その背中を抱きしめて








「○○迎えに来たで!」

「え、柔造本当に来てくれたの?」



まさか柔造が本当に迎えに来てくれるとは思わなかった。



自転車で……



確かに、私は前柔造に、”自転車で今度迎えに来てよ”と言った。


正十字学園で一緒に過ごした3年間は、よく柔造の自転車に乗せて貰っていた。

柔造と二人乗りする自転車が好きで、偶然見つけた写真を見て懐かしくなってしまったからだった。


それで…確かに、私は柔造にお願いをした……けれど、どうして今日なのだろう………



「柔造、私…今日、ドレスなんだけど……」



私服で二人乗りならまだしも、私の格好はドレスだった。

今日は友人の結婚式があって、夕方からの式と披露宴で、二次会も同じ会場だった為に、着ていたドレスもそのままで参加していた。

二次会まで参加して、帰りが遅くなるのは心配だから迎えに行く…と言っていたのだけれど……




「問題あらへん!俺もスーツや!」

「いやいや、スーツとドレスじゃ違うでしょ!私スカートなんだけど!」

「高校ん時もスカートやったやないか?」

「ドレスって所が違うの!」



今日は柔造もスーツだった。

普段は祓摩師の服で和装が多いから、スーツ姿は見慣れてない……だからか、凄くドキドキしてしまう。


私は柔造と長く付き合っているのだが、正直……自分の彼氏ではあるけれど、本当に格好よいと思ってしまう。

いつもは何も付けたりしない髪もワックスで整えられて、スーツ姿で少し色の入ったシャツにネクタイ、タイピンなんかもつけてて、雰囲気が違う。


私と話をしている間も、道行く女の子達は皆柔造をチラチラと見て”あの人格好いい”とか聞こえてくる。


私でさえも、間近で見て話すのもドキドキするから、その気持ちよくわかる……



「柔造の方も、結婚式三次会出なくてよかったの?」



今日はお互いに違う場所で結婚式があったのだった。

結婚式は大抵よい日取りに行うから、同じ日に被るのはよくある話だった。



「式終わんの早かったから、もう皆飲み過ぎてだいぶグダクダやったから、帰ってきたんやわ」



”明日も仕事やしな”と言う柔造はどうやら余り飲んではいない様だった。
そんな私も控えて飲んでいたので酔ってはいなかった。



「ほら、帰るで?○○が迎え来い言うから、わざわざお母から借りて来たんやから」



いわゆる、ママチャリで柔造のお母さんのだと言うから正にそのままだ。

荷物も少しあったし、自分のアパートまで距離があって、しかも慣れないヒールに足は限界だった。

”ドレスのスカート大丈夫かなぁ”と不安はありつつも、せっかく柔造が迎えに来てくれたのでお願いする事にした。

乗せて貰おうとする前に、”あ、”と柔造が言ったと思ったら



−−−ちゅっ



柔造の唇が触れた。



「○○のドレス姿も可愛いらしいな。あ、俺酔ってるからな?」

「〜〜〜〜っっ!!絶対っ酔って無いでしょ!」



バシバシと叩くと”叩くなやホンマ痛い”と言いつつも悪びれない様子に、私は真っ赤になっていた。

((人前は流石にっ!恥ずかしいっ!))


