私の世界はあなたで廻る
「あぁ…ほんまアカンわ…なしてこない可愛いらしんやろ、うちの坊は……止められんわぁ」
”□□、□□”と廉造に呼ばれて、”なんや”と答えれば
「本音漏れとる……ヨダレも拭いとき」
おっとウッカリ、うちとした事が……と、袖で口元を拭う。
すると、”お前ら………”と身体をわなわなと奮えあがらせ、真っ赤な顔をした坊が
「こないな事して楽しいんかぁぁぁあ!!」
教室に響き渡るくらいの大声で怒鳴る。
「「おん。かなり」」
「ハモんなゴラァァア!!」
「マズッ…うち先逃げるで!廉造、後は任せたっ!」
”ちょ、□□!?”と言う廉造を、生贄にして一目散に逃げ出した。
が、すぐに捕まって二人して正座させられる。
もちろん、うちと廉造や。
「すんません…反省してマス、許して下サイ」
「□□、本気で思っとらんやろ」
「おん。やて…可愛らしくてつい……イジメたくなってもうて…」
「坊弄るん、□□の趣味やもんな!」
と、隣に座る廉造がケラケラと笑うので、うちは”生きがいや!”と訂正しておいた。
「趣味でも生きがいでもどっちでもええわ!!それ止めいっ!」
「……そないな……坊は、うちを勘当してまうん!?坊の側におれんのは、生きてる意味ない……」
「□□、”生きてる意味ない”あて…んな大袈裟な……」
坊に言ったのは大袈裟やない。
ほんまに思っとる事や。
”生きてる意味ない”て思ったんは、いつからやったろうか……
坊とうちと廉造、子猫さん……うちらいつも一緒やった。
物心ついた時には、お父 や柔兄は口癖の様に”坊を護るんやで”と教えられ、坊の側におるんは、うちらにとって『当たり前』やった。
幼い頃は、皆ただの幼なじみで”坊を護る”あてそんな事なんも考えとらんかった。
やけど、それは歳を重ねるにつれて解るようになった。
坊は明陀トップの和尚の血を引くお人や。
その力は見る見る開花し、同じ修行を積んどった筈なんに、その差はうちらとどんどん開いて行く一方やった。
そして…………坊のその力に目をつけた悪魔が、頻繁に現れだした。
『坊!!危ないっ!避け……ッツ!!』
『□□っ!!』
襲われたんは、明陀の皆が居らん、学校の帰り道の事やった……
梅雨時で大雨が降っとったのをよく覚えとる。
傘で死角になっとった所を後ろから狙われた。
うちはそん時偶然靴紐が解け、坊の後ろにおって悪魔に気付いた。
ほんま危ない所やった。
『□□、お前腕がっ!!』
『うちはへい…き…坊、逃げ……』
『!!坊ッ……うわぁっ!!』
『ッ!……れ、廉造っ』
坊を庇ってうちは左腕を、うちを介抱しようとした坊を護って、廉造は左の額に傷を負った。
バシャバシャとした水音と共に、近くにおった明陀の人が異変に気付いてすぐ駆け付けてくれ、悪魔は払われた。
うちはハッキリしない頭でその様子を見ながら、腕から流れる自分の血で、雨の水溜まりが朱色に染まり、身体が冷えていく感覚が解った。
その時初めて”坊を護れ”て事が解った気がした。
(あぁ、傷ついたんがうちでよかった……坊は生きなきゃあかん、明陀を背負って立つお人やから……)
『□□!!しっかりせっ!今手当がっ』
『坊……よかった、うちで…ほんまよかった…』
うちが目を覚ましたんはその数日後やった。
血を流しすぎた事と、魔傷により高熱が続いて生死をさ迷っとったらしい。
生死をさ迷ったせいか、その出来事がが有ったからかはわからんが、うちの性格が”ぶっ飛んだ”んはそっからやった気がする。
良く言われたからなんやけどね。
………坊に”□□やない、別人やろ”と。
「□□、”生きてる意味ない”あて…んな大袈裟な……」
「……だって、うちは坊のもんやもん。心も、身体も…」
「なっ……ッ!」
顔を真っ赤にさせる坊に、にひーーッ!と隣に座る廉造と顔を合わせてニヤニヤとする。
「坊、真っ赤になって□□の何想像しはったんですか?」
「うち……坊が望むんなら…えぇよ…」
「あらら、□□そんな色っぽくして!お邪魔虫は退散せなね!」
「廉造邪魔せんといてな!」
「ッ……お前らぁぁッ!!えぇかげんにせぇっ!!」
わなわなと怒る坊に、うちらはまた笑う。
そんな日々。
いつもこんな事、ほんま坊は困ってるかもしれん。
可愛いらしいお人やから、うちは悪戯ばっかしてしまうんやけど、それは”側に居たい”ていう、うちの我が儘かもて思う。
うちが坊を護って大怪我して、でもまたこうして元気で笑ってられる事……
それはきっと、まだうちの役目は終わって無いから………
坊の側に居てこそ、うちの命、存在意義。
うちの世界は坊がおって成り立っとる。
この命尽きるまで、うちはあなた様の側におります。
愛しい人への愛情表現。
「ずっと、元気に笑っとってな!」
。。
12/09/12
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