お茶をどうぞ*
「失礼します。▽▽○○です。おじ…あ、フェレス卿入ります」
トントンと私は軽くドアをノックした。
今日の入学式後、おじ様に”塾の鍵”だと渡されたモノが、実は”用品店の鍵”で、そこで出会った、”しえみちゃん”にわざわざ、鍵を借りて塾に行くはめになったのだった。
塾はもちろん遅刻で、そこでも一悶着あった訳だけど……。
塾の教室には、何故かメッフィー犬姿のおじ様が居て、その時に私は”後で鍵を取りに行きますから”と言っていたのだった。
それで、こうしておじ様を尋ねに来た訳なのだが、返事が無いので、私はそっと中の様子を伺う。
「まぁカタかったですが、初授業にしては上出来でしたよ☆」
((あ、おじ様電話中か……))
電話をかけながら、おじ様は優秀な部下さんに、お茶を出して貰っている所で、ドアから顔を出した私に気付いたのか、手を挙げる。
”そこに座りなさい”とばかりに、手で椅子を指す合図をするので、私は待たせて貰う事にした。
座った椅子のフカフカとした坐り心地と、流石と言わんばかりの豪華な室内の内装に、私はキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
おじ様の優秀な部下さんも流石で、私にもお茶とお菓子を出してくれた。
「あ、すみません。ありがとうございます。頂きます」
と、電話の手前少し小声で御礼を言う。
出していただいたのは、道明寺と緑茶で、枝付きの桜も添えてあり、お洒落だった。
私はその、小さな桜を手にとって、日中に見た綺麗な桜を思い出した。
((お菓子貰ってって、帰り道夜桜でも見ようかな……))
「ただし監視は必要です。使いものになる前に、騎士團上層にバレたくないですからね。まぁ、時間の問題でしょうが………」
電話をしながら、お茶とお菓子を食べるおじ様も、同じモノを食べている様だった。
それを見て私も”いただきます”と言って一口食べると、道明寺の甘さと、緑茶の苦さが良い具合だった。
((美味しい……最高!!一口で食べれるから、すぐ無くなっちゃうな……やっぱりまだあったら貰ってこう!))
「○○、お待たせしましたね☆…………○○、聞いてます?」
「へっ!?あっ、すみません…美味しくてつい夢中に……」
私はお茶とお菓子を見ていた方から、おじ様が座る椅子の方へ目線を向ければ、”別にいいですけどね”と、呆れ返っている様だった。
美味しい甘いものに夢中になり、電話が終わったのも気付かなかった。
「おじ様、余ってたら道明寺貰ってもいいですか?夜桜でも見てこうかなと!」
「夜桜、風流でいいですねぇ!それこそ日本の四季の風物詩!花見!和の心ですね☆○○も、私の様に浴衣で如何です?」
袖を持って浴衣をアピールするおじ様。
おじ様が着る浴衣の柄は”ゆかた”と書いてあり、世界に一枚しかない、メフィスト特注浴衣らしいのだが、正直ちょっと…と思う。
「春の夜はまだ凄く寒いですし、キチガイになりそうなので止めておきます」
「キチガイ?何処がですか?」
「いろいろな所ですよ。私は”それ着て出歩けません”という事のだけです」
と、だけ言ってとりあえず私は、おじ様に手を差し出す。
「忘れる前に、塾の鍵下さい!今度こそですからねっ!」
「あぁ!そうでしたね☆私とした事が、ウッカリ間違えてしまいました!」
おじ様は私の座る方へと近づき、出した鍵を手渡してくれた。
一応祓魔屋でしえみちゃんから借りて来た鍵と同じかどうか、きちんと確認した。
((今度こそ間違いなさそうだね!))
私はパチっと瞳を閉じ、ゆっくり開ける。
「…………メフィスト」
「おや?これはこれは”○○”どうかされましたか?」
「楽しんでいるだろう?」
「何かご不満でも?可愛い娘に睨まれる様な事はしていないのですがねぇ」
「不満も何も……アタシは何もしないからな。それだけだ」
「そうは言ってられませんよ”○○”。そろそろ父親《サタン》も動き出すでしょう」
そう言って、メフィストはニヤリと笑みを浮かべる。
「………その時はその時だ。アタシはただ見守るだけにさせて貰う」
「そうですか。○○は青春謳歌しなければならない、と言ってましたもねぇ」
クスクスと笑うメフィストが少し腹立たしかった。
顔には出さずに、私はニコっと笑う。
「そうですよ!おじ様!学生生活を楽しまなくちゃならないので、危険な事に巻き込まないで下さいね!」
「努力しましょう☆」
「あ、もし浴衣くれるなら可愛いのがいいです。今度見本に、パンフレットでも持ってきます」
私は椅子からスクっと立ち上がり、”ごちそうさまでした!”と一礼する。
スタスタとドアの方に歩きだす私に、
「…………私も愉しませて貰いますよ”○○”………」
おじ様は、そう声をかける。
聞こえていたけれど、それに応える事はせずに、ただ、ニコっと笑顔を返して”失礼しました”と言い。扉から外へ出た。
少し考え事をしながら歩いていた私は、”あ……”と大事な事に気付くのだった。
「道明寺、貰ってくるの忘れた………」
今更引き返すのも面倒なので、今日はコンビニのお菓子で我慢して、夜桜でも見ながら帰ろうと、思った。
自転車置場に一つだけ残る、私の新しく買った自転車は、朝の一件で少し傷がついてしまったが、問題はなさそうだった。
私は、自転車に乗りながら、朝来た道を戻って行く。
街灯に照らされた、青白い桜を見ながら……………
→
。。
原作2話終了
12/04/24
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