足取りは軽く





「ほわ…広い…」
「せやなぁ、それに新しいし綺麗やなぁ」

左右に広がる様々なお店を見て、二人で感嘆の声をあげる。
今日は柔造さんと二人で京都に新しくできた大型のショッピングセンターに来ました。
フロア中央は吹き抜けになってて、高い天井が私達を見下ろす。
そこら中で広い通路にはしゃぎまわる子供の声なんかが聞こえて、活気を撒き散らしていた。

「できたてやし人多いなぁ」
「賑やかですね」
「せやなぁ」

以前は人と接触するのが怖くてあまり人の多いところは得意やなかったんやけど、柔造さんと色んなところに出かけてる内に段々平気になってきた。
今も様々な種類のお店に期待が膨らむ自分がいるんが分かる。

「さて、端から順番に見てまわろか?」
「はいっ」
「気になる店があったら言うてや〜」

パッと柔造さんに手を引かれて、端からウィンドウショッピングを始める。
やっぱり多いのはお洋服屋さんで、当然レディースが大半。
すごい…こんなにたくさんデザインあるんやね…。

「ん?何か気になるもんあったか?」
「あ、いえ。すごい数やなぁと」
「ホンマになぁ。女性は服に対する意欲強いんやなぁ……て、名前はそんなに服買い込まんよな?」
「あ、はい。あの、可愛いなぁとかは思うんですけど、私に似合う気がせんくて…」
「…ほう」

私が消極的な発言をすると、柔造さんの声のトーンがちょっとだけ落ちたように聞こえた。
や、やって私地味やし、あんな可愛い服着たら絶対アンバランスやもん…!

「確かに□□はあんま派手なんは似合わんけど…よし、ほな今日は俺が□□に似合う服見繕ったる!」
「えぇっ!?」
「早速行くで〜」
「ちょ、ちょっと待って…柔造さんっ」
「行ーくーでー」

私の言葉も聞かずに、柔造さんは繋いだ手をぐいぐい引いて進んでいく。
目についたお店に適当に入っては吊るされたお洋服を手に取って私に宛がう。

「ちょっとちゃうな…次これな」
「あ、あの」
「□□は同じデザインやったらどっちの色がええ?」

柔造さん…めっちゃ楽しそうですね。
シャツやスカートを次々に持って来ては首を捻ったり頷いたりして取り替えていく姿は、下手したら自分の服選ぶ時より楽しそう。
私は恐縮してしもてるんやけど、でもよく考えたらこれは柔造さんの好みとか把握できるチャンスかもしれん…。
柔造さんはあくまでシンプルで、上品やけどポイント的に華のあるものを選んできはる。

「これもええんやけどなぁ…でもなぁ」
「あの、次は何に悩んではるんですか?」
「いや、これ似合うんやけどな?丈短いねん」
「は、はぁ」
「俺としては□□が短いスカート履いてるんも見たいんやけど…他の連中に見せるんは絶対嫌やし…でも独り占めしよう思たら□□と出かけられへんし…」

葛藤やな…、なんて一人真剣な顔をする柔造さんに、私は見られへんように顔を染めた。
ひ、ひとりじめって…そんなサラっと…。

「よっしゃ□□、次これな!」
「あ、はい!」

そうやってどんどん着せ替えられていって、最初的に柔造さんがよし、と頷いたコーディネートは…

「ちょっとふわふわしすぎてませんか…?」

やわらかいパステルブルーのフレアスカートに袖口や裾にフリルの付いた淡いオフホワイトのシャツ。
ワンポイントに胸元にストライプのリボンと…何やら全体的にふわふわひらひらした格好に…。
スカートは葛藤の末、膝よりほんの少し上のものにしたそうです。

「〜〜っ、むっちゃ可愛い!□□は雰囲気やわらかいからこういうふわっとした感じ絶対似合うて思たんや!」

妙にテンションの高い柔造さんに、わたしはとにかく気恥ずかしくて、慣れへん格好も落ち着かへんしでついつい俯いてしまう。

「ほな今日はそれ着たままな」
「えっ」
「おめかしした可愛い彼女見せびらかして歩くとかむっちゃ優越感やんな〜。あ、すいませんこれ着て行くんでタグ切ってもらえますか?」
「わ、わ、柔造さんてば…っ」

