嵐の夜に
その日は、前日からテレビニュースや新聞でも取り上げられるくらい、大荒れの天気になるとの事だった。
テレビでそうは言っても、結局いつも私の周りでは被害が無かったから、今回も大丈夫かな………って思っていたのだけれど……。
私の住む京都も見事に、暴風圏内突入です。
朝、出張所に行く時は、”本当に台風並の暴風雨になるのかな?”というくらい晴れていたのに、午後から次第に空は曇り、雨も降り始めた。
夕方帰る頃には、それはもう雨は土砂降りで、風は凄く強くなっていて”傘持ってきてよかった……”と思った。
実は、天気予報は半信半疑で、少し疑っていた所があったから、朝に傘を持って行くか悩んだのだが、持ってきて正解だった。
今日はこんな天気なので、出張所の方も最低限の人を残して早く帰る様にとの事で、私も帰宅する事になった。
帰ろうと身支度をすませていたら、”○○”と声をかけられて、そこに居たのは柔造さんだった。
「○○、気ぃつけて帰りや」
「はい。ありがとうございます!柔造さんは残らないといけないんですか?」
「おん。人数は足りてるんやけど一応な。送って行けへんけど、大丈夫か?」
私を見て、柔造さんは心配そうな顔をする。
柔造さんは隊長さんで、お仕事も忙しいのに、私の事で心配をかける訳にもいかないので、そんな柔造さんに、ニコリと笑って”大丈夫です!”と答える。
「ケータイも有りますし、何かあったら直ぐに連絡しますから!」
「まぁ、そやな。ホンマ気ぃつけてな」
とそう言って柔造さんは、私の頭をポンポンと撫でて行ってしまった。
私はそれだけで嬉しくて、心がポカポカと温かかった。
さて、と外の荒れた天気を見ながら気合いを入れて、一歩外に踏み出す。
あまりにも強い雨と風に、外に出て5分もしないうちに、お気に入りの傘が折れてしまった。
哀しみに浸りながら、みすぼらしくなってしまったお気に入りの傘を差し、強い雨を除けて何とか自分の住むアパートにたどり着いた時には、靴は水没、服から水滴が落ちるくらいだった。
出張所からアパートは、わりと近いので、これでもよい方なのかもしれない……
こんな暴風雨で、今日はもう二度と外には出ないと決めた。
買い出しも済ませてあったので、本当に昨日買っておいてよかったと、昨日の自分を褒めた。
濡れたままでいる訳にもいかず、まずはお風呂に入って温まり、それから夕飯を作って食べていた。
外では相変わらず暴風雨が酷いのか、窓硝子がカダガタと鳴り、風の音で何かが飛んで行く音や、木々が揺れる音が響く。
((凄い風………))
その時だった……チカチカと、蛍光灯が点滅したと思ったら、急ににバチっと切れてしまった。
「きゃぁぁ!停電!?」
目の前が真っ暗になった事に驚き、私は声を上げてしまう。
暴風雨の影響だとしか考えられない……
私は側に置いていた、自分のケータイの明かりを頼りに、窓のカーテンを開けて外を見渡すと、当たり一面暗闇が広がっていた。
どうやらこの付近全体が停電らしい。
ケータイの明かりで照らしつつ、何かに躓いたりぶつかったりしない様にしながら、ブレーカーの確認に行くと、多分ブレーカーは落ちていない様だったから、原因は外なのだろう。
コンセントの電源なども確認したけれど勿論使える訳がなく、他にもガスや水は大丈夫だったが、電気が入らない為にお湯が出ない様だった。
((困った……でも、直ぐ復旧するよね……))
ケータイのディスプレイの明かりだけで、輝く室内は同じ自分の部屋なのに、全く違う部屋の様で、心細くなる。
頭に柔造さんの顔が浮かび、帰る前に”何かあったら連絡する”と言ったから、電話をかけようと電話帳を開いた。
((あ…でも、この様子じゃきっと出張所も停電かもしれないし……))
通話ボタンを押そうとした手を止める……余計な心配はかけたくは無いと思ったからだった。
けれど、出張所の様子も気になるので、柔造さんにメールを送る事にした。
『出張所は停電大丈夫ですか?風も強くて心配です…何かあったら飛んで行くので声かけて下さいね! ○○』
