賑やかな食卓
『雪男!今日仕事終わったら、真っ直ぐ旧男子寮食堂集合ね!!』
祓摩師の雑務を熟していたら、○○さんから電話がかかってきた。
”何があるの?”と聞く前に”忙しいから”と電話を切られてしまったから、何かよくわからなかった。
とりあえず、早く終わらせて帰れる様にと作業を急いだ。
男子寮に着き、食堂の方へ足を運ぶにつれ、賑やかな声が聞こえてきた。
いつも旧男子寮は、兄さんと二人だけで静かだから、賑やかな声が聞こえると違う場所に来た様な不思議な気分だった。
ドアを開け、食堂に入る。
「ただい………!!?」
ただい”ま”の言葉は飲み込まれた。
食堂に入るなり、僕の目に飛び込んできたのはその”色”だった。
「あ、雪男お帰り〜!」
「おぅ!雪男早かったなっ!」
食堂には兄と○○さんの他に、”お邪魔してます”と塾メンバーが勢揃いしていた。
……神木さんと宝くんは居なかったけれど。
いやいや、その前に……凄く賑やかな声とは裏腹に、食堂の色が明らかに変だ。
真っ黒!!
「黒っ!!黒いよっ!葬式!!?それとも何かの儀式かっ!!?」
僕は、目の前の景色の異常さに、思わずツッコミを入れてしまう。
そんな僕に、○○さんは眼をパチパチとさせて、当たり前かの様に、
「雪男、今日はブラックデーだよ?」
「ブ…ブラックデー!?」
何だそれは…初めて聞いた言葉に僕の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
全員、それこそ喪服の様な、真っ黒な服を身に包み、食卓には黒い料理ばかり並ぶ。
のり巻き、黒豆とひじきの煮物、磯辺揚げ、黒ゴマの和え物、ナス田楽、
ごはん○すよ、
もずく酢、巨峰、ワカメと海苔のスープ、イカ墨パスタ、黒い饅頭、黒ゴマプリン、牛ワイン煮、デミグラスハンバーグ、
ごは○ですよ………
「黒すぎるよっ!!!」
いやいや最後可笑しいだろう。
なんで、豪華な牛ワイン煮、デミグラスハンバーグとかに、ごはん○すよって!!?ご飯無いじゃないか!!
「ハハハ!雪男知らねぇのか!だっせーなっ!」
「そんな奥村くんやて、さっき○○ちゃんに聞いたばかりやないか〜〜」
「志摩もやろが!」
「お、俺は知ってましたぁ!坊何言うてはるんですか!俺が、恋人同士のイベント知らないわけないや無いですかっ!!」
「志摩さん、嘘は良くないですよ?」
志摩くんが三輪くんにそう言われて、皆がハハハと笑う中、一人意味がわからず佇んでいた僕が、兄の言葉にイラっとした事は確かだ。
どうやら皆ブラックデーが何か、○○さんに聞いた様な口ぶりだった。
「で、この状況と、ブラックデーって何なんですか○○さん?」
「4月14日は黒い服着て、黒いモノを食べる日なんだよ!!」
「雪ちゃん!私もね、○○ちゃんに声かけてもらって!一生懸命頑張って作ってきたの!薬草スープ!」
「そうだよ!しえみちゃんも燐も、せっかく作ってくれたんだから、食べなきゃね!」
そう言って差し出された、しえみさんの……黒い……これは…スープ!?なのか!?むしろ……食べ物なのか!?
それに、しえみさんの着物に至っては、完全に喪服だった。
「………意味が、わからないのですが」
「まぁまぁ若先生!まず座りましょや〜〜」
そう言って呼ばれて、空いていた志摩くんの隣に腰を下ろすと、皆は”いただきます!”と食べだすのだった。
食卓に並ぶ料理を食べながら、隣に座る志摩くんが、ブラックデーを教えてくれた。
4月14日は、バレンタインデーとホワイトデーに縁のなかった人が、お互いを慰め合う日で、この日は黒い服装に身を包み、真っ黒な食べ物を食べるのだと……。
その話を聞いて僕は”一つ良いですか”と質問を投げかけた。
「それは、違う国の風習で日本は関係ないのでは……」
「何言ってるの雪男っ!!」
「そうやで若先生っ!!」
バタン!と机を叩きながら勢い良く立ち上がる○○さんと、志摩くん。
「バレンタインとホワイトデーに縁の無い人は、国なんて関係ないのよっ!!」
「ブラックデーに出会った二人が恋人同士になることもあるんやでっ!!」
「そうよ!縁が出来る様に皆でご飯食べてるんじゃないっ!」
「そやそや!○○ちゃんの言う通りや!」
「廉造っ!」
ガシっっと二人は握手を交わす……何だこれは。どこぞの青春映画か何かか?
