優しい陽射の祝福を
寒い季節は過ぎ、外は徐々に春へと近づいていた。
雪がちらつく様な日も多かった今年は、3月に入ったからと言って、上着を着なければまだ肌寒い。
ただ、外の景色は変わり始め、冬のどんよりとした空模様と違い、最近は日が照っているのも多くなった様に思う。
青々とした空が広がり、暖かい陽射しが窓から差し込む今日は、おめでたい日にはもってこいの良い天気となった。
今日、俺らは正十字学園を卒業した。
教室の窓側にある自分の机の上に座り、窓の外を見れば、通い慣れた学園の景色が広がる。
式も終わり、賑やかだった教室も、また一人ひとりと別れを言って去っていく。
そして、誰も居なくなった教室は静まり返り、俺ひとりだけが残る。
ぼーっと外を眺めながら、随分と昔の事を思い出していた・・・・・・
『ねぇ金造!今日柔兄帰ってくるんでしょ!』
何処からか聞き付けたのか、○○は嬉しそうに俺に言ってきた。
((また…○○は柔兄、柔兄って!))
○○とは幼なじみだった。
小学生の時に、俺の近所に越してきた○○とは、同い年でもあったから良く遊んでいた。
俺の家と○○の家とは、家族ぐるみで仲良くしていたから、○○は柔兄や弟の廉造とも仲がよかった。
『柔兄に頼み事してたから!帰ってくるまでここに居てもいい!?』
○○が俺の部屋に上がり込んできたと思ったら、居座らせろと言ってきた。
柔兄は東京の正十字学園を卒業して、今日京都に戻って来る事になっていた。
○○が何を頼み事をしていたのかは知らないが、何も俺の部屋で柔兄を待たなくてもいいと思う。
俺は、柔兄を待ち侘びて楽しそうにする○○に、何だか腹が立った。
『○○、勉強の邪魔やから出てけ!』
『金造勉強なんてしないで遊んでるだけじゃん!邪魔なんかしないよ!』
『俺かて勉強くらいするわ!今日は勉強したい気分なんやっ!帰れっ!』
ぐいぐいと部屋から○○を追い出そうとしていたら、玄関先から聞き慣れた声がして、相手はすぐに誰だかわかった。
その声に○○も気付いたのか、ぱぁっと明るい嬉しそうな顔をして
『柔兄帰ってきた!金造迎え行こう!』
ぐいぐいと押しやっていた俺の腕を掴み、一緒に玄関先まで連れていかれる。
『柔兄お帰りっ!!』
『おん!○○やないか〜久々やな!』
柔兄を見つけた○○は掴んでいた俺の腕を離し、その腕でぎゅうっと柔兄に”お帰りなさい”と抱き着く。
急に抱き着かれた柔兄も驚きながらも、○○の頭を撫でて話す。
『○○とは正月ぶりか?中学の制服も似合ぅとるな!』
『その台詞正月にも言われたんだけど!』
”ハハ堪忍な!久々やからな”と膨れる○○を柔兄は撫でてやる。
『お、金造も迎えに来てくれとったんやな!ただいま!』
『おん、お帰り…柔兄…』
『何や元気無いなぁ…腹減っとんのか?』
”そんなんちやぅわ!”言うと○○がそんな俺を見て”金造ね!最近反抗期なんだよ!冷たくて!”と言ったのに俺はカチン!ときてしまって
「うるさいわ!お前はもう帰れっ!」
と○○にきつく言って、その場を後にしてドカドカと部屋に戻る。
”酷いんだよ”という○○と、柔兄の話しも全部部屋から聞こえていた。
『柔兄、私がお願いしてたボタンは!』
『スマンな、それが全部取られて無くなってしもてなぁ』
『えーっ!!私楽しみにしてたのにっ!柔兄くれるって言ってたじゃん!』
『○○堪忍な。今度どっか連れてったるから』
騒ぐ○○と柔兄の会話に、俺は近くにあった枕で耳を塞いだ。
嬉しい顔や楽しそうにしている姿、拗ねる様な○○の声も、全部柔兄に向けられる。
俺はその、訳のわからないイライラとした気持ちにも全部、蓋をした。
−−−ガラガラ
「・・・・・・金造?」
教室のドアの音と、俺にかけられた声で、ハッと現実に引き戻された。
「おん、○○か…どないした?帰らへんのか?」
「金造探したんだから!みんな待ってるよ!一緒帰ろうよ」
「おん、そやな・・・・・・よっ!っと・・・帰るかっ」
座っていた机から降り、ドアの傍に立つ○○の方へ歩み寄る。
使っていた教室を振り返り、優しくドアを閉めた。
卒業式の後、これからクラスのみんなでカラオケに行く事になっていた。
さしずめ○○は、居ない俺を探しに来たのだろう。
○○と一緒に、通い慣れた学園の廊下を歩いて行く。
「もぅ卒業かぁ〜!実感ないな!東京に来て3年、あっという間だったね」
「おん、そやったな」
「あ!金造凄い!制服のボタン全部無いじゃん!」
「いろんなヤツにくれ言われて、好きなだけくれてやったわ!」
隣を歩く、俺の制服の異変に気付いた○○は、クスっと笑って、
「兄弟そろって流石だね!柔兄も同じく全部無くなったみたいだよ!」
”モテモテだね!”とニヤりと○○は笑う。
そして○○は”私も中学の時さ…”と何処か懐かしむ様に話し出した。
「柔兄のボタンが欲しくてお願いしてたのにね、柔兄”全部無くなってもうた”って私貰えなかったんだよね〜」
そして俺の方を見て、
