「わけがわからないよ…」
「わけが分からないのはこっちだよ。どうしてそうなったの」
「普通気付くでしょ。名前ちゃんボケのつもりなの?」
「ひどい!!だって知らなかったんだよぅ!!」

あれから文芸部に顔を出し事情を説明すると、二人にハァ?という顔をされてしまった。それもそのはず。
私がノコノコ着いて行き入部届けまで出してしまったのは、なんとテニス部のマネージャーになるためのものだったのだ。何なのそんなん知らないよ!興味もないよ!
二人曰く、今年はどうしてもマネージャーが必用で、ファンクラブに入っていない2、3年を集めていたらしい。それでも人数が多くなるから何故かテストをするらしく、とりあえず今日は候補を集めたのだそうだ。何なの。テニス部なんなの。

「私マネージャーなんてやりたくないよ…」
「じゃあなんで入部届け出したの!馬鹿でしょ!」
「だだだだって目の前にはイケメン、隣には美少女だよ!?それに早くしろって見られるんだよ!?耐えられないよ後よく分からなくて流れに身を任せちゃいました」

実質年下に怒られることになるとは…。でも、可愛い子のきらきらの期待してるね目線を食らって拒否できるわけないじゃないか。可愛いは正義。これ世界の理だからさ…。私悪くないよね!

「はあ…。まあ、過ぎたことは仕方ないよ。やりたくないなら明日テストで落ちればいいだけだし」
「あっ巴ちゃん頭いい!そうするわー!よし解決!冊子見せて〜」
「うわ現金…。はいこれ、明日受からないといいね」
「うきゃああありがとう!ホヒヒ…これはうむ…素晴らしいですな…成る程こういうカプね…うむうむ」

冊子は思ったよりも分厚くて、そしてなかなかのクオリティだった。この子達本当に中学生…?今時の子レベル高くて落ち込むわ…。でも美味しいからどんどん描いてほしいな!ウフフ!

「名前ちゃんやっぱその見た目でそういう発言すると違和感あるよ」
「そのうち慣れるよ。ねぇ仁王受け無いの?」
「あるよー」
「いヤッホゥ!私もそのうち参加するね!」
「ほんとに!?楽しみー!ところで今日柳くんと話したんだよね?なにか言ってた?例えば赤也くんについてとか」
「ファッ!?私もその二人大好き!でも柳くん事務的なことしか言ってなかった!きっと私みたいなモブより赤也くんと話したいんだよねわかります!」
「いや柳くんは真田くんとだろJK…」
「やばい戦争はじまる」

こんな感じで私達の話は下校時間ギリギリまで続いた。途中何回か言い合いしたけど。まさか1日でこんなに仲良くなれるなんて思わなかったなぁ。同じ趣味だとこんなに仲良くなれるんだね。前の私ももう少し勇気出していれば良かったな。

明日はまぁなんとかなるでしょ、と足取りも軽く家路についたのだった。


「それにしても腹が減った…」

そういえば私は昼御飯を食べていない。午前中で帰るつもりだったんだから当たり前なんだけど。コンビニでなにか帰り道につまめるものを買おうかな。場所は通学路の途中にあったのを確認済みだ。

「いらっしゃいませー」

店員の声と共に店内を見渡す。ううん、何食べるか迷うな…。スナック系かチョコ系か、それともいっそコンビニスイーツにするか。ぐるぐる回って結局私が手にしたのは、酒のつまみでお馴染みのチー鱈だった。くせで酒まで購入しそうになってあわてて誤魔化した。危ない危ない、今は中学生だった。酒なんか見てるだけで怪しまれちゃうよ、全く不便なものだ。

まあチー鱈だけでいいか…と踵を返しレジに向かおうとすると、ドン、とあろうことか人にぶつかった。びびびびっくりした!

「すっすみません!」
「いや、問題ない。さっきぶりだな」
「え、」

恥ずかしー!と勢い良く頭を下げていると、思わぬ反応が返ってきた。…ん?あれ、この声はもしかして、と顔を上げると、やはり予想した通り柳くんが微笑んでいた。…柳くんが何故コンビニに!!寄り道とかするタイプなんだこれはいい情報を手にいれた!

「柳くん…、意外だな柳くんがコンビニなんて。私のこと覚えててくれたんだ」
「今日は部活の後輩に奢ると約束していてな。…フッ、それにしても名字、随分といい趣味をしているな」
「…あっいやこれは!」

奢りとかもう100%赤也くんですねありがとうございます!!ちらっと店内を見渡せば、カラフルな髪の色がチラチラと見えた。なんだお前ら部活ぐるみで来てんのかよ仲いいなありがとうございます!そんなことを1秒くらいで考えていたら、柳くんの視線が私の手元に。やばい、私が持ってんのチー鱈じゃんか。オッサン丸出しじゃんか。明らかに柳くん笑ってるじゃんか!うわああやっぱ無難にお菓子にしとけばよかった!酒のつまみ買う女子力高そうな(見た目だけ)JCなんて確かに見たくないよね!ごめん柳くん!

