罠にかかったウサギ




「なぁなぁ○○ちゃん。ちょっと俺の頼み聞いてくれん?」


そう廉造に声をかけられたのは、私が中庭のベンチでお弁当を広げていた所だった。


廉造と私は同じ祓魔塾に通う訓練生なのだが、塾ではなく、こっちで会うなんて珍しいなって思った。

”ん、とりあえず隣ええ?”と廉造は購買で買ってきたパンを私に見せる。

広げていたお弁当を寄せ、廉造が座れる様に場所をあけてあげた。

”おおきに”って笑顔で言う廉造に、その時から私は気付かずに罠にかけられていたのかもしれない。




廉造にお昼休みお願いをされて、その放課後。

今日は祓魔塾がお休みだったのだけれど、とりあえず何故か私は調理実習室に呼び出されていた。

そして、目の前に広がるのは食材の山……


「○○ちゃんにお願いてな、お弁当作って欲しいねん」

「え?お弁当?」


この食材を見て《料理》ならわかるが、《お弁当》という単語に私は疑問が浮かぶ。
不思議そうな顔をしている私に廉造はまた続けた。


「今、《弁当男子》て流行っとるやん?可愛い女の子にモテるんは、俺もその流行に乗らんとあかんやん!」

「……アホくさ…帰る」

「ちょっ!待ってや〜○○ちゃん!○○ちゃんにしかお願い出来へんのや!」


何故頼んだのが私かというと…
”○○ちゃんいつも美味しそうな手作り弁当持って来とるから”
だそうだ。
なんで知っているんだろうかとも思ったけれど得に気にしていなかった。


「頼むわぁ!材料費は勿論俺が出すし、残ったら○○ちゃんのお弁当にしとって構わんから!」


と泣きついてくる廉造だった。

結局、最後には私がおれて、弁当作りの講師を引き受ける事にした。
私のお昼代が浮くのも助かる事だし。



そうして、塾がお休みの放課後限定だけれど、私と廉造のお弁当作りは始まった。



 +++++



始めはお弁当の材料代は廉造が出してくれていたんだけれど、途中から私も半分払う様になった。
私も作っては食べるので、何だか全額は申し訳なくなってきたからだ。

回は重ねるもので、厚焼き玉子も巻けなかった廉造は今では綺麗に巻けるように上達している。
ふわふわとした綺麗な厚焼き玉子を焼くにも難しく、馬鹿には出来ないのだ。


塾が休みの時には廉造とお弁当作りをするのが習慣となりつつあり、休日も一緒に買い出しに行く事も多くなっていた。



そんな時、たまたま燐とお昼が一緒になって食べる事になった。
燐のお弁当は相変わらず美味しそうで一口貰ったり料理の話で盛り上がった。



「なぁ、○○と志摩って付き合ってんのか?」

「!!?」


ゴホっ!ごほっ!

急に来た燐からの直球な質問に思わず噎せてしまった。
飲んでいたお茶を吹き出さなくて本当よかった………


「……なっ!そんな事ないよっ!」

「そうなのか?いや最近よく一緒なの見かけるし、たまに一緒の弁当だったりするだろ?俺そうなのかなーって思って」

「そ、そうなんだ…そんな事ないよ…(そんな風に見えてたんだ……)」


廉造と一緒には居たけれど、《付き合う》なんて考えた事なかった。

相変わらず女の子好きのどすけべだし、ヘラヘラしてる廉造だよ……?

