夢であるようにと願って
その日はついにやって来た。
いつか、来てしまうのだろう………と、心の片隅に置いて、気付かないフリをしていた。
わかってた。
あの人の行動、言葉は全て彼女へと向けられたものである事くらい。
それでも……私は、彼を想っていた、好きだった。
だから、心の隅に置いて気付かないフリをした。
”それはきっと私の勘違いで、彼女の事を想ってなどいない、気のせいだ……”
と、心の奥底に仕舞い込んだ。
「――――――――――――」
私は目の前で繰り広げられるやり取りに、頭が真っ白になった。
ぎゃあぎゃあと騒がしい声は耳に入らず……私の目は彼ばかり追い、ただ、彼の話す言葉だけが……頭に直接響いてくる。
「――――――――――――」
あぁ、この時が来てしまったのだと………
私は、やんややんやと騒がしい室内をそっと抜け出した。
まだ頭の中は真っ白で、足取りは重く、フラフラと縁側を歩いていく。
騒がしい音が聞こえない、離れた静かな部屋へと辿り着くと、障子を開けてそのまま俯せに畳へとパタリと倒れ込んだ。
室内は、和室独特の畳のいぐさの香りが広がる。
顔に当たる畳のヒヤリとする冷たさに、ようやく”現実”に引き戻され、瞳からボタボタと涙が溢れ、畳に染み込んでいく。
あぁ、この時が来てしまった……
もう、私を見てくれる事は無いのですね。
貴方が選んでしまったのなら、私はそれを受け止めるしか無いのです。
それでも……私の気持ちは、すぐに変わりそうにありません。
貴方の事をずっと想っていました。大好きなのです。
”幸せを願っています。”
そんな事を口では言っても、心から御祝い出来ない、ちっぽけな私を許して下さい。
まだ、時間を下さい。
時が経てばこの気持ちも穏やかになって、祝福出来る気がするから……
だから……もう少しだけ、貴方を想っていてもいいですか?
涙は溢れるばかりで、止まる気がしなかった。
ゴロンと仰向けに寝返り、窓の外に目を向けると、空が見えた。
ゆっくりと白い雲が流れ、青い空が広がっている。
悲しい、辛い、苦しい、切ない………
心の中は、そんな気持ちでいっぱいで、それが涙となって溢れているのに、
どうしてだろう………
いつもと変わらない青い空が、それでも”綺麗”だと思えるのは。
瞳から顔を伝わり、涙の雫がポタリと落ちる。
私は、そのまま瞼を閉じる。
これが、夢であったらよいのにと思う。
瞳を開けたら、こんな悲しい結末は待っていない……幸せに溢れている世界。
襖を開けて、入って来るのが貴方で、私をこの夢から覚まして欲しい。
目が覚めたら、何事も無かったように、私の大好きな、貴方の笑顔を見せて………
私の隣で笑ってて。
せめて、夢の中だけでも、私を幸せにさせて。
幸せな夢を、私に見せて………
12/04/09
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