輝く虹を見上げて
「ただいまっ!」
「お、金造お帰り!…ん?何や慌てて?」
俺は柔兄が声かけてくれたのに、ろくに返事もせずに、バタバタと自分の部屋へと真っ直ぐに駆けて行った。
”金造!靴脱ぎっぱなしすなや!”と玄関先から聞こえたが聞こえないふりをする。
急いで部屋に戻り、自分の机や押し入れ、小物入れをガサガサと探し回る。
((確か、ここらに……ちゃうな……))
記憶を頼りに探し回るも中々見付からない。相当前の物だから記憶が曖昧なのと、部屋片付けなんてしないからごちゃごちゃとして、何処にあるかわからないというのもある。
押し入れの中の物を引っ張り出し、奥の方を見ていくと、物が重なり合った下の方から、テープでグルグルと巻かれた小さな箱が出て来た。
((これやっ!!))
見覚えのあるその箱こそ目当ての物で、見付かってよかったと思った。
それを手に取り、また急いで玄関先へと駆けて行こうと、部屋を出たら柔兄とぶつかりそうになった。
「おわっ!とと、スマン柔兄っ!出かけとくる!」
「おい!金造っ!」
「部屋も帰ったら片付けるん!そのまましててや!」
「部屋?……おわっ!汚っ!何やこれっ!?」
”ゴラァァア!金造っ!”柔兄が怒ってる声が聞こえたけれど、追い掛けて捕まえられる前に、靴を履いて玄関から飛び出した。
○○が待つ所へ………
++++++
その日は朝から生憎の雨だった。
午後からは晴れると、天気予報では伝えていたけれど、窓から見えるのは、晴れる気がしない暗くて重い雲と雨だった。
「俺の気分みたいやな……」
「金造何言ってんの?早く整列するよ!」
「………おん」
○○に言われて渋々と列に並ぶ。
周りに列ぶ○○を含むクラスメイト達は、緊張している様だったが、俺は気が重かった。
『卒業生入場!』
体育館のドアが開き、入場の音楽と、わぁっと賑やかな声と拍手に包まれる。
今日は、俺達の中学の卒業式だった。
前が進むにつれ、俺も歩きだし体育館へと進んでいく。
「金造、金造あれ、アレ!」
隣を歩く○○に小声で言われて”アレ”に気付く。
むしろ気付かない方が可笑しいくらいに目立っていた。
「金造!こっちや!こっち向きや!」
「〜〜〜っ!柔兄っ!ハズいから止めいっ!!」
ブンブンと大きく手を振って、爽やかな笑顔で俺に声をかけてくる。
その手にはビデオカメラが握りしめられ、入場する俺らの様子を撮影している。
”金造カッコイイで!”とかそんな事言わんでええからっ!!
恥ずかしくて帰りたくなった……俺が気分が重く、憂鬱だったのはこれだ。
俺は、柔兄が持つビデオカメラをギロリと睨み、べぇっと舌をだしてやった。
今日の卒業式は、お父もお母も忙しくて来れないから、柔兄が家族代表で俺の卒業式を見に来る事になったのだ。
((せけど、柔兄目立ち過ぎやねん!!恥ずかしゅうてしゃぁないわっ!))
クラスメイトや保護者からクスクスと笑う声が聞こえる。
((絶対こうなる思たから嫌だったんや……))
何とか柔兄の障害を乗り越えて自分の席に着く。
そして、しんと静まり返る体育館で、卒業式が始まって行った。
司会の先生の声と、檀上に上がって挨拶をする声の他に、体育館の屋根にあたる雨粒の音が響いていた。
俺は眠くは無かったが、ただ実感がわかなくてボーっとしていた。
『卒業生代表、××○○!』
「はいっ!」
((お、○○の出番や!))