けど………何だか最近放課後の時間を楽しみにしている私がいて、次は何にしようかな、とか今度出かけた時はあれを買ってみよう…なんて待ち遠しくなって………
一緒に居たから当たり前みたいになってた…けど。

自問自答をしていたら、あれ?とおかしな事に気がついてしまった。


その日の放課後も一緒に作る約束をしていたのだけれど……

燐に聞かれて気付いた気持ちに自分自身凄く戸惑ってしまって、

私はいつもと様子が変だったんだと思う。明らかに。


普段しない様な、モノをひっくり返したり器を割ったり……
仕舞いには


「アッツッ!」


火傷だ。


「○○ちゃん!早う冷やさな!!手貸しぃ!」


隣に居た廉造は私の手を素早く取って、水にさらしてくれる。


「ぅっ…染みる……」


火傷で水が当たる度に手がヒリヒリと痛み、顔が歪む。
火傷なんてヘマをしたことが無かった私に流石に廉造も気付いたらしく、


「今日の○○ちゃんなんか変やわ…大丈夫なん?」


と、近くで顔を覗かれて、何処か見透かされたかの様な言葉にドキっとした。

そんな廉造に、私はまた思い出してしまって、顔カアっと赤くなったのがわかる。

思わず廉造が手に取って冷やしてくれていた、腕を思い切り引っ込めてしまった。


「……あ…だ、大丈夫! けど今日は何か調子悪いからゴメン先に帰るね!片付けとかゴメン!」


ヒリついた手を隠す様にしながら、何とも無いフリをして自分の荷物をがさがさとかき集める。


「送ってくで!」

「本当、火傷も酷く無いし大丈夫だから!」


と無理に廉造を言いくるめて慌ただしく調理室を後にした。

廉造に対してそんな態度を取ってしまった私は一体何をやっているんだろう……

((本当、どうかしてる))




++++++



昨日の夜は考え過ぎ眠れなくなってしまい、朝から私は欠伸ばかりにしていた。
昨日に増してボーっとしてしまい、授業も頭に入らないくらい、違う事が頭の大半を占めていた。



「○○ちゃん呼んでもろてもええかな?」



自分の名前が聞こえたと思って声のする方へ目をやれば、教室の入口に悩みの元である廉造がいた。

無意識に身体を隠そうと机に突っ伏するが、バッチリ目が合ったので無理だろう。

内心気まずい思いをしながら廉造の方へと足を運ぶと”お昼食べいかへん?”と笑顔で誘われた。
此処で断るのはもっと微妙だったので、一緒に外に食べ行く事にした。

廉造も何も言わないで前を歩いて行くものだから、私はますます気まずいと思っていた。

いつものベンチに腰掛けると、先に口を開いたのは廉造だった。


「昨日の火傷大丈夫やったん?手、見してみ?」


と、私が昨日火傷してしまった手をとって傷を見るようにする。


「痕残らんとええけどな…女の子の綺麗な身体に傷つけたらあかんよ〜!気ぃつけんと!」


廉造はへらっと笑って”それからな”


「はい、これ昨日の○○ちゃんの分の弁当や」


と私にもお弁当を手渡す。
昨日は作りかけで出てきてしまったから、今日は購買で済ませなければと思っていた所だった。


「あ、ありがとう。傷も…気をつける」


廉造にお礼をいい、私はお弁当を開ける。
その小さな箱に入っていたのは、種類も豊富で手の込んだおかずの品々が綺麗に詰まっていた。


「これ!……あの後一人で作ったの?」

「おん。頑張ったと思わへん?褒めたってや〜」


二人で練習し始めた当初とは比べ物にならないくらい、凄く綺麗な出来なお弁当がそこにはあった。
その綺麗なお弁当に凄く嬉しくて感動していたのだけれど、本当に廉造が作ったのか…と疑ってしまいそうになるくらいだった。
それと共に、寂しい感情が私にうまれる。


「ほんと凄いね!もう立派な《お弁当男子》だよ!女子にもモテるかもね!……それじゃぁもう私の役目も終わりかな…」


こんな綺麗なお弁当を作れる様になった廉造に何も教える必要なんてないんじゃないか、と思ってしまった。
それは、放課後の練習の時間も終わりを意味する。
楽しいと思えてた時間が無くなってしまうのかと考えたら、私は凄く寂しくなった。


「そんでな、俺…○○ちゃんに謝らんといけん事あんのや……」

「謝ること?」

私は、急にそう言い出した廉造に、何を謝るのか見当がつかないでいると”おん。怒らんとって聞いてや?”


