妄想に時間を費やしていれば授業なんてあっという間なもので、この6時間目が終わる頃には丸井×仁王の小説が一本出来上がりそうだった。一見ノートを取っているように見えるし、たまに前を向くから(丸井と仁王の観察のため)授業を聞いているようにも見える。まさに神の遊びだと言えるだろう。受け側である仁王とは全く関わりが無いし、罪悪感を感じずに書けるのも私にとってはありがたい。かまってちゃんな仁王マジ天使だわと、頭の中で丸井に甘えている仁王の台詞を考えながら順調にオチまで筆を滑らせていく。チャイムが鳴る頃には我ながら素晴らしい作品が出来上がっていた。

「…私天才かもしれない……」
「はぁ?いきなりどうした」

ホームルームが終わると速攻で二人のもとへと向かう。恥ずかしいけど完成したらやっぱちょっと見てもらいたい。なによりブンニオ増えろってことで布教しなきゃなんないしね!

「いやぁ、中々にいいものが書けちゃって…。よかったら読んでくれるとウレシイナ///」
「なにその演技。読むけど!…あー、ブタとヒヨコね。名前ちゃんヒヨコ推しだもんね」
「もーブタに甘えるヒヨコ想像しただけで右手が勝手に動いちゃって…!!皆も書いていいんだよ?」
「気が向いたらね。部室で読むわ」
「文章へったくそだけど愛だけは詰まってるから!じゃあ私用事済ませてすぐ向かうね!」
「あとでねー」
「早めにねー名前ちゃん」

じゃあ!と言い残し、早歩きでテニス部へと向かう。ちなみにブタとヒヨコってのは丸井と仁王です。教室じゃ流石に名前は言えないから隠語を使って話しているというわけだ。…別に悪口じゃないよ。
一刻も早く萌え語りしたい一心で廊下を突き進み、角を曲がろうとする。…あれなんか人影、が

「うぶっ」
「ん」

ストップをかける前に人にぶつかってしまった。またか。曲がり角でぶつかるとかどんな少女漫画だ。

「すみません」
「いや、お前さんこそ平気か?…名字、だったか」
「………。平気だよ。ありがとう仁王くん」

目の前には、銀髪の天使がいました。

うわあああまさかの仁王だった!!!何!なんでぶつかるのテニス部なの!なんかの呪い?どういうことだ!!いやそんなことよりどうしよう。仮にも私が愛してやまなかった(同人的な意味で)あの!!あの仁王が目の前にいる。話しているのだ。なんてこったい!今にも私の心のチ○コが爆発しそう。泣かせたい色んな意味で泣かせたいよこの天使…!!!というか純粋に嬉しい。ファンとしてはお話しできて光栄です!まあフラグを立てる気はさらさら無いからすぐに立ち去るけどね。

「ぶつかってごめん。じゃあね」
「ちょお待ちんしゃい」
「!?え、いや、私テニス部に用あるから無理」

横を通り過ぎようとすれば何故か肩を掴まれ引き止められた。…いや、なんで?もう用は無いよね?それともぶつかっといて謝罪だけで済むと思ってんのかアァン?ってことですか。それはそれでなんか面白いからいい気もするけど、やはり必要以上に絡むのは良くない気がする。女子の嫉妬的な理由で。最悪股間蹴って逃げるか、と考えながら仁王に向き合った。仁王なら前が使えなくなっても大丈夫だよきっと。

「俺もテニス部じゃ。どうせ同じとこ行くんじゃ、一緒に行かん?」
「えっ…」

だが断る。仁王とおしゃべりとか嬉しいは嬉しいけど、やはり私は我が身が可愛いわけでして。ましてや女好きそうな仁王はあんまり求めていないわけでして。だけどうまい言い訳が思い付かなくて言い淀んでいると、仁王が更に続けた。