「…チー鱈美味しいよ。オススメ」
「ああ。だからいい趣味だと言っているだろう」
「ふ…柳くんもいけるクチか…。…あ、そうだ」

なんかもういいかな…と綺麗に微笑む柳くんを見て思った。この人相手に誤魔化しは通用しない気がするし。
それよりも折角柳くんに会えたんだから、今日の入部届けは無かったことにしてもらえばいいじゃないか。綾香ちゃんがいるところでは断りにくいし、テスト受けるのも面倒だし、我ながら冴えてる。

「入部届けのことでちょっと話が…」
「柳せんぱーい!俺やっぱからあげくんに決めましたー!…ん?この人誰ッスか?」
「ああ、マネージャー志望だ」
「…ふ〜ん」
「あ、いや!あの!それなんだけどっ」
「話は聞こう。だが店内では迷惑になる。買ってから外で聞かせてもらおう」
「あー、うん。わかった…」

あ か や キタ!!!やっぱり後輩って赤也のことだったのね柳くん!しかも私と話してるってわかってからあからさまに赤也の顔歪んだし!嫉妬か!嫉妬だね可愛いね赤也!大丈夫、私は用がすんだら帰るから。あなたの柳くんを取ったりしないから!うわあー、これは後で二人に報告だな…!

チー鱈だけ持ってレジに並べば店員さんに妙な顔をされた。もういいよ、変なのは認めるからやめてよその顔。地味に傷付きながらコンビニを出ると、数人の男子がたむろしていた。
DQNかと思ったらあらびっくり、テニス部の方々でした。ウワアアアア!本物!本物がいる!ひえええ仁王と柳生がなんか絡んでるし丸井とジャッカルはいつも通りだし真田は注意してるし幸村微笑んでるてか美少年すぎてびっくりだわこんなん存在してていいのか!!というか真田も一応こういうとこ来るんだと見ていたら目が合ってしまった。ドキンコ!ぎゃああなんか気付いたら皆に見られとる!やめ、やめろん!めっちゃ怪訝な顔してるし!居づらい!ああでもマネージャーに少しでもならない為にミーハーアピールしとこうかな。実際ミーハーなわけだし…

どうも…とだけ言ってこの場をどう切り抜けたら良いのか考えていると、タイミング良く柳くんと赤也が店から出てきた。赤也ってばからあげ片手に嬉しそうにしちゃって…。可愛いのう可愛いのう!…じゃない、私は用件だけ伝えてはよ帰らねば。本当はネタの宝庫だから背後からストーキングしたいけど、流石にね。捕まるしね。

「柳くん、さっきの続きなんだけど」
「ああ、待たせてすまないな。なんだ?」
「実はあの入部届けなんだけど、アレ手違いなんだ。私本当は違う部活に入るつもりで…。だから取り消してくれないかな」
「ほう、しかしなんでまた。2、3年にはマネージャーの件は伝えておいたはずだが」
「あ、いやぁその、私がぼけっとしてたっていうのと、友達の勢いに押されたってので…。だからお手数おかけしますが、どうかよろしくお願いします」
「ふむ…、だそうだ精市。どうする」

私が抜けてて流されやすいことを暴露してしまったが、まあそれは仕方ない。オタライフの為の犠牲ならそのくらいどうってことはない。奥で丸井と赤也がからあげの取り合いをしていて内心にやけていると、幸村に声がかかった。あ、幸村に決定権あるんだ。すごいな幸村さすが部長。

「えー、でも一応全員の技量は見ておきたいし、とりあえずは受けてよ。手はあまり抜かないでくれると嬉しいけどね」
「げっマジで。受かりたくないのに本気出せとか無茶言うね…」
「ふふ、明日我慢すればいいだけだよ。こっちも配慮はするからさ」
「……まあそれなら」
「ありがとう。こちらとしてはなるべく使える人が欲しいからね。君がどうかは知らないけど…」
「と、棘あるなぁ…。顔に免じて許すけど!それじゃあ私はこれで。じゃあねー」
「ああ、気をつけて帰れよ」

彼らの行動をひっそり脳に焼き付けながら、姿が見えなくなるまでは普通の女子中学生としてひたすら歩いた。そして高速でさっきの絡みをメールに書き起こし、文芸部の二人に送りつけたのだった。途中でつまんだチー鱈は美味しかった。


「…なぁ、今のってクラスにいた奴だよな?」
「名字…じゃったか。何度か話したことあるが、あんなだったか?」
「ああ、それは俺も思ったよ。随分と性格違うよね」

一方名前が帰った後のテニス部は名前のことで話はもちきりだった。喋ったことのある数人は以前との違いに首をかしげる。

「クラスでも全然タイプ違う奴らと話してたぜー?」
「…その名字先輩って人、前はどんなだったんスか」
「え?強いて言うなら…」
「「「ぶりっこ」」」

無表情で言い切る3人に若干ひきつる赤也だったが、思い返してそんな印象じゃなかった、と思い直す。

「……へー。確かに、そんな感じじゃなかったッスね」
「ああ。しかも彼女のおやつは酒のつまみらしいしな」
「酒だと!?」
「酒は当然買っていないが、チー鱈を購入していたぞ」
「チー鱈って!オッサンじゃねえのかそいつ…」
「うはは!んだそれウケる!あいついい趣味してんじゃん!つーか女子一人で買おうとする度胸がすげーわ!」
「人は見かけによらないとは言いますけど、彼女もそのうちの一人ですね」
「ふふ、明日が楽しみだね」
「…彼女は手違いだと言っているんだ。あまりいじめてやるなよ」
「わかってる。…それよりつまみっていろいろあるけど、皆何が好き?」
「俺サラミ!」
「さきいか」
「ビーフジャーキー一択だろ」

少しだけ名前について話し、それから酒のつまみ談義に華を咲かせるテニス部であった。話のネタになるだろう、くらいに思われていた名前が関わることになるのはまだ先の話だ。


(おつまみ美味しいです)
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