サクラサク
春、桜が綺麗に咲くこの時期に、私は正十字学園に進学する事になった。
糊が効いてパリっとした、真新しい制服に袖を通すと、着慣れない為か違和感を感じた。
中学の制服はセーラーだったから、何だか鏡に映るブレザー姿の自分も不思議だった。
((今日から高校生か……))
自分がまさか超名門校である、正十字学園に通う事になるとは思ってもおらず、制服を着てはいるものの、今だに実感が湧かなかった。
私は本当であれば春から、地元の高校に行く予定だった。
家から近い事と、制服が可愛いという理由でその高校を選び、私はその学校に通うつもりだったのだけれど………
両親や家、諸々の事情により、何故か急に正十字学園に行く事になってしまったのだった。
今日から、新しい場所で、新しい生活が始まる。
胸のドキドキとした気持ちは、喜びと共にきっと不安もあるからだろう。
見知らぬ土地に一人で、友達は出来るだろうか、授業もついていけるだろうか………と、上げればきりがない程不安はある。
けれど、何だかんだ楽しみな事もその分多い。
「まぁよし!高校生活、楽しまなきゃね!」
”行ってきます”と外に出ると、新たな門出に相応しい様な素晴らしい晴天だった。
私は自転車に乗り、今日から通う学園へと向かった。
地図では見ていたけれど、実際に学園に行くのは初めてで、自転車を走らせながら周囲を見渡す。
途中に気になるお店を見つけたり、間近に走る路面電車に驚いたりもしながら、学園へ続くトンネルへと進んでいく。
長いトンネルを抜けた先に、私の目に入ってきたのは綺麗な桜だった。
学園の敷地に沿って植えられている桜は、見事に満開だった。
満開の桜に、私は違う場所に来ていると実感した。
私の地元は北国の為に桜が咲く時期は遅く、入学式の時に桜が咲いていた事はなかったからだった。
私は自転車を走らせながら、満開の綺麗な桜を見上げていた。
晴天の青と、桜の薄いピンクの花びらは凄く美しかった。
「本当に綺麗な桜……うわっ!!」
「おわぁっっ!!」
ドン!と急に何かにぶつかる衝撃に、私の身体は自転車から投げ出された。
ガシャンと自転車の倒れる音と共に、、自分の身体が何かにぶつかった。
「痛たたた……」
突然の衝撃に閉じた瞳を開けると、私の目の前にはピンク色が広がっていた。
「……ピンク?……桜?…あれ?」
「………あたたた」
「……うぐっ」
”あれ?”と私が不思議に思っていると、目の前のピンクのモノから声が聞こえるのに気付くと、良く見ると人の髪だった。
「坊、大丈夫ですかっ!?」
誰かのその声に、ハッとして周囲を良く見渡すと、私の自転車の下敷きになっている人と、私はピンクの人を下敷きにして、上に乗り掛かっている凄い状況だった。
初登校にて、私………
どうやら………
人を轢いてしまった様です。
→
。。
12/04/12
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