「ブンちゃんが掃除当番で俺一人なんじゃ。さみしーから、な、ええじゃろ?」
「いいよ!行こうか!!」
「ん、あんがとさん」

あっさり落ちてすみませんでした。
いやでもだって、これ仁王丸井に片想い説有力じゃない?私うまく行けば仁王のホモ恋愛相談に乗るって言う美味しすぎるポジションに着けるんじゃない?やばくない?これやばすぎない?そうとなればもう、女子の目とか気にしてられないよね!!!
出来る限りの最高の笑みを浮かべて仁王と歩き始めた。

「仁王くんは丸井くんと仲良いんだね」
「んー?まあ、悪くはないのぅ。なんでまた」

悪くはないってよ。照れ隠しをしている確率92%だからもう好きってことでいいかな。いいよね。

「だって丸井くんいなくて寂しいんでしょ?丸井くんのどういうとこが好き?」
「?…ノリ良いとことか好きやけど…」
「そっか。ふふ、ブンちゃんって呼び方も特別な感じでいいね。男子ってやっぱりいいなぁ」

ほんと、男子っていいよね!
仁王のちゃんづけ呼びとかもう萌え要素でしかない。私の猫かぶりが気持ち悪いけど気にしたら負けです。

「そーかのぅ。なんじゃ、名字はブンちゃん好きなんか」
「は?それはない…あ、いやっ、丸井くんカッコイイよね!仁王くんももちろんかっこいいよ!」

やっべ、なるべくフラグ回避する為にミーハー女子になりきってるのに本音出しちゃダメだろ私…。仁王はかっこいいというよりは可愛いよ!言わないけどね!

「ありがとさん。…名字、なんか前と雰囲気変わったのぅ」
「え?そう?私のこと知ってたの?」
「何度か話したことあるじゃろ」
「…そうだっけ?それにそこまで変わってないよ、気のせいじゃない?」
「…まぁええけど」

前の私ってば仁王と接触してたのか…。あまり納得していない様子の仁王をみてから記憶を引っ張り出せば、確かに数回話をしていた。…まあ雑談程度だし覚えていなくても問題ないだろう。
その後もなんてことのない雑談をしながら歩いていれば、すぐにテニス部に着いてしまっていた。

「仁王くん、幸村くん居るか見てもらってもいい?着替え中だったら悪いし」
「ええよ。幸村ーおるー?…外に女子来とる…、ああ、了解じゃ」
「いたの?」
「中入ってええって」
「そっか。ありがとね」

仁王の尻尾可愛いな…と引っ張りたくなる衝動を抑えていると、中に入る許可が降りた。さて、仁王の気持ちも確かめたしとっとと入部届け受け取って文芸部へ向かおう。失礼しますと扉を潜れば見知った顔がこちらを向いた。…あれ、綾香ちゃんも呼ばれてたんだ。

「名字さん、来てくれたんだね」
「えっ、うん。まあ…」

怖かったし…なんて言えないから曖昧に返事をする。幸村はどうもヤバイ人物のイメージが強いので警戒してしまう。私だって儚げ王子な幸村だったらいいとは思うけどさ。なんかもう纏う空気が違うもの。迫力あるもの。ほんとに中学生なのかお前は。

「もう呼ばれた理由は分かると思うけど、改めて俺の口から言わせてもらうよ」
「はあ…」

呼び出してわざわざ失格って言い渡すとか…なんという鬼畜ぶり!やっぱりこの人ふわふわ幸村じゃないわ。魔界系の方だわ。もう関わらないようにしよう。

「名字さん、試験合格だよ。これからマネージャーとしてよろしくね」
「はいじゃあ帰りますお疲れ様で……
……えっ?」

幸村さん、いまなんと

「名前ちゃん、私も合格したんだよ!一緒に頑張ろうね!」
「…えっ、え!?」
「なんじゃお前さんマネなんか。よろしくの」
「え、いや聞いてない!てかなんで!なぜに合格!?幸村くんどういうこと!?」

私間違いだって言ったし試験も手抜いたよね!?なんで合格?不合格の間違いでしょ?だって私マネージャーやる気無いもの!予想外にも程があるよ!!何より受かっちゃったら私文芸部入れないんですけど…!

