いよいよこの日が来た。

久し振りに制服を着て必要そうなものを鞄に入れ、鏡の前に立つ。ふむ、美少女はこんなOLみたいな制服も着こなすのか。すごい。感心しながらおにぎりを口に詰め込み一人頷いた。

今日から私は立海大附属の中学三年生だ。
また中学に通うとは思ってもみなかったが、なるようになれだ。帰り方も分からないし、今は流れに身を任せよう。何より好きなキャラがいるかもしれないのだ。ぶっちゃけるとわくわくしすぎて物凄い早く起きてしまった。ミーハー根性丸出しである。

調度いい時間になると、私は期待に胸を膨らませながら新入生の気持ちで学校へ向かった。うん、やっぱり道のりはしっかり覚えている。途中で声をかけてくれた綾香ちゃんという子が友達だということも自然とわかり、新学期早々ぼっちは免れた。綾香ちゃんめっちゃ可愛い。女子力高そう。

二人でクラス分けの表を見に行くと、私の名前が3Bの欄にあるのを確認する。えっ、ちょ、待、マジか!?!?3Bといったらあれだろ、あいつらいるだろ!とどきどきしながら名前欄を下に辿っていけば、やはり予想した通り仁王と丸井がいた。
キタアアアアアア!!!勝った!!私勝ち組すぎる!ウオオオオァ!
ポーカーフェイスを保ちながら内心大興奮していると、隣でクラス離れちゃったね、と綾香ちゃんが悲しそうにしていた。そしてあわてて平常心を取り戻す。こんないたいけな少女に悲しそうな顔させて無視できるほど私は腐ってはいない。残念だね、でも休み時間とか話そうね、と約束して私達は自分の教室へと向かった。

てか私、綾香ちゃん以外に友達いるのか。美少女ちゃんの記憶からは結局綾香ちゃん以外の仲いい子の情報は読み取れなかった。…もしかしてこっちの私、コミュ障?まあ新しく友達作ればいいかと軽く流しておく。

教室に入るとそれなりに人で埋まっていて、誰が誰なんだか全くわからなかった。が、自分の席が運良く一番後ろだったので、同族の匂いがする子を探す作業に撤することにする。まずは友達を作らないと話にならない。折角教室にイケメン二人がいるのだから、語らずしてどうするのだって訳である。
外見が大人しめな子をターゲットに、それらしきニオイがしないか注意してみる。鞄や携帯にアニメ系のグッズなんかついてたら儲けもんだ。すぐさま友達になりたい。
そんな風に思っていたら、教室の端で二人の女子が今週のジャンプが…と言っていたのが聞こえてきた。きた!天は私に味方している!!脇目もふらず、私は一直線に話しかけにいった。ぼっちとかマジ勘弁。

「ねぇあの、二人は漫画とか好きなの?」
「…えっ!?」
「名字さん…?」
「え、え?私は名字だけど…。なんか変なこと聞いた…?」

笑顔で話しかけたはずなのに全力で驚かれた。え、何それ悲しい。そんなに私の顔ひきつってましたか…

「あ、ごめんね。名字さんが漫画に興味あるとは思わなくて…」
「すっごい意外…!もしかして名字さん漫画好きなの?」

どうやら私の顔うんぬんの話ではなかったらしい。うん、まあ二人の気持ちは良くわかるよ。こんな女子力高そうな女子が漫画とか話しかけてきたら確かにびびるよね。以前の私なら確実にびびってた。こっちの私は漫画なんて少女漫画くらいしか持ってなかったし、二人の反応は正しいんだと思う。

「うん好き!なんかジャンプの話してたから気になっちゃって」
「ジャンプ読んでるの!?絶対少女漫画だと思った…!」
「名字さん、イメージと大分違うね…」
「私なんでも読むよ。絵柄選り好みしないし。最近はとらぶるとか好き。あ、ジョジョアニメやってるよね。見てる?」
「えっ、ちょw意外すぎて笑うわwww」
「名字さんのギャップ凄まじいwww」

本当は青年向けの話とかラノベ系の話もできるけど、彼女たちが読んでる可能性は薄いからやめておいた。ジャンプって言ってたしジャンプの話で問題ないよね。それにしても同士いてよかったわ…

「すまんこすまんこ。でさ、もしよかったらなんだけど、私と友達に…」
「ブフォwwwwwwそれ女子が言う台詞じゃないからwwwwww無表情やめwww」
「名字さん変wwwウケるwwwもう友達なろう!大歓迎!私木下巴。よろしく!」
「私は小島弥生。よろしく名字さん!」
「お二人とも草生やしすぎですよ。私は名字名前、よろしく!」
「「知ってる」」
「エッ」

大統領ばりの笑顔で手を差し出したら、同じく素晴らしい笑顔で手を握り返された。おお…眩しい…。というかそういやさっきから二人共私の名字連呼してたけど、もしや私って有名なのか。生徒会とかだったりして。

「…なんで?私は今二人のこと知ったばかりなんだけど…」
「え…、いやだって、名字さん結構噂になったりして有名だよ…?」
「噂?私なんかやらかしたの…?」
「私まさか本人に聞かれるとは思わなかった…。え、言ってもいいの?というかむしろ真相教えて」
「私にわかることなら言うけど…。私なんで有名なの」

そう伝えると、二人は噂について教えてくれた。なんでも私は一年の頃に可愛いからと先輩にいちゃもんつけられたり、しょっちゅう付き合う男を変えていたり、友達の綾香ちゃんとしかつるんでいないのは他の子を全員見下しているからだとか、とにかくろくでもない噂ばかりだった。
はは、うける…。私めっちゃ嫌われてるじゃんよ!!嫌われとかそんな設定いらんわ!普通でいいです普通に暮らしたいですちくしょう!しかもなんだかこちらの私はどうもぶりっこが入っていたらしく、基本的に目立つことはしなかったみたいだが、記憶によれば何人かの男子と付き合っていたようだ。リア充爆発しろよ。…が、これは厳密に言うと私であって私ではない人の事実なので、彼女たちには曖昧に答えることにした。

「そうなんだ…。確かに付き合ったことはあるけど、見下してなんかいないよ!私ちょっとコミュ障だっただけで…」
「コミュ障…?」
「う、うん。でもそれじゃダメだと思ったから中三デビューしちゃいました的な…」
「へえー、だからこんなに印象違うんだ。でもデビュー後名字さん、とっつきやすくていい感じだよ!」
「うん、話しやすい!全然コミュ障に見えないよ!大丈夫!」
「ありがとー!よかった〜、不安だったんだー」

あぶね!いきなり話しかけて友達とか言う奴がコミュ障とか何言ってんだってなるよ!私のバカ!結果的に信じてくれたみたいだから良かったけど…
そんなこんなでずっと話していたら、いつの間にかホームルームの時間になっていた。うほっ!仁王と丸井いるじゃんうほほ!眼福ですな、と自分の席に戻り、始業式までの自己紹介タイムをどう切り抜けるかで、すぐにイケメンどころの話じゃなくなる私だった。こういうの苦手なんだよ!


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