だからも少しこっちを向いて






「なあなぁ○○ちゃん。もうすぐバレンタインやろ?」

「………そうだね……」

「俺なぁ、14日は町歩くたび”好きです”てチョコ渡されるんめっちゃ楽しみなん」

「”アホカ!!んなわけないやろ!”」



”んな下手な関西弁使うて……冷たいわぁ”

朝からアホらしい事を言ってきた廉造に飽きれて思わずツッコミを入れてしまった。


「だって廉造の妄想モテ話しなんて 興 味 な い ッ !」

「○○ちゃん冷たっ!!こん冬の寒さんようやわ」


そうヘラヘラと笑って廉造は私に話しかけてくる。
調子がよいのはいつもの事だが、最近はバレンタインが近いせいかますます拍車がかかっている気がする。

……迷惑な事この上ない。


「○○ちゃんは俺にチョコくれへんの?」

「え……何で!?」

「何でて勿論や!かあいい女の子に貰えるん幸せはないで!」


と、ぐっと親指を立ててウィンクをかます廉造。
調子乗るから期待させない方がよいのだろうか……凄く悩む……


「”あ、そぅなん”…じゃぁ……さっきのも妄想だろうから。誰からも貰えなかったら、そんな可哀相な廉造に”義理義理義理”チョコくらいでね」

「!!どんだけ”義理”つくん!?」

「もっと付けてもいいくらいだよ?」

「ほんま、○○ちゃんは冷たいわぁ…なんや泣けてきたわ」


廉造は目頭を抑えるフリをする。

私達のやり取りはいつもこんな感じだ。
廉造はヘラヘラとしながら話しかけてくる。私はそんな廉造を冷たくあしらうのだが、調子は変わらない。

”面倒だ”とか”興味ない”と口では冷たくいいつつも、何だかんだ廉造を構ってしまう私。

それは、何より廉造の反応に笑ってしまうし、そんな関係が悪くないと思っていたからかもしれない。


−−その夜、テレビのチョコ特集で面白いのを見つけてしまい、
”コレは使える”と私の中で悪戯心が芽生るのだった。



++++++



「うっ……○○ちゃん……もぅ夕方なんやけど……誰も来ないねん」


放課後帰ろうとしている時だった。
随分と暗い顔して、私に話しかけてくる廉造は”この世の終わりだ”というくらいの暗さだった。
”チョコ”が貰えないくらいで随分大袈裟じゃないか。


「朝は学校来るまでに歩く度もろてな、下駄箱開けんとドサドサ落ちてきよって、机も目一杯入っとって……休み時間の度に呼出し……て、何もなくてもぅ夕方やぁぁ!」

「あははは!いやいや、ホントそんな事無いから!」


廉造のピンクの頭の中は一体どんなものなのだろうか。廉造の考えていた事に思わず笑ってしまった。


「笑わんといてなぁ…凹んでんねん。やから○○ちゃんのチョコが最後の希望やわぁ」

「貰えるつもりしてたの?」

「やて、○○ちゃん何だかんだ冷たく言ぅても優しぃやん」


私は廉造に結構キツイ事を言ったりしているのに、私を優しいなんて思っているとは思わなかった。


「そ…なんだ…」

「おん、期待しとったわ!」


”期待してた”と手を差し出されて言われて、此処で”無い”なんて言ったら廉造はどんな反応をするのだろうか。

でも……私は、鞄に用意していたモノを廉造に差し出す。


”義理義理義理”
とカードを添えたチョコを。


「…書いてある通りだから」


なんてぶっきらぼうに言ってしまうのも私らしい。
またいつもの様に”冷たいわ”って言われるもんだと思っていたら、
そんな私からのチョコにも廉造は”おおきに”って嬉しそうに受け取るもんだから
何か調子が狂う………


「開けて見てもえぇ?」

「ど…ぞ」



廉造が私があげたチョコの包みを丁寧に開けていく時、私の心臓はバクバクと煩く鳴っていた。

そして、小さな箱を開けようと手をかけた時



”志摩くんちょっといいかな”



なんて可愛らしい声が聞こえてしまった。

そこには、それこそ声にあう様な可愛らしい子が恥ずかしそうに立っていた。

同じ女子として私はそれが何を意味するかよくわかってしまった。

((あぁ…本命だ))