またもぐいぐい手を引かれて私は慌ててついて行く。
柔造さんはあっという間にお会計済ましてしまうと、お店を出た。
お店を出た柔造さんはめっちゃ上機嫌で、何なら鼻歌でも歌い出しそうやった。

「柔造さん、お金…」
「ちょっとくらいええカッコさせえや。俺彼氏やで?」
「そ、そうですけど…」
「俺が選んで俺が買ったもんを□□に着ててほしいんやん?ま、俺仕様の□□ってことで」

そう言うてニッ、とイタズラっぽく笑う柔造さんの顔と言葉にほだされて、私はすっかり何も言えへんくなった。
俺仕様の私って…さらっとすごいこと言わはったんちゃうやろか…。
そういう表現されると、何やら自分の身を包むものが嬉しくてちょっと照れ臭かった。
大人しくなった私を特に気にすることなく、柔造さんは再びウィンドウショッピングを楽しみ始める。
柔造さんは自分のコーディネートに包まれた私にご満悦やけど、ホンマのこと言うと、着飾った私より柔造さんの方がラフな格好でもよほど注目を浴びてる。
柔造さんと歩いてるとよくあることやけど、すれ違う女の人が見惚れるような視線で柔造さんのことを見つめてくる。
隣に立つひたすら地味な私がその人達にどう見えるんかは想像できる…けど、それが全く悔しくないわけでもない。
そんなことをひっそり考えてる時やった。

「あっ」
「ん?どないした」
「あの、柔造さんあれ羽織ってみて下さい」

私がすぐ傍のガラスケースに飾ってあった黒いデニムのジャケットを指差すと、柔造さんが首を傾げた。

「□□?」
「あのっ、柔造さんに似合いそうやから、着てみてもらえませんか?」

私が頼み込むと柔造さんはちょっと目を丸めたけど、すぐに「よっしゃ、待っとき!」と嬉しそうな顔して店に入るとすぐにそれを手に取った。

「どうや?」

パッと羽織って私の方を見る柔造さん。
どうや、と言われたら、

「…か、」
「か?」
「かっこいいです…」

割と厚いめの生地でも柔造さんは体つきしっかりしてはるから何の違和感もなく着こなせてるし、黒い背中の生地にシュッと斜めに入ったシンプルな白いラインがしまってて柔造さんの硬派な感じに合ってた。
とは言うても柔造さんは元々顔が整ってるから実際のところ何を着ても似合うしかっこいいんやけど…。
でも柔造さんに恥ずかしがりながらもちゃんとかっこいいという言葉を伝えると、へら、と嬉しそうにはにかんだ。
それじゃあ、とそれを柔造さんがするりと脱いだ瞬間を狙って、私はそのジャケットを、

「あ、ちょ、□□!?」

パッと奪ってたたたっとレジに持って行った。
焦りながら「これ下さい!あ、タグ切ってもらえますかっ?」と言うと、店員さんが苦笑いしながらも手早くタグを切って袋に入れてくれた。
私は袋に入れられたばかりのジャケットをすぐ様取り出すと、追い付いてきた柔造さんの胸に押し付けた。

「ちょ、□□、会計…」
「わ、私もいいかっこしたいです!」
「いや、□□は彼女やん?」
「えと、それに、私も私仕様の柔造さんしてほしいですっ…!」

ジャケットを押し付けた状態のまま真っ赤な顔を伏せてそう言うと、柔造さんは唖然としたけど、間をおいて「お、おん…」と少し赤くなった頬をかきながらそれを受け取ってくれた。

それからお互いにお互いの選んだ服で歩いてると、最初はちょっと気恥ずかしかったけど、何か楽しかった。
柔造さんは相変わらず女の人の視線を集めてたけど、その皆が見つめてるのは私仕様の柔造さんなんや、って思うと、私も満更ではなかった。
足取りは軽く、ふわりと揺れるスカートはきっと私の心を反映してた。





最後はショッピングモール内にあるスーパーに寄った。
今日は夕飯を志摩のお家で作らせてもらうことになってたから、その材料を買いに。
カートを押しながらお肉やら野菜やらをポイポイ入れていく私は、気づけばさっきとは逆で柔造さんをリードするような形になっていた。