○○は卒業生の代表挨拶に選ばれた。
同じ学年でも成績優秀で、高校も有名な東京の正十字学園にすぐに決まった。
檀上に立ち、卒業生代表の挨拶していく○○。
途中、○○は感極まったのか、言葉に詰まる場面があったが、何とか堪え立派なスピーチをこなした。
そんな○○は、俺の自慢の幼なじみだ……
今日、柔兄が来るからと○○に伝えると凄く喜び、挨拶も失敗は出来ないと言っていた。
○○が、柔兄を好きなのは知っている。
だから実は、今日柔兄に来て欲しく無かったのもある……でも○○は喜んでたし、柔兄も忙しいのに来てくれた。
俺は二人を嫌いになる事なんて出来ないから、嫌だなんて言わない。
○○への、自分の気持ちにただグルグルと蓋をするだけ。
『卒業生退場!』
ボーっと考え込んでいて、その音にビクっと我に返る。周りのクラスメイトは感動して泣いているやつもいた。
俺は感動より、また保護者席の前を通って帰るのが気が重かった。
入場と同様に、柔兄がニコニコとビデオカメラを構えるのが見え、はぁと溜息が出たが、一生に一度っきりやし、と手を振り返してやる。
隣を歩く○○は少し鼻をすすり、時たま頬の涙を拭いている様だった。
「金造!一緒に写真撮ろうよ!」
クラスに戻り、先生からの挨拶を貰って解散した。
中学の卒業式は呆気なく終わった。3年間何をしていたか余り覚えてない。それだけ内容が薄かったのかもしれない。
○○に写真を撮ろうと声をかけられ、見ると皆撮影会をしていた。
「おん!皆で一緒撮るでっ!」
「あ!柔兄もまだ居るよね!一緒に写真撮って貰おうよ!!」
”外かな?私先に行って探してくるね!”と、○○は先に教室から出て行ってしまった。
○○の”柔兄”て言葉にズキっとしたが、そのまま平気な顔で”おん!頼むな!”て答えて、俺も教室から外へと向かおうとする。
歩いていたら”金造くん”と数人の女子に囲まれる。
何と無く雰囲気でわかってはいたが、その中の一人の子に”好きです”と告白された。
真っ赤になって、一生懸命伝えてくれたのに、軽くあしらう訳にもいかないから、俺の本当の気持ちも伝える。
「ホンマありがとうな!でも俺、好きなヤツおんねん!ゴメンな」
精一杯、俺の気持ちを伝える。
俺は○○が好きやった。
でもこの想いは本人には伝える事はない。心の奥に閉まっておく。
そんな俺の答えに、その子は泣きそうになりながらも、”じゃあ…記念にボタンくれる?”と言ってきた。
((ボタンか……))
昔、柔兄が正十字学園を卒業した時、○○が柔兄のボタンを欲しがってたのを思い出した。
俺は、学ランの2番目のボタンをブチっと外して
「コレ以外やったら幾らでもやる!気済むだけ持ってってや!」
そう言うと”ありがとう”とその子は違うボタンを貰って行った。
俺は、手に握りしめたボタンを持って、○○を探しに廊下を駆けて外へ出ていく。
外では雨が小降りになっていた…………
++++++++
「金造!遅いっ!探し物してくるっていって、私何分待ったと思ってるの!!」
「○○、スマン!これでも全速力で走って来たんやで!!」
随分待たせてしまった○○は、それはそれは御立腹だった。
少し肩で息をしながら俺も”スマン”と言う。
「普通、雨の中…外で待てとか言う?帰ろうかと本気で思ったんだけど……」
「悪かった言うてるやろ!ホレ、詫びに○○にやるわ!」
俺は、部屋から持ってきた小さな箱を○○に投げてやる。
何?と不思議そうにしながらも○○はそれを開けようとする。
「あ!やっぱり、ちょ待ってや!変なの入っとるかもしれん!」
「ふふっ、尚更開けたくなるね!」
止めるのが少し遅く、○○はにやりとしながら、楽しそうに小箱のぐるぐるになったテープを剥がし終えて開けてしまった。
箱から出て来たのは、
「あ、懐かしい!コレ卒業式の写真と……ボタン?」
「中学んやで!○○にやろう思ってやれなやったヤツやな」
「あ…だから卒業生見て家に帰ってったの?」
○○と一緒に居る時に、地元の中学生が胸にリボンと卒業証書を持って歩いていた。
『今日、中学の卒業式だったみたいだね』
て言う○○を見て、自分が仕舞い込んだ箱を思い出したのだった。