「全部計算やってん」


”堪忍な!!このとーり!!”
隣で深々と頭を下げている廉造。


バチーーーン!!


「いっっ…たぃわぁ!!」

「どういう事だか!ちゃんと説明して!!」


その頭を叩かずにはいられない様な廉造の言葉に私は訳がわからなかった。


「今のメッチャ効いたで!!堪忍言うたやん!」


”やっぱ怒らはるわな…”と言ってくる廉造に私は”それはそんな事言われたらね!”と返す。

怒り出した私に悪いと思ってるのか、廉造は歯切れを悪くしてどういう事だったのか説明しだした。


「えぇと、そのな……俺。
クラスも違うし、塾でも話さへんし。……○○ちゃんとどうにか仲良うしたかってん。
そんで○○ちゃんの綺麗な弁当たまたま見てしもて、
”こないな美味そうな弁当、俺にも作ってくれんかな”て食べとうなったんもきっかけで……
弁当男子て流行とるし、弁当作り教えてもろたら、一緒に何か出来るし手作り弁当食えるし一石二鳥や考えて…」


バチーーーン!!


「いっっ!!また叩かはってッ!」

「じゃ、女子にモテたいってのは?」


廉造を叩いた手がじんじんとするけれど、私はまだイライラが収まりきれずにムスっとしながら廉造にきく。


「そりゃぁ、もちろ…いややや!それはそれや!それがメインやないし○○ちゃんやないと意味なぃ!」


ギロリと睨めば廉造は慌てて手を横に勢いよく振って否定する。


「じゃぁ、最初に探しに来た時も計算の内で、全部嘘だったと??」

「嘘も方便いうやんか!ほんま堪忍やて!!」


”嘘言うてすまん!上手くいくと思ってなかったん!”


「ほんまのほんま、○○ちゃんと仲良うなって、○○ちゃんの傍にいたかってん!」


「・・・やし、仲良う傍におったら、俺のこと意識してくれんやろ?」

「……え?」

「そらあんな態度取られたらわかるで〜!好きな子の変化くらいわからんと!」

「っっ〜〜〜!!」


”あってるやろ?”て《どや顔》で言ってくる廉造に私は顔を真っ赤にした。




私は気づかずにまんまと、罠にかかってしまっていた。


始めから仕掛けられていた計算高い罠に。


そんな廉造の言うとおりに、意識してしまったんだから仕方ない。



 私は廉造の事が好きなんだっていう気持ち。



確かに、前と同じ関係で一緒に傍に居なかったら、意識しなかったかもしれない。

けど、まんまと嵌められて廉造を好きになったのが悔しすぎるから絶対に私からは言わない!!


バチーーーン!!


とりあえず《どや顔》の廉造をもぅ一発叩いておいた!




。。


「○○ちゃん。これから俺の為に毎日弁当作ってくれん?」

「自分で作れーーーっ!!」

「ヒドっ!俺の愛の告白を!」

「もーー!ホント知らないっ!!!」


。。






廉造お弁当はなし。
こんなに計算高くないと思うけど、ヒロインの事は凄く見てて、どうにか関係をかえたいなと考えてついた《嘘》
ヒロインに好かれたいけれど、わざと「女子にモテたい」と廉造らしい事を言っちゃう気がする。
始めはホント一緒に居れればよくて、意識してくれたら尚いいな…
て思ってた所が、ホントに好きになってもらえて本人もビックリ。

ヒロインも廉造の嘘の罠にかかっちゃうわけですよ!
オオカミ少年と罠にかかったウサギ

まんまと嵌められて好きになっちゃうけれど、悔しいので言わないのです。
よく見てる廉造はヒロインが意識してくれたからもう直球!好きとか普通に言っちゃって困られそう。

後日、お弁当は廉造がバツとして毎日作らされてたらいいww


2012/02/06





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