潤んだ熱
年下の恋人は大変だろうと同僚に笑われることもあるが、まったくもって失礼な話である。
私の恋人は文武両道才色兼備、最年少祓魔師の超エリートだ。
背はまだ私のほうが高いけど、きっとあっという間に抜かしてしまう。将来有望な素敵な恋人。
「□□さん!すいません!」
息を切らして走って来た雪男に向かって笑って手を振る。
体力仕事でもある祓魔師の雪男が、息を乱してまで急いできてくれたと思うとどうしようもなく胸が高鳴る。可愛いなぁ、とにやけてしまうのはしょうがない。
お疲れ様、と声をかけると雪男は眼鏡をかけ直して柔らかく笑い返してくれた。
普段は絶対、誰にも見せない。その笑みは恋人だけの、私だけの特権。
「すいません、急な任務が入ってしまって」
「ううん、大丈夫だよ。それより無理してない?仕事続きで疲れてるなら今日のデートやめておく?」
祓魔師は絶対数が少ない。危険な仕事で死亡率も低くはない。
だから休みにもかかわらず任務が振り分けられるなんてことは日常茶飯事だし、特に雪男のように若く優秀で、家庭を持たない祓魔師ならばなおのことだった。
「いえ。□□さんとのデートが一番疲れがとれるんです。それに、この一ヶ月今日のことだけが楽しみでしたから」
そうはにかむ雪男は本当に高校一年生だろうか?
大人顔負けのリップサービスに年甲斐もなく照れてしまった。
これが心の底からの本心ならば、本当に罪作りな少年である。
「そう言ってもらえると嬉しいな。私も、雪男と会えるのが嬉しいし楽しみだったもの」
同じ職でも同じ現場に配属されることはあまりない。
チームに恋愛関係を持ち込むと、とっさの判断が狂い被害を出すだろうというのが上の意向でもある。
このところ私も任務が続いてたので連絡もままならなかった。
一歩進み、抱きしめるように雪男の体に寄り添う。
香水をつけない、雪男の体臭。
洗剤と、汗と、それからほんのりと硝煙の匂い。
「怪我、ない?」
「はい。□□さんは?」
「ないよ。後方支援だもん。全然大丈夫」
「そうですか。よかった」
そう穏やかに笑う。ぬるま湯のような会話。声音の暖かさ。
私の頬は緩みっぱなしだ。
それから二人してベンチに座って指先を絡める。
待ちぼうけしていた私の冷えた指の温度は、雪男の体温に包まれて心地いい。
ゆっくりと溶かされていくような微睡は、私の口を勝手に滑らせる。
「雪男、大好きよ」
あまりにも幸せで、衝いて出た言葉は飾り気もない。
ありふれた、月並みの、何の特別性も見出せないような愛の言葉。
顔をあげ、見つめた先の雪男の顔は耳まで真っ赤に染まっていて、空いている片手で顔を覆う仕草がひどく可愛らしかった。
感情が言葉にならないらしく、雪男はああだのううだのと呻いている。
これが、最年少天才祓魔師と讃えられる彼の真実だ。
大人に見えて、ちゃんと子供の照れ屋さん。
「雪男かわいい」
「□□さんは、ずるいんです・・・」
年下の恋人は大変だろうと同僚に笑われることもあるが、まったくもって失礼な話である。
私の恋人は不意打ちに弱い、かわいいかわいい、男の子。
赤くなったままの恋人に、締まりのない微笑みを浮かべ続ける私。
先に進むにはもう少しかかりそうだ。
でもそんなもの何の苦でもない。
こうして、ただ一緒にいるだけで幸せなんだもの。
「ぼ、くも・・・好き、です・・・」
私の恋人は、私をいつだって私を幸せにしてしまう魔法を使うんだから!
20120226 潤んだ熱
《迷走・きか様より》30000hitフリリク【雪男と年上の恋人】
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素敵なお話本当にありがとうございましたっ!!
雪男ぉぉぉ!かわいすぎますっ!!
幸せ過ぎます!!大好きですっ!!
12/03/05 葉月 綾
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