「……お願いしますっ!」


少しブスッとしながら自転車の後ろに座ると、柔造が前に座りその背にしがみつく。

その広い背中に腕を回して、自転車は動き出した。


スーツとドレス姿の自転車二人乗りに、道を行く人たちの視線が気になったが、恥ずかしいけれど、一生懸命気にしないように努めた。


ふわふわと動く自転車に、落ちない様にと柔造にしがみつく。


回した腕から、胸の鼓動が伝わってしまう様な……この感じが凄く懐かしかった。

そんなドキドキ感は昔と変わらなくて、何だかそれが嬉しくて顔が笑ってしまう。



「○○……お前、ふ「言うなっ!!」・・・やって……昔より重いんやもん……」



私はまた柔造をバシっと叩く。
言われるとは思ってたけれど、やっぱり気にしてるから言われたくは無かった。

昔もそうだったが、柔造と二人乗りをして、他愛の無い会話をするのも私は好きだった。
後ろに座る私は、変な事を言う柔造の背中をよく叩いていた気がする。




「あ、今日ね、友達の花嫁姿が凄い綺麗で素敵だったんだ!式も披露宴も感動しちゃった」

「おん。俺もそやったわ…何やいいもんやったな〜〜」



瞳を閉じれば思い浮かぶ、綺麗な友人の花嫁姿……
幸せそうに微笑む彼女に、嬉しくて、私も幸せな気分になれた。




「なぁ○○………」

「ん?なぁに〜〜」



移動する景色を見ながら、前の方から聞こえる声に耳を傾ける。



「ホワイトデー何欲しい?」

「私に聞いちゃうのそれ?ん〜・・・高価なものとか?でも柔造がくれる物なら何でも嬉しいよ?」

「高いのはまず無理やな。じゃぁ100均のにするわ」

「ひどっ!柔造から貰えるのなら何でもいい、って言ったけどそれは無いわ!」



ハハハと柔造の笑い声が聞こえる。

確かにお返しは気持ちの問題だし、柔造から貰えたら何でも嬉しい。

けど、本当に100均のだったら…何だか寂しいからそれは嫌だなって思った。




−−カラン



「あっ!柔造ちょっと待って!停まって!!」




スルっと髪が緩くなったと思ったら、ドレスアップに合わせて、美容室でアレンジして貰った髪に付けていた髪飾りが外れて、カラカラと道に転がり落ちてしまった。


急いで自転車を停めてもらって、拾いに走る。

お気に入りのやつだったから壊れたりしてなくてよかった。



「でも、汚れちゃった……」

「少し洗ったら取れへんのか?すぐ公園あった気するけど」


柔造に近くの公園に寄ってもらい、水道でハンカチを軽く濡らし汚れを拭き取ると綺麗になった。

よかった、と思っていたら、気付くと側にいた筈の柔造がいつの間にか居なくなっていた。

キョロキョロと辺りを見渡すと、柔造は公園のブランコの方へと歩いていた。


「ちょっと柔造!」

「○○!大人は夜しか遊べへんで!乗らんか?」


柔造はニコっと笑って、立ち漕ぎしながら楽しそうにブランコを揺らす。
柔造がブランコに乗る姿は、何だか凄い光景で、本当に酔ってるのかなと思ってしまった。


少し呆れながら、私も隣のもう一台に座り、キィっとブランコを揺らす。

確かに、大人になって公園で遊ぶ事は無いから、それこそ夜しか遊べない気がする。

ゆっくりと動かせば、頬にあたる風が心地好かった。

私はクスっと笑う。



「なんだか高校の時も一緒に遊んだ気がするね!今は二人ともスーツとドレス姿で、ブランコ乗るなんて凄く変な光景だよね」

「確かにそやな!……よっ!」



柔造は漕いでる途中で勢いを付けてブランコから降りれば、綺麗に着地する。
運動神経がよいのは知っているけれど、私はパチパチと拍手をした。


柔造は何処か楽しそうに微笑んでいた。



「今日な、俺も結婚式出てほんま、ええもんやなて思ってな、なんや幸せな気分になったわ」



柔造が楽しそうにしていたのは、そういう事だったのかなと思った。

私も今日一日中幸せいっぱいで同じ気持ちだったからよくわかる。

式を包み込む、幸せな空気・・・・・・




「○○、俺と結婚してくれへんか」

「えっ………」



突然の柔造の言葉に、胸がドキっとした。


柔造は、私が座るブランコの前まで歩いて来て目の前に屈む。


真っ直ぐに私を見る瞳が、柔造が冗談ではない真面目に話ているのがわかった。


私の手をとり、柔造の手が重ねられる。手の温もりが心地好く、そこから心音が伝わって行く気がした。


柔造の真っ直ぐな瞳から目が逸らさせなかった。




「○○、俺と結婚してくれ。○○に嫁に来て欲しい」




突然の柔造からの言葉は、私が理解するのには時間がかからなかった。

ゆっくりと、そしてはっきり、私に伝えてくれたシンプルな言葉でも、私には十分だった。



嬉しすぎて、胸が熱くなり・・・瞳からはほろほろと涙が溢れる。



「はい……私を、柔造のお嫁さんにして下さい……」



コクん、と頷くと柔造も嬉しそうに微笑んでくれる。



幸せそうに笑う友人に……いつか、私もそうなれたら…と、綺麗な花嫁姿に憧れた。

私の隣には柔造が居てくれたら、どんなに幸せだろう、と。



「これは、100均で買ったおもちゃやけど…」



そして、私の左手をとって、”おもちゃの指輪”を薬指に嵌める。


少し驚いて見ると、柔造は照れ臭そうにして話した。



「おもちゃやし、どうかとも思ったんやけど…○○らしいなて見つけてしもて……今日はこれで我慢して欲しい」



”今度一緒に買いに行こうな”と優しく手を包まれ微笑まれる。

そんな柔造に私は本当に嬉しくて涙が止まらなかった。



「○○には、苦労かけるかもしれへんけど……必ず、俺が幸せにするから」



私の頬を伝う涙を、柔造の手が優しく拭き取ってそのまま、口付けられる。


優しく交わす柔造との口付けは、甘かった。


そっと柔造の唇が離れると、私の頬は赤く火照ってしまっていた。

そんな私を見てか、ぎゅっと柔造に抱きしめられる。



「あーーー!もう○○、ほんま可愛ええ!むっちゃ好きや!」

「わ、私だって好きだし!」



強く抱きしめ返すと、昔から変わらない笑顔で柔造は笑い、私もそれと一緒に笑うのだった。






「柔造、私、ドレスがいいな!」

「何言ってん!花嫁はんは、白無垢やろ!」

「だって私、柔造のタキシード姿が見たいんだもん!絶対格好いいから!」




帰り道、また自転車の後ろに乗って、二人でそんな他愛も無い会話をして笑いあう。



高校の時、将来を語っていたあの頃の様に・・・・・・



自転車は、二人を乗せて道を行く。





私は幸せな気持ちで一杯で、


大好きな、将来の旦那様の背中を抱きしめるのだった。












。。





よく、白馬に乗った王子様が迎え来てくれるといいますが、自転車で迎えに来てもらいましたww

ママチャリだけど、いいじゃないかっ!(笑)


ホワイトデー関係ない気がするけど、ホワイトデーのプレゼントは一緒に買いに行ってもらおうとw

ホワイトデーのお返しは指輪だよ!

なかなかプロポーズってこういうイベントがないと書けない気がしたので、思い切ってみましたw

高校から付き合ってて、25歳くらいだと、ヘタすれば7〜9年の付き合いになるのでありかなって!

結婚式の幸せな空気にあてられて、柔造さんが意識したらよいな!とww

いろいろ二人乗りとか公園で昔の事を振り返って、結婚もいいのかなってw

長く一緒にいると、きっと逆に結婚を切り出せないんじゃないかなぁと思ったりもしたので^^


きっと寺だから、和装だと思うけど、あえてタキシードは着て欲しいっ!!写真だけでもいいからっ!!
絶対かっこいいからっ!!スーツもヤバイって絶対!!

熱く語ってしまいそうなので、この辺で・・・ありがとうございました!




12/03/09






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