テニス部に着くと既に他の女の子達は集まっていて、皆そわそわしていた。部室の外で待機するらしく、まだテニス部員は見えない。しかし集まっている子が揃いも揃ってみんな可愛いので、私の胸が高鳴った。私が男だったらここにハーレムを築くのに…。しかし気合いを入れすぎて数人はかなりケバい顔になっていて、心底勿体無いことになっている。今すぐにでもメイクを直してあげたい。だてに私も長年リア充に紛れてきたわけじゃないんだ。今のメイクよりはマシになるはず。というか今時の中学生ってつけまとかするのね…。知らなかった。

ぼへーっと感心していると、部室から幸村と柳くんが現れた。ひゃあ!と近くで女の子が秘かに喜んでいて微笑ましい。確かここにはファンクラブに入っていない子が集められたみたいだけど、それでもやっぱり殆どの子が二人に見惚れていた。…言っちゃ悪いけど、皆レギュラーのイケメン軍団が目当てです、と顔に書いているようなものだった。目付きが違うもの。こういうことに敏感に気付いてしまうのは、やっぱり同じ女だからだろうか。しかしそんな子達がなんでファンクラブに入っていないんだろう?というかファンクラブに入ると何かいいことがあるのか?謎は深まるばかりだ。

幸村部長は女子達を一瞥すると、じゃあ簡単なテストをするから来て。と私らを案内し出した。柳くんは集団の最後尾に回り何かノートをつけている。記録係か何かかな。
テストとか言ってたし、テニスについて聞かれたら間違いなく私落ちるだろうなぁ。ルールもあまりよく分かっていないし、テニスといえばテニプリ以外に松岡○造くらいしか出てこない。綾香ちゃんには悪いけど、きっと全力でやっても落ちる。そのときは素直に謝ろう。

そして連れてこられたのはテニスコートだった。部員数が多いから平部員達のコートかな。何をするのか疑問に思えば、幸村がさらりと内容を口にした。

「今から30分間、2チームに分かれてボール拾いをしてもらうよ。疲れたら休憩を取ってもいいから。チームは適当に決めてね」
「俺達も練習があるのですぐに抜けるが、ちょくちょく顔を出す。お前達は球拾いに専念してくれ」
「何か質問は…無いみたいだね。それじゃあ頑張って」

そう言い残すと、二人はすぐに他のコートに消えていってしまった。え、それだけですか。というか放置ですか。皆もそう思っていたみたいで、どうしようかとオロオロしていた。まあここでうだうだしていても仕方無いし、と適当に半分に割って直ぐ様コートに入った。部員の人たちに挨拶をして、なかなかのボールの多さに驚きながらもこれくらいなら私も出来るなと必死に球を追いかけた。隣で綾香ちゃんも黙々と作業をこなしている。
なんかこの汗臭さ、青春っぽくていいじゃない。と若干楽しくなりながらいっぱいになってしまった籠を運んで汗を拭う。するとふいに、同じチームの子達の会話が耳に入ってしまった。

「ねぇ…やっぱりこれって体力テストだよね?」
「うん、間違いないよ。30分球拾いさせて私達の体力あるか見てるんだよ」
「…だよね。…じゃあ最後まで疲れてないほうがいいってことだよね…?」
「…うん。なるべく体力温存して、幸村くん達が来たときは全力でやれば…」
「…それにチームの子、なんか頑張ってくれてるし…」
「ちょっと今は手、抜こうか…」

ヒソヒソと話しているつもりらしいが、丸聞こえだった。それから彼女たちは女子お得意のやっているフリを始めた。いや、ちょ、その演技はバレバレなんじゃ…。しかし良いことを聞いた。これが体力テストなら、私はバテバテに疲れきって使えないアピールすればいいんじゃないか。健気に頑張っている綾香ちゃんを疲れさせるのも何だし、私が張り切って球を拾いまくれば綾香ちゃんも受かって私も落ちて、一石二鳥じゃないか!
そうなったら後は実行するだけ。とにかく球を追いかけて追いかけて、追いかけまくった。体を思いきり動かすのは気持ちが良くて、しばらく私がどうしてこんな所にいるのかすら忘れてしまっていた。そして綾香ちゃんに終わりみたいだよ!と言われるまで、幸村達が集合をかけていることに気付けなかった。

「名前ちゃん、汗だくだよ…。タオル使って?」
「わ、ありがとう!つい夢中になっちゃって…。犬の気持ちが今ならわかる気がする」
「あははっ!名前ちゃんってば〜。名前ちゃんお手っ」
「ワン!…って何やらすんですか綾香さん」
「えへ、ごめんね?」
「…!!!い、いいよ…!」

やっぱり可愛いは正義だよね!マジ綾香ちゃん天使。可愛い。私のアイドル。私が男だったらとっくに抱いてるわ。ふわふわした自前の茶髪やぱっちりおめめが本当に抱きしめてあげたくなる程可愛い。私友達に恵まれすぎてない?

一人で誰に向けるでもなくいいだろ?この子私の友達なんだぜ?とドヤっていると、次の課題が課された。内容は何てことのない、ドリンクを作ったり洗濯したりといったもので、普通にクリアする。そしてそれが終わると、最後にまた部室前に集められた。

「じゃあ、これで最後ね。俺らのテニスで好きなところを一人ずつ言ってみて」

すると、疲れ気味だった女子達が一斉に目に光を宿し、それはそれは熱心に彼らが素晴らしいかを語っていた。幸村の無駄の無いしなやかな動きがいいだとか、常勝を掲げたテニス部の一致団結しているところが好きだとか、丸井のテクニックに魅せられたとか、まあ言われて嬉しいだろうことを他の女子たちは満足げに口にしていた。残るは私と綾香ちゃんだけだ。

「君は?」
「…ええと、特にはありません」
「え!?」
「あなたじゃあなんでマネージャーなんか志望してるの!?」
「はは、いいよ別に。そういうの求めてるわけじゃないしね。…じゃあ最後、君は?」

まさかの綾香ちゃんの答えに皆騒然とするが、本人は至って真面目なようだし幸村も柳くんも全く気にしていないみたいだった。私はびっくりしたけどね。本当になんで綾香ちゃんマネージャー志望したんだろ。
そして私の番がまわってくる。私は皆みたいにかっこよく纏められないから正直に言うよ。

「私は真田くんの風林火山が好き。理由はかっこいいから。以上」
「ふふ、真田が聞いたら喜ぶかもね。…うん、じゃあテストはこれで終わり。結果は明日直接言いに行くから、そのつもりで頼むよ」
「ああ。ではお疲れ様。解散だ」

やっと解放された!
きっとあの結果だったし向こうも考慮してくれるはずだから、私は明日から胸を張って文芸部に顔を出せる。
じゃあ帰ろっか、と綾香ちゃんと顔を見合わせて、私達はいち早くその場を抜けたのだった。


(テストを受けました)
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