「ホンマ、志摩はアホやな…」
「ホンマですね……」
僕の他に、勝呂くんと三輪くんも飽きれ顔で二人を見ていた。
「あ、燐ご飯美味しいよっ!作ってくれてありがとう!」
「燐、本当美味しかったよ〜!」
ぐっと、親指を立てて言う○○さんと、しえみさんがニコニコとして言うと兄さんは嬉しそうにしている様だった。
”ええから大人しく食えや!”と怒る勝呂くんに二人は”はぁ〜い”と返事をして座るのだった。
「でもね廉造、気付いてた?」
「おん、何や○○ちゃん?」
「フフフ……廉造はブラックデーにきちんと参加出来てない!!つまり、縁は来ない!!」
「な、なんやて!俺は完ぺきやろ!」
焦る志摩くんに、○○さんはビシっと志摩くんを指して言う。
「頭がピンクだからっ!!」
「!!?しもたぁぁぁぁっ!」
「その分私は完ぺき!あと雪男もっ!」
と、急に自分の名前が呼ばれて、僕も○○さんに指された。
「え、僕?」
「そうっ!!雪男は黒い料理を食べてて、黒髪に、黒い服、黒い眼鏡に、黒いホクロと、腹黒だっ!!」
「若先生!ほんまやぁぁぁぁぁ!!」
「雪男!?ほんとだぁぁぁぁぁ!!」
今度は僕が、ガタン!!と思い切り立ち上がり、腰のベルトから2丁の銃を取り出しガチャっと二人に向ける。
「志摩くん、兄さん……二人とも、いっそ死んでくれ!!」
にこやかな笑顔で、弁解の余地が無いくらいに銃を突き付け、言葉を投げ掛けると、二人は真っ青になって”ゴメンなさいぃぃぃぁぁあ!!”と言っていた。
「え、何で私じゃないの?」
「○○さんには、違った形で御礼します」
「ひぃぃぃぃ!怖い怖い怖い怖いっ!!」
そう言って○○さんはしえみさんの後ろに隠れるのだった。
皆でアハハハと笑いながら、一緒にご飯を食べてそんな楽しい時間を過ごした。
食事の片付けをしている時に、僕は勝呂くんに、話を聞いてみた。
「勝呂くんは、どうして今日来ようと思ったんですか」
「俺ですか?俺は、○○がこういう事言うのは大抵、”皆の為”やて、わかったからですかね」
「”皆の為”ですか…」
「俺らも、杜山さんもやと思うんですが、同じ塾でも、皆で何かしたりって考え無かったと思うんすよ。個人個人ちゅうか…」
”個人個人”と勝呂くんの言う事は確かで、祓摩塾の皆はまだまとまりが無く、チームとして成り立って居なかった。
「それが、○○は”出会いが”とかは言うてるけど、皆に声かけて”皆で一緒に楽しもう”てするんすよね…まぁ、来てない奴らも居ますけど……それに俺も、楽しんでみとうなった、て事すかね」
”志摩と○○は二人してアホやとは思いましたけど”とハハハと勝呂くんは笑う。
それを聞いて、○○さんが息抜きや、塾の皆を一つにまとめ様としてくれているのかな、と気付いた。
仲良よくなる事は絆を深め、より協力なチームになる為に良いことだ。
○○さんは、そのきっかけを作ってくれたのかと思った。
僕は、片付けを手伝っている○○さんに声をかける。
「○○さん、ありがとうございます」
「ん?雪男何の事?」
「まぁ、その顔じゃ僕が何を言ってるのか解ってるんだと思いますけど、楽しかったって事です」
「私はただ自分の出会いの為だけにしたことだよ!」
「そうですね、いい出会いがある事を祈ってますよ」
「……雪男、バカにしてるでしょ……まぁ、いいや!楽しかったて事で!よし!」
そう言ってニコニコと○○さんは笑う。
そして僕も、皆で楽しく囲んだ賑やかな食卓を思い出し、自然と口が綻ぶのだった。
。。
4月14日
「ブラックデー」
祓摩塾メンバーでブラックデー!
凄い楽しかったww
いやはや凄い習慣があるもんだw
料理は思いつくだけ、黒い料理、黒っぽい料理をあげてみました!
というか、ごは○ですよってしってますよね?ww
縁がない私も、14日は黒い料理食べたいとおもいます(笑)
5月も楽しみだ!来月もよろしくお願いします^∀^
12/04/04
[bookmark]
[ top ]