこで、私の世界が暗転した。
12/03/31
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