「何故って…君が成果を出したから合格したんじゃないか。何もおかしいことは無いと思うけど」
「いや…ちょ…」

ありまくるよ!私コンビニで断ったじゃん!!話聞いてなかったのかこんにゃろう!綾香ちゃんに聞かれるのはまずいので、幸村に近づき小声で話しかける。

「私間違いだって言ったよね?なんで合格なの、おかしいでしょ」
「俺なるべく使える人が欲しいって言わなかったっけ?」
「配慮するとか言ってたと思うんだけど」
「配慮はしたさ。でもやっぱり君と彼女があの中じゃまともだったから」

こいつ…何を言ってやがる…?私の意見ガン無視?不敵に微笑む幸村に勝てる気がしない。あれぇ、幸村年下のはずなのになぁ?おかしいなぁ?あれれー?

「……あの、辞退することは」
「一応できるけど…、それは困るなー」
「私も困るなー」

笑顔の攻防戦。なにこれこんなの続けたくない…。私が引かないでいると、幸村がまさかの追い討ちをかけてきた。

「でも君が辞めたら彼女一人になるよ?裏切るつもりなの?一緒にマネージャー頑張るんだろ?」

なっ、なんだこいつーーーー!!!盗み聞きしないでよいいとこついてくんなちくしょう!私が綾香ちゃんに弱いの知ってのことか…!!だけどここで引いたら負けだ。私のオタク生活がかかっているんだ。

「いや、たがら、そこをなんとか不合格にして私は落ちちゃったから他の部行くねみたいなことに出来ませんかね」
「出来ないよ」
「で、ですよね…」
「うん。じゃあほら、入部届け書いてね」
「いや…あの…私ほんと、使えないし…」

折れちゃだめだ折れちゃだめだ折れちゃだめだ…!いけ私、頑張れ私!お前なら幸村くらいかわせるはず!もう一押しするのよ名前!!

「名前ちゃん?どうしたの、入部届けはやく出そうよー」
「ほら名字さん早くしなよ」
「………うぃっす」

ダメでした。
結局彩香ちゃんの期待と幸村のプレッシャーに耐えきれなくて、私は言われるがままに名前を書いてしまった。なんて情けないんだろう…。それよりも私の文芸部…!!

「あの、じゃあよろしく…」
「よろしく。それじゃあ早速だけど仕事覚えてもらえる?一年が待ってるはずだから」
「うんっわかった!」

うん?私はわかんない。幸村はさっきから何を言ってるんだろう。てか私思いっきり関わってるよ嬉しいけど嬉しくないよ。限りなくだるいよどうしてくれるんだよ。

「…えっ?え?まさか今日から?てか今から?冗談だよね」
「ああ名字さんにはちゃんと伝えなかったからジャージ今持ってないよね。取ってきなよ」
「え?無視なの?ワロス…」
「名前ちゃん、先やってるねっ!待ってるからっ」
「あ、うん。了解…」

もう彩香ちゃんが可愛いからそれでいいかな…うん…。NLもぐもぐすればいいかな…。彩香ちゃん可愛いしもてるみたいだからフラグは立つだろうし。幸村にはなんか逆らえないし。こわ

「おまえさん意思弱いのー」
「うるせぇ尻尾野郎」
「ピヨッ」
「じゃあジャージ取ってくるね…」
「うん。行ってらっしゃい」

仁王にズバリ言い当てられてしまいイラッときたのでとりあえず八つ当たりしておいた。笑顔の彩香ちゃんと幸村に手を振り、私は重い足取りで校舎へと引き返す。ついでに文芸部に寄っていきさつを話しておこう。きっとまたハァ?って顔されるんだろうな。


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