私は、((この場に居てはいけない))と、急いで片付けてその場を立ち去ろうとした。

廉造に小さな声で”よかったね”なんて言いながらその場を離れる。



……急いで離れたけれど、でも……気になって影で聞いてしまっていた。

立ち聞きなんて良くないけれど…自分にとってそれは人事じゃなかったから……


”志摩くんが好きです。受け取って下さい”
そんな私と正反対な可愛い声が聞こえて来て、私の心がズキっと痛む。


私には真似できない事。


”よかったね”なんて本当は言いたくも思ってもない。
どこか、”自分だけが廉造に渡したかった”って思ってる。素直じゃない私。

廉造はきっと受けるだろう。本当私と違って素直で可愛いらしい子だったから。

廉造の彼女への返事を聞く前に、私はその場を離れた。



靴を履いて校舎から出ようとした時、遠くから走ってくる足音がだんだん近づいてきて”○○ちゃん!”と名前を呼ばれる。
振り向いた先には廉造がいた。


「ちょ待ってな、置いてくなんて酷いやんかぁ!」

「何、報告?よかったね、思い描いてた通りになって」

「断って来た!」



廉造の報告なんて聞かなくていい…と思ってまた帰ろうとした私に、今、何と言ったのだろう。


「ぇ……?」


「断ってきた!」

「な、何で!?あんなに欲しいって言ってたのに!本命断るなんて!」


”馬鹿なんじゃない!?”本当にどうかしてると思った。散々私に言っておいてどうゆう事なのだと。


「やて、俺”本命”からもろとるし」


私が先程あげたチョコの袋を見せながら廉造は言う。


「○○ちゃんからの。”本命”以外貰われへんよ」


”せやから断った”


「……っ!私があげたの返して!!」

「なしてや!?そんなん俺、○○ちゃんに”本命”言うたのダメやったん!?」


私は、廉造に渡したチョコを無理矢理奪いとる。
廉造は私の行動にショックを受けていた。


「…違うの。そうじゃない……コレじゃないの……」


私はそう言いながら、鞄から取出す。

先程、義理と書いていたチョコとは全く違い、綺麗にリボンや飾りでラッピングされた箱を。



「廉造に……私からの本当の気持ち……受けとってくれる?」

「……当たり前やないか。ほんまありがとう。めっちゃ嬉しい」


”本命思ってええの?”と言う廉造に、私は赤くなりながら軽く頷くだけだった。


私は可愛いく素直に自分の気持ちを言えたわけではないけれど

廉造が”本命”って思ってくれた気持ちに私も答えたかった。


いつも廉造に冷たい事を言うけれど、
だってそれは廉造が他の人の事ばかり言うんだもの………





「あ、ソッチはなんでダメなん?」

「廉造は止めた方がいいよ」

「なして?○○ちゃんが用意してくれたんやろ?」

「どうなっても知らないよ??」


私からまた廉造にソレは渡る。先程開けている途中で中はまだ見ていなかった廉造はその箱を開けた。


「ぎゃぁうわぁぁぁあ!!」


”あははは!だから言ったのに”廉造の思ってた反応に私は可笑しくて笑う。

ソレは《芋虫型》のチョコレート。
いつもヘラヘラしている廉造へのお灸にはピッタリだ。



よそばかり見ている君に

それは私からのちょっとした悪戯心。


だからも少しこっちを向いて。


きっと、私も素直になれるから




。。

(ほんま酷すぎる…往生するとこやったわ……やっぱ…さっきの子ん、受け取ればよかた思てきた…)
(そんなにいらないなら返して!)
(嘘や嘘!!)
(じゃぁ、アレも食べてね!)
(そっ…それだけは○○ちゃんから貰たもんでも無理やわぁぁぁ!)


。。





廉造バレンタイン

いっぱい欲しいと口では言いつつ、本当に貰うのは一個だけってのがいいなと。

廉造の「朝〜放課後」までの妄想話しは、柔造さんが本当にやってそう。
柔造さんならありえる。「柔兄がそうなら俺だって!」みたいなねww

ヒロインがヘラヘラしてる廉造に冷めた態度をとるのはかなり意識しているからなのです(笑)
余所ばかり見てたら冷たくもなります!

冒頭ネタはリアル高校生の会話から(笑)「町歩く度〜」
本当そんな話ししてたのですww
それと虫嫌いの廉造へ芋虫チョコあげたかったww
こんなんでも好きなんよ廉造(笑)



2012/02/10




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