箱には、○○と俺が一緒に映る写真と、俺の学ランの第二ボタン。
グルグルに巻いたのは、その時の○○への気持ちを一緒に箱に閉じ込めたから。
「この写真の金造、なんかムスっとしてて笑っちゃうね」
「○○が悪いんやで!」
「私が?なんで?」
俺が、○○を探して学校の外に出た時……
『あ、金造!こっちだよ!』
○○の声に振り向けば、○○の隣には柔兄の姿があった。
『おん!金造立派やったで!』
『………柔兄』
俺は、手にしたボタンを強く握りしめる。
『○○…あんな…』
『金造!見て!柔兄がね、今日の卒業のお祝いと、頑張ったからってお花くれたの!!嬉しい〜〜ありがとう柔兄!』
○○の手には柔兄からと言う一輪の花。それを貰ってニコニコと笑う○○の姿に、俺は握りしめるボタンが滑稽に思えて、ポケットにしまい込んだ。
『ハイ!これは金造の分だよ!』
『お、俺のもあるんかい!…柔兄、花なんて俺はいらん!ちゅうか…めっちゃくちゃ!恥ずかしかったんやけど!』
『可愛いい弟と、○○の晴れ姿やないか!撮らないでどないする!俺は志摩の代表でやな!』
”はいはい!”と柔兄をあしらう。○○は俺らにクスクスと笑いながら、写真撮ろうと言ってきた。
柔兄は、卒業生の二人で、と俺らの写真を撮ってくれた。
俺は、隣で○○が大事そうに抱える花と、嬉しそうに笑う○○に何だかイライラとしてムスっとしてしまうのだった。
「え……もしかして、金造…その時から私が柔兄が好きだって勘違いしてて……」
「んなっ!うっさいわボケ!!」
「高校の卒業式もそうだったけど…ボタンも…柔兄もそんなに気にして……」
「うっさい!もう返せやそれ!」
俺は図星を指され、何だか恥ずかしくなってきて、○○が持つ箱を奪い取る。
○○は”ゴメンごめん!いるから!”と言いながら、俺の持つ箱を取り返そうとした。
「いや、金造がそんなに、私を好きでいてくれたんだなって嬉しくなって!」
クスクスと笑う○○に、”ふん、悪かったな”と言う。
「言っとくけど、私もこの時金造のボタン無くてショックだったんだよね!……誰かにあげたんだろなぁって……」
「へっ?」
「だから、その時も私だって金造気にしてたって事!」
少し、頬を染めて○○は話す。
”そ、そうやったんか”って俺はまた思う。何だか高校の卒業式の様だった。
あの時も、○○も俺を好きでいてくれた事に驚いたけれど、嬉しかった。
「あ、雨少しあがってきたみたいだね」
雨は小降りになり、空はうっすら光が射して来ていた。
俺は、中学の卒業式と情景が重なった。
「……金造、好きだよ」
「ふん!俺の方が、○○ん事好きやし!」
ただ、前と違うのは素直に○○に、自分の気持ちを伝えられる事だった……
クスクスと○○は笑いながら、
「金造、これからもよろしくね!」
そう、言って笑う○○はその当時のまま変わらなかった。
写真に映る○○も、俺の隣で笑っていながら
『金造、高校行ってもよろしくね!』
と言っていた。
そしてその時も、今と同じ様に雲の隙間から光が射し、
空には、七色の虹がきらきらと輝いていた。
ただ今度は、俺もそんな○○に笑みを返す。
「○○……ほれ!」
「はいっ!よろしく!」
俺は、○○に手を差出し、そして○○も俺の手に自分の手を重ねてくれる。
そして、隣で笑う○○の手を繋ぎ、歩いていく。
輝く虹を見上げながら、懐かしい思い出話に花を咲かせて……
。。
金造で中学卒業話で「優しい陽射しの祝福を」の過去編でした!
現在と過去をごちゃごちゃと書いてますが、高校卒業してもうカレカノになった二人と、中学の卒業式を見て金造が思い出した話です!
高校卒業で引っ付いたので、中学なんてまだ金造は勘違いしてますw
ごめん金造。。。なにが、書きたかったって・・・金造の卒業式での柔兄の兄バカっぷりなんだっ!!
ビデオカメラもって「こっちやで!!」とかもう、「柔兄っ!!恥ずかしいから止めてあげてっ!!」とか言いたくなるくらいやって欲しい!!←
そこを長く書きすぎましたが、楽しすぎたんですww
中学卒業おめでとうございますっ!!
12/03/17
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