幸せの在処






「あれ……□□さん来てたんですか?」


ガチャっとドアが開いた音がしたら、雪男にそう声をかけられた。

私は雪男達の部屋に勝手に上がり込み、しかも雪男の綺麗に整えられたベッドでゴロゴロ横になりながら、自分の部屋の様に雑誌を読んで寛いでいた。



「雪男お帰り。今日は任務遅かったんだね」



と、私は雑誌に目を向けたまま、勝手に入って来た事をまず謝って、燐も部屋に居ると思っていたと話をする。



「兄さんは、シュラさんと特訓、って言ってたから遅くなるんじゃないかな」



私の横になるベッドの方へ近づく足音がして、雪男はそのままベッドの脇に腰掛ける。

その時に、私の近くに座った雪男から、フワリと良い香がして、今まで雑誌に目を落としていたものから雪男へと視線を移した。



「あれ、雪男……お風呂入ってたの?」

「任務で汚れてしまって、真っ直ぐお風呂に行ったんですよ」



雪男からはお風呂上がりの独特の暖かさと、甘い石鹸の香が漂っていた。



「その前に、上着ないと風引くよ!あ、髪も乾かして無いんじゃない?」



雪男は上に何も羽織っておらず、タオルを頭に掛けて私に背を向けて座っていた。



「……ねぇ雪男、何かあったでしょ?」



私は読んでいた雑誌を閉じ身体を起こして、私に背を向けている雪男へと声をかけた。

雪男は普段そんな中途半端な事はしない。お風呂上がりでも、きちんと服も来て、髪も乾かしてお風呂から戻ってくる。

タオルを頭に掛けているから雪男の表情は見えないがわかる。

普段よりも声のトーンが低くく、口数も少ない…何より雪男のその姿と背中が”何かあった”と言っている様だった。


何も言わない雪男に、私はベッドから降り、雪男のTシャツを漁り一つ選んで、頭のタオルを剥ぎ取ると、そのTシャツを無理に雪男に被せる。

無理やり被せたら、眼鏡で引っ掛かってしまった。



「あ、雪男ゴメン、今眼鏡外すね」



私がそうしてしまったのだけれど、雪男の様子にクスっと笑ってしまった。

正面に立って眼鏡を外すのを手伝って、Tシャツを着させる時に、濡れた髪に触れた手がヒヤリと冷たくなった。



「本当に風邪引くよ?」



眼鏡は持って貰って、私はタオルを取って、雪男の正面から髪を拭いてあげる。

手を動かす度にシャンプーの良い香がする。



「今日は……ただ、忙しいのが重なって疲れてしまっただけですよ」

「……そう?」



私はタオルを動かしていた手を止め、雪男の頭を優しく包み込む。



雪男は嘘つきだ。



辛い事や悲しい事、悩んでいる事があっても全部自分で解決しようとする。

それは私に心配させない為かもしれない……

雪男は、私を突き放す様な言い方はしないけれど、でも”何も無い、大丈夫だから”と遠回しに言われている気がして、私では力不足なのかと悲しくなる。

先程からタオルの隙間から見える表情も、笑う顔も何処か寂しく作った笑顔……わかるよ……



「私に話せないなら仕方ない…けど、それは寂しいよ…」



私のお腹の部分にある雪男の頭を抱えながら、優しく少しぎゅっと腕に力を入れ、また話していく。



「私は雪男の力になりたい、悩んでたら一緒に悩みたい…一人で抱え込まないで……心配だから」



私が寂しいのも有るけれど、一番は雪男が心配なのだ。

苦しい時に誰かに助けを求められないで、自分一人で抱え込むのは身体にも、心にも良くない。

そう一人で悩んでいると、全部悪い思考に捕われて、悪い方へと向かってしまう。


雪男の心を少しでも軽くしてあげたかった。



「私は傍に居るから……」



雪男は私の腰に腕を回して、ぎゅっと抱きしめられる。



「□□さん……ありがとうございます」



私の腰に腕を回したまま、雪男はそのまま私を自分の方へ引き寄せて、ベッドにゆっくり倒れ込む。

今度は逆に私が雪男の胸に頭を付ける形になった。

雪男の腕が私を強く抱きしめる。



「雪男?」

「しばらく……しばらく、このまま居させて下さい……」

「うん……」



ドクドクと雪男の心臓の規則正しい音が聴こえてくる。



「□□さんが傍に居てくれて……こうして抱きしめるだけで、僕は十分救われます」



私は雪男の癒しになりたかった……だから、雪男が望むのであれば私は、それに答えたい。



「雪男、いっぱい甘えていいから」



雪男は私の髪をゆっくり撫でていく。

その手から、少しずつでも嫌なことが抜けて行ったらいいと思った。


雪男が私の頭を撫でていたけれど、私は少し身体を移動させて、雪男の上に覆いかぶさる形になる。


そして、軽く触れるだけの優しい口づけを落とす。

くすっと少し笑って、私も雪男の隣にコロンと横になる。


手を伸ばし、雪男の頬に触れると、雪男もこちらに顔を向けてくれた。



「雪男、一緒に幸せになろうね」

「……はい」



私の手を、雪男の手と重ねて優しく包んでくれた。

それを見て私は優しく微笑んだ。


雪男が幸せになれる様に……

心落ち着ける場所を、私はつくりたい。




「雪男、大好きだよ」



そうして、雪男も私に答える様に、優しく微笑むのだっだ。




「僕も……□□さんが大好きです」











。。




雪男で年上の彼女。
年上だからこそ、雪男を癒したり甘やかして、包んであげられる存在になったらいいなぁと。

年上だからって事じゃないけれど、少し早く生まれている分人生経験からの、行動とか言葉があるのかなと思ったからの年上で。

何だか暗くしてしまったけれど、本当はただ……ただ…

風呂上りの雪男の髪をくしゃくしゃに撫でて乾かしたかっただけなんだぁぁぁぁ!!

髪を乾かしてあげたり、乾かしてもらったりとか、、、大好き!



読んでいただき、ありがとうございました!




12/03/15





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