「慣れとるなぁ…主婦みたいや」
「あはは、一人暮らし長かったですしね」
「やっぱ生活力つくんやなぁ。あ、□□、俺枝豆食いたい」
「え?あ、もう勝手に入れて…安売りやしええですけど」
「作るん手伝うし、堪忍したってや」
「しゃあないですねぇ、今回だけですよ、もう…」

そう言ってため息混じりにふっと表情を緩めると、柔造さんがいきなり照れたような顔して目を逸らした。

「柔造さん?」
「何や今の会話…むっちゃ夫婦っぽいなぁと…」
「ふぇっ!?あ、あの、そういうつもりでは…」

言われた言葉に、さっきの会話を思わず脳内でリピートしてしもて、ボッと熱が上がる。
そういうつもりでは、なんて言ったけど、ホンマは言われてみれば確かに、と思ってしもたから余計恥ずかしくて…。
私が真っ赤な顔してると、柔造さんがくすくす笑いだした。

「素でこういう会話できるしええんやん。それとも、俺と夫婦っぽい会話するんは嫌か?」

嫌か、と聞く柔造さんの顔は言葉の割に全く不安げな様子が無くて、これは私が“嫌”と言えへんの分かってて聞いてる時の顔やとすぐに分かった。
勿論、嫌なわけはないんやけど…。

「□□〜?」
「柔造さんのそういうわざと聞いてくるとこ、き、き、きら、い…ではないですけど…ちょっと意地悪です…」

間違っても嫌いという言葉は言えへんかったけど、拗ねた顔してそう言うと、柔造さんは「あー…」とか言いながら宙を見上げた。

「そういう可愛い顔するさかいやめられへんねんけどなぁ…」
「な、か、可愛い顔とかっ、した覚えないですっ!」
「…今まさにそれやねんけどなぁ」
「〜〜っ」

恥ずかしさに耐えきれへんくなって、さっさとカートを押して柔造さんを置いて行こうとすると、柔造さんは苦笑しながら慌ててついてきた。
もう…知りません!

「ぷくくっ…□□、かわいすぎ」
「もうええですってばぁ!」
「せやなぁ、□□ゆでダコみたいなってるし、このへんにしとこか。さて、これ以上買うもんないか?なかったらレジ行くで〜」
「あ、ま、待って下さいっ…」
「荷物は未来の旦那に任しとき〜」

気軽そうに笑いながら私の手からカートを奪ってしまうと、柔造さんはさっさとレジまで並びに行ってしもた。
み、未来の旦那って…また恥ずかしいことさらっと言う…。

結局帰りはほとんどの荷物を柔造さんが持って、私は衣類とか他の軽い食品を持つことになった。
お互い両手で持ってもいいくらいの荷物やったけど、それをわざわざ片手で持った。
重い片手はちょっとだけ痛かったけど、その痛みすら幸せに思えるのは、もう片方の手が温かかったから。




口元が独りでにほころんでしまうけど、これはきっと私のせいではなくて、全部全部、私を幸せにしてしまう誰かさんのせい。




*****
《鐘楼の呼び声・捺乃様より》10万hitリク

長編「その手を取り合って」番外編で【二人でおでかけ】



。。





うああぁぁっぁ!幸せでタヒんでしまいそうだっ!(私が)

もう、本当に大好きなサイト様で、10万hitリクをさせてもらって、それを戴いてきました!


素敵過ぎる!こんなバカップル可愛いすぎです!
「その手を取り合って」という捺乃様の素敵な長編(と番外編)があって、私はそれが凄く好きで、その二人の仲良しデートをみたいなぁとリクエストしたのでした。
本当、柔造さんが格好よすぎて吐血しそうなんですwヒロインちゃんも可愛いんですよ!大好きっ!
柔造さんに服選んで貰って”俺仕様”とか言われたい!(私が)
夫婦会話とかよすぎて、口が緩みっぱなしでした、むしろ私が足取りが軽すぎますww

しかも、このタイミングで嬉しすぎました!ホワイトデー!
終始ニヤニヤがとまりませんww

捺乃様、本当に素敵な贈り物をありがとうございました!
掲載も快くokしていただいて嬉しい限りです!
10万hitリクに参加出来て本当に幸せでした!これからも応援しています!大好きですーー!



12/03/14





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*ぜひ足を運んで下さいっ!長編も読んで戴きたいです!



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