と、メールを送信すると、ずっと明かりを点けていた為か、ケータイの充電が少なくなっている事に気付いた。
私の部屋には明かりになる様な物がケータイ以外なかった……せめて懐中電灯やキャンドルがあればよかったと凄く思った。
ケータイの電池が切れてしまえば、充電出来ない為に光が無く、真っ暗闇になってしまう。
暗闇になったら寝るしか無いと思ったけれど、布団に入るにも、まだ19時過ぎだった為に、寝る気にもなれないし、まだ夕飯も食べていないのだった。
どうしようかと悩んでいた私は、出張所に行けば皆がいるし一人よりは心強いのでは!と考えた。
それが1番だと思って、ケータイの明かりを頼りに身仕度をして靴を履き、ドアを開けたのだが……
当たり前だか、外も真っ暗闇な事と、暴風雨で外に出られる様子では無かったのだ。
いつ切れるかわからないケータイの明かりを頼りには、出張所にたどり着く事が出来ないと判断し、やはり部屋に留まるしか無かった。
私はパタンとドアを閉めて、靴を履いたまま、ドアを前にしてその場にしゃがみ込んでしまう。
ケータイを開いてみるが、柔造さんからのメールは無かった。もしかしたらこちらも暴風雨の影響で、電波障害で届いて無いのかもとしれない。
どうする事も出来ない状況と、真っ暗闇に一人だと言う孤独感が一気に私を襲う。
窓を揺らす風は私の不安を煽るばかりで、強い風の大きな音がする度にビクっとしてしまう。
エアコンも利かない室内は徐々に冷え込み、肌寒くなっていく。
あの時、メールでなく電話をかけていたら何か違っただろうか……素直に来て欲しいと言えばよかったと後悔した。
ケータイは電話をかけれない程に電池が消耗していた。
((柔造さんっ……))
寂しさと不安で押し潰されそうになって、頭に浮かぶのは柔造さんの事ばかりだった。
すると、前のドアからドンドン!とガチャとドアノブの音がして
「○○!!大丈夫やったか!?」
「きゃぁぁあ!」
「おわぁぁぁ!」
勢いよく入って来た人は、ドアの前でしゃがみ込んでいた私に躓き、私の上に倒れ込んで来る形になる。
カラカラとその人が手に持っていた懐中電灯が床に転がる。
急な重さに一瞬苦しくなったけれど、”……痛たた”と聞こえる声に、直ぐにその人が柔造さんだと気付いた。
「じゅ、柔造さん!?」
「痛っ……す、まん…○○、ぶつけてへんか?なしてこないな所に…?」
「柔造さんこそどうしてっ!?というか転んで何処かぶつけてませんか、大丈夫ですか!?」
暗闇で良く見えなかったけれど、私はまだ自分に覆いかぶさる柔造さんの 身体を心配した。
転んだで何処か痛めなかったのだろうかと、柔造さんの身体は雨で濡れて冷たかったからだ。
私が身体を起こしてまた声をかけようとすると、そのまま柔造さんから”大丈夫や”と声が聞こえてホッとした。
懐中電灯の灯りだけで、顔こそハッキリ見えては居ないが、柔造さんは身体を起こした。
「○○こそ停電で大丈夫やったか?心配してしもて、いろいろ出張所から持ってきたんや」
「大丈夫・・・では、無かったです・・・・・・」
「思った通りや。連絡きたと思ったら、絶対大丈夫そうやないメールやったし」
「え・・・どうしてですか?」
柔造さんは傍に転がっていた懐中電灯を拾い、まだ床に座り込んでいた私に手を差し伸べて立たせてくれる。
そして、そのままぎゅうっと抱きしめられた。
「停電なって、一人で心細くしとったんやろ?強がってんのバレバレや」
「・・・・・・だって・・・余計な心配かけたくなくて・・・」
「あほ、それくらいわかるわ・・・・・・俺が、○○の心配せんわけないやろが。もう、大丈夫やからな・・・・・・」
柔造さんの優しい言葉と、強く抱きしめられている事で、私は堪えていたものが溢れて泣き出してしまった。
孤独と不安で、寂しかった気持ちを全部、柔造さんには見透かされてて・・・そんな私を優しく包み込んでくれる。
柔造さんは、泣き出す私が落ち着くように、安心出来るようにと、しばらく私の髪を優しく撫でてくれていた。ただそれだけの事なのに、私は凄く安心して不安な気持ちは消えていった。
―――はっ、くしっ!
