約束だよ







「これ、絶対違う鍵だよね……騙された」



道化の様な服装の人が思い浮かび、心の中で”コノォッ!!”と怒っておいた。


”塾の鍵”と渡された鍵で扉を開けたら、教室というよりも、青々とした空が広がる、あきらかに外に出てしまった。



「たっ………高いからっ!!何階くらいの高さなの!?」



空に近いくらいの高さに、石畳の通路が続き、奥には緑に囲まれた建物が見える。



「うーん。せめて連絡先聞いておけばよかったなぁ……」



扉から先程の場所に戻ったとしても、おじ様は彼と会うと言っていたし、きっと探しだすのは困難だろう。


初日で塾に行かないという訳にもいかないし…、行かなかったら何を言われるかわからない……

仕方ないので、もしかしたら、奥に見える建物の人が塾に案内してくれるかもしれないと、私は訪ねてみる事にした。



長い石畳の通路を渡りながら、強い風に煽られたら確実に落ちるな……と思ってしまい、割と急ぎ足で進むのだった。


近づくにつれ、日本家屋の様な古風な建物に、看板が有るのが見えた。



「えっと……屋 摩 祓?……あぁ、祓摩屋か!てかフツマヤって書いてあったし……お店だったら誰か居るよね」



私は、お店の入口へ続く階段を登り、ドアを開け様としたのだが、鍵がかかっていて開かなかった。



「うわ…休みかなぁ……どうしよう…誰か居ないかな…すみませーん!!」



私はドアをドンドンと叩いて、”どなたかいらっしゃいませんか!”と声を出した。

すると、建物の中では無い方向から、微かに”は、はーい!”と聞こえる。

私はもう一度、大きな声を出して



「すみませーん!お尋ねしたいのですが〜〜〜!」



と言うと、その声の主も”な、何でしょうか〜!”という声は、どうやら違う所から聞こえてくる様だった。

私は、階段を降りてその声のする方へ足を運んでみる。


すると、見えたのは立派な鉄の門に、綺麗な花畑だった。

名前のわからない花も多かったが、色とりどりの花が、キラキラと綺麗に咲いていた。



「あ、あの……どちらさまですか?」



私は、声をかけられるまで、しばらく花畑を見つめてしまっていて、本来の目的を忘れる所だった。



「あ、急にすみません!…いやぁ…凄く手の込んだお庭ですね!綺麗です!」



私は、声をかけてくれた女の子に笑って話しかける。

着物を着て、可愛らしい子が庭の草花の手入れをしている様だった。このお店の子だろうか?



「あ、ありがとうございます。…どうかされたんですか?今誰もいなくて」

「ああ!そうでした!お尋ねしたかったのですが、塾に行きたくて……鍵とか無いかなぁと…」

「鍵ですか?」



”はい…実は”と、私は此処に来るまでの事と、困っている事を話した。



「祓摩塾だったら、たまにお使いで行くので、鍵は有ります…ただ…その」

「ん?どうかしましたか?」



”わ、私足が…”と言うその子は、どうやら足が悪い様で、急いでいる私に申し訳なさそうに、”お時間をいただけますか?”と聞いて来た。



「それなら大丈夫ですよ!…あの、その前にもしよかったら…門開けて貰ってもいいですか?鍵がかかっていて入れない様で…」

「きゃぁ!すみませんっ!今開けますね!」



その子はひょこひょこと、ゆっくり足を動かして来てくれる。


”どうぞ”と門を開けてそう言う、彼女の前に私はしゃがみ込み、背中を差し出した。

不思議そうな顔をする彼女に、



「おぶさって下さい。私が連れていきます!鍵をお借りしたいと言っているのは私なので……」

「えっ!わ、私…そんなご迷惑をっ…」

「いえいえ!ご迷惑をかけているのは私ですから!お願い出来ますか?」



くすくすと笑いながら言う私に、その子は真っ赤になりながらブンブンと”重いですよっ”と手を横に振る。



「大丈夫!私の為だと思ってお願いします!あ、私▽▽○○です。名前も名乗らず、ごめんなさい。今日から高校1年です!」



振り返り、彼女に手を差し出してニコッと笑う。

彼女は少し驚いていた様だが、赤くなりながら、ゆっくりと手を差し出して優しく笑う。



「も、杜山し、しえみです!」

「ももりやま、ししえみちゃん?不思議な名前だね」

「しっ……しえみですっ」

「しえみちゃんか!ゴメン、案内お願いします!」



着物は少しおぶさるのが大変そうだったけれど、何とか掴まって貰い、鍵がある場所へと案内してもらう。

案内して貰う途中に、私の背中のしえみちゃんが、



「あ、あの…”○○ちゃん”て呼んでも…いい?」

「うん!大丈夫だよ!よろしくね、しえみちゃん!」



私の背におぶさる、しえみちゃんの顔は見えなかったが、何と無く嬉しそうにしてるのかなって気がして、私も嬉しくなった。



”失礼します”と裏の方から入らせて貰ったお店の中は、いろいろな薬品や薬草などの用品が置いてある戸棚が並んでいた。



「あ、あの……此処で大丈夫。少し待っててくれる?」

「わかった!お願いします」



私はしえみちゃんを降ろすと、しえみちゃんは近くにあった戸棚を探して鍵を取り出す。

”ハイ、これだよ”と手渡された鍵は、私が貰った鍵と明らかに違っていた。



((全く違うしっ!!))

「大事な鍵をすみません…お借りしますっ!!きちんと返しに来るから!約束!」



”約束”と言って小指を差し出す私にしえみちゃんはキョトンとしていた。



「あ、あれ?」

「わ、私…誰かと指切りするの初めてでっ…」

「そうなんだ!何だか嬉しいね!約束ねっ!」

「うん!約束!」



一人で、小指を出して変な事をしてしまったかなと、少し焦ったけれど、しえみちゃんも小指を出して笑ってくれた。



「あ!!塾っ!急がないとっ!本当にありがとう!」

「○○ちゃん、行ってらっしゃい!」

「ありがとう!あ、最後に一つ!」



バタバタと、ドアに駆け出してお店から出ていく前に、クルッとしえみちゃんの方を振り向いて私は言う。



「”その足”すぐに良くなるから安心してね!」

「え……?」



私は”ありがとう!”としえみちゃんに言って、祓摩屋を飛び出した。


階段を駆け降りて、石畳の道を走って戻った。

ドアに着く頃には息があがっていたが、腕時計を見て塾の時間が始まっている事に焦った。



「時間がっ!!遅刻だっ!」



しえみちゃんに借りた鍵を使ってドアに入ると、今度こそ建物の中だった事に少しホっとする。

同じ模様の床が長く続く廊下に、細かい装飾の扉が並ぶ。

扉の右端に”一〇八一”など漢数字が書いてあり、それぞれ教室の番号が書いてあった。

私はそれを見ながら教室を探して廊下を走る。

先生に見つかったら”廊下は走らない!”と言われるだろうか…、とかそんな事今気にしてる場合では無いが、とりあえず急いで教室を探した。



「一一〇六号教室!っと……あった!!」



ガチリとドアを勢い良く開けて中に入る。



「遅くなってすみませんでした!!▽▽○○ですっ!」



『グルルルァア!』



「えぇえええっ!!!??」





勢い良くドアを開けて教室に入った私と反対に、ギィィっと音をたててゆっくりとドアは閉まるのだった。











。。




12/04/18





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