「今の金造見てて思い出しちゃった!懐かしいなぁ」
そう笑って言う。その○○の笑顔はどことなく寂しそうに見えた。
俺は、ぎゅっと自分の手に力を入れる・・・・・・
「○○、これしゃぁないからやるわ!」
ポケットから出して、○○の方へ軽く投げると、それは綺麗な孤を描き○○の手へと落ちた。
ゆっくりと手を開き、俺が投げたモノを見る○○……
「ボタン…これ…金造の?……全部無くなったんじゃ…」
そう聞いてくる○○に俺は言う。
「○○が欲しがってた柔兄と一緒のボタンや!……俺ので、柔兄のや無いんは勘弁やけど・・・・・・」
そして俺は心に決めていた事を、○○に伝える。
「○○が、柔兄の事好きでもえぇ。でも俺は・・・・・・昔から○○が好きやった。……ごまかしても、やっぱダメやったわ!」
真っ直ぐ○○を見て言おうと思っていたのに、途中から○○を見れなくなって顔を逸らした。
出来た兄貴には敵わないのだと思って、言っていてそんな自分が情けなくなってきて、ハハっと笑えてしまう。
「最後に、○○にそんだけ言うておきたかった。なんや……変な事言うて悪かったな!」
”はよ行こか・・・・・・”と○○の顔を見ずに、背を向けて先に歩きだした。
廊下に射す夕暮れ時の陽射しが、身体を包み込む様でどこか暖かった………
「金造待って!!」
後ろから声が聞こえたと思ったら、背中からぎゅうと抱きしめられた。
驚いて○○の方を振り返るにも、○○に後ろから強く抱きしめられて見ることが出来なかった。
”○○?”と名前を呼べば、俺の背中から声が漏れる。
「っ・・・勝手な事言って、行かないで!」
顔を伏せる○○の表情は見えない。ただ、聞こえる声はいつもの明るい声ではなかった。
「私が・・・、私の好きな人は・・・金造だよっ・・・勝手に決め付けないでっ・・・」
俺は、○○の言葉に、自分の耳を疑ってしまった。
今、○○は俺になんと言ったのだろう・・・。そんな俺に○○は言葉を続けた。
「金造は私が、柔兄の事好きだって思ってるみたいだけど・・・違うよ」
○○は、俺の背に抱きついていた体を離して、俺を見て”柔兄は憧れてたの”と少し恥ずかしそうに○○は言う。
「私も、金造が好き・・・・・・」
俺は、○○を抱きしめる。ぎゅっと強くこの腕の中から離さない様に。
「俺・・・俺は!○○は・・・ずっと柔兄の事好きやって・・・!」
「・・・・・・そしたら私・・・きっと、金造と一緒に東京まで来ないよ?」
”そうやったんか?”と俺が言うと○○は腕の中で”そうなのっ!”とクスっと笑う。
「金造からボタン貰えて嬉しかった。本当は欲しいと思ってたの・・・照れくさくて言えなくて・・・」
○○も俺を強く抱きしめて言う。”だって・・・”
「卒業式に貰える、好きな人のボタンは特別だよ!」
そう言って笑う、○○の笑顔を俺は一生忘れないのだろう。
俺もそんな○○に、笑顔を向けた。
今日、俺らは卒業した。
幼馴染という関係から・・・・・・
そんな俺達の新しい門出を祝福するかの様に、真っ赤に光る夕焼けが優しく包み込むのだった。
Thanks! 1000hit
12/03/02 ryo hazuki
。。
1000hit フリリク
陸都様より
『金造夢、卒業式第二ボタンネタ・柔造に憧れるヒロインで柔造にヤキモチをやく金造』
でした!素敵なリクをいつもありがとうございます!
ちょうど卒業式だしなぁと思っていたのでよかったです(笑)←個人的な話
今回ちょっと切甘みたくなって、金造らしさが全くなくなってしまいました。。
どうしても回想入ったりすると大人しくて・・・それはスミマセン・・・
どうでしょうか?卒業式ネタで柔兄と金造は歳が離れているので中々絡めるのが難しく、柔兄(高3)で卒業して帰ってくる時、金造と○○ちゃんは中1になります(たぶん)
そこからの時系列が6年という永い永い月日がたってますが、あえて中学卒業ボタンネタではなく、高校生にしました。(同じ高校生という所がミソなのです!)
○○ちゃんは柔兄は兄としての慕いや甘えで、ボタンは”カッコイイお兄ちゃんから貰った”って自慢したくてお願いした所で好きだからでは無いです。
それをずっと金造は勘違いして過ごしてて、だから切ない系になってしまいました。。
話の途中で○○ちゃんが「好きじゃなかったら東京には一緒に来ない」と言うのですが、
柔造さんが好きならば、○○ちゃんはずっと京都にいますよねwww
柔造さんはきっと、高校卒業したら戻ってくるので、たぶん金造が中2には京都いますからねw
えぇと、金造らしさが全く無く、設定が一緒の別人になってしましましたがっ(ホントすみませんっ)
喜んでいただけたら嬉しいですっ!!(><)
1000hitフリリク参加していただきありがとうございました!!
これからもどうぞよろしくお願いいたします!
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