柔造さんのくしゃみで私はハッとしてしまった。柔造さんはこの暴風雨の中、私の所に来てくれて雨に濡れていたのだった。
「すみません!今タオル持ってきますから!取り合えずあがって下さい」
「おん・・・すまん、あ・・・濡れとるからここでタオル借りるわ」
「今の間だけでいいので、懐中電灯お借りします」
柔造さんから懐中電灯を借りて、部屋に戻った私は、タオルと一応着替えられそうな大きめのジャージを持っていく。懐中電灯の灯りは先程までのケータイとは違い、凄く使いやすく有難かった。
柔造さんの所に急いで持っていき、濡れたままよりは良いだろうと着替えてもらい、私はタオルで髪を拭いてあげたら”おおきに”と柔造さんは言ってくれる。
「御礼を言うのは私の方ですよ。こんな中来てくれてありがとうございます。凄く嬉しかったです」
「おん。やっぱ来て正解やったな」
「はい。ガスは使えるので今暖かいお茶用意しますので、暗いですけど部屋のほうで待ってて下さい」
「あ、俺いいもん貰てきたで!」
そう言って出されたのは、小さな丸いキャンドル。
そのまま置くわけにも行かないので、お皿に乗せて火を点けると、ポッと優しい灯りが燈り暗い部屋を照らす。
「綺麗ですね・・・凄く落ち着く光ですし、暖かいですね」
「そやろ。有ったら使えるおもて持ってきたんや」
「そうです!寒いかと思うのでこれ、使って下さい!今お茶だしますから!」
私はその灯りで照らされた中、クローゼットから毛布を取り出して柔造さんに渡して使ってもらう事にした。
それからお湯を沸かし、マグカップに煎れて柔造さんに暖かいお茶を渡す。
「おおきに。なぁ○○、ん!」
「どうしました?」
ちょいちょい、と手招きされたのは柔造さんの膝の上だった。
”ココに座れ”という意味だとすぐにわかったのだが、何だか恥ずかしくて行きづらく、私は柔造さんの隣に腰を下ろした。
「ここやて言うたのに・・・・・・」
「・・・・・・恥ずかしいじゃないですか」
「まぁえぇから、こっちのが暖かいやろ?」
そうして、ぐいっと身体を動かされて柔造さんの膝の上に座る形になってしまう。
私が用意した毛布を柔造さんは自分の背からかけて、前に座る私も一緒に包み込む形に
する。
「こうすると暖かいやし、寂しくないし一石二鳥やろ?」
「そ・・・そうですけど・・・」
「ん、なんや?また恥ずかしいてか?」
私は優しく照らすキャンドルの灯りを見ながら、”・・・・・・はい”と答える。
確かに暖かいけれど、ドキドキとし過ぎて熱が上がり逆に暑くなってしまいそうだった。
「○○は、可愛らしいな」
「柔造さんがそう言うから、ますます恥ずかしくなりますっ」
「やて、ほんまの事やし・・・」
「〜〜〜っ!」
ぎゅうっと後ろから抱きしめられて、耳元で話されてドキっとしてしまう。
髪を掻き分けられて、耳に当てられた唇は徐々に下へと降りてきて首元に辿り着くとその感覚がくすぐったかった。
「やっ・・・柔造さんくすぐったいですっ」
「○○、俺に可愛えぇ言われたり、こうされんのほんま嫌か?」
「〜〜〜っっ!!き、聞かないで下さいっ・・・」
「ほんま素直やないなぁ〜」
私はもうドキドキとしてそれ所ではなかった。首元で話す柔造さんの感覚がくすぐったいのと、恥ずかしさでいっぱいだった。
と、柔造さんの唇が首元から離れたと思ったら、
「まぁ・・・○○のそないな素直やない所も、可愛いらしくて好きなんやけど」
耳元で囁かれる。
いつもより少し低めの声でそう言われて、ますます顔や身体の熱が上がってしまう。
そんな時、パっと一瞬にして蛍光灯が光り、余りの明るさに目を瞑った。
「なんや、停電終わってしもたな」
「〜〜〜〜っっ!!」
バッとその隙に、柔造さんの懐から抜け出して、離れた。
明るくなった所で柔造さんの顔を見てしまったら、私は一気に顔に熱がいって赤くなってしまう。
にこにこと楽しそうにしている柔造さんがいたからだ。
「柔造さんっ!!ぜぇったいっ!楽しんでましたねっ!!?」
「そんな事ないで?暖とらせてもろてただけやないか」
「でも、凄い楽しそうにしてるじゃないですかっ!」
「そないなこと・・・・・・お、なんや○○、ご飯食べとらんかったんか?」
明るくなった所で、テーブルの上の料理がハッキリと見える様になり、柔造さんにそう言われ、”そうです”と私は話す。
「俺も食べとらんから何か貰てもえぇか?」
「そうなんですか?大丈夫ですけど、冷めてると思いますから温め直しますよ」
「このままでえぇよ。箸だけ貸しとくれるか?」
私は柔造さんの分の箸を持ってきて、手渡して隣に腰をおろす。
「おおきに。さてご馳走なろか。あ!○○」
「はい?」
くいっと顔を寄せられて、ちゅっと口付けられ
「後で、さっきのもう一回な?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
不意打ちのキスと耳元で話された事に、持っていた箸がポロっと落としてしまった。
また真っ赤になっている私を見ながら、柔造さんはニコニコとしながら
「いただきます!」
と楽しそうに言うのだった。
Thanks! 3210hit
12/04/06 ryo hazuki
3210キリ番、ゆずき様リクで「柔造さんでの甘いお話」
でした!
特に何も指定がなかったので、凄く自由に書かせていただいたのですが・・・ゆずき様いかがでしょうか?(*´∀`*)
甘いお話になっていればいいのですが・・・気に入っていただけたら嬉しいですっ!
リクエスト本当に嬉しかったです!
ゆずき様の言葉が励みとなって、柔造さんで一生懸命書かせていただきましたっ!(>□<)頑張りました!
やっぱり私は柔造さん大好きでしたwゆずき様も好きでいて欲しいですね!
リクエスト本当にありがとうございました!まだまだ未熟な私ではありますが、これからもどうぞよろしくお願い致します!!
ありがとうございましたっ!!
ゆずき様のみお持ち帰り自由です!
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