まだ春先だというのに水着に腕を通して人気の無い海できわどい写真を撮った翌日。私は学園町内にある遊園地"メッフィーランド"に来ていた。
今日もくるみだとバレないようにイメージとは程遠い服装に身を包んでいる。茶色の髪は横に纏めてふんわりと巻き、チュニックにショートパンツ。レギンスを履いてショートブーティで纏めた女の子らしい服。メイクも雑誌の時にするような猫目メイクではなくほんのり垂れ目を意識したメイクにしてみた。付け睫毛もないしこれなら私がくるみだとバレるまい。そうほくそ笑んでいると後ろから名前ちゃん、と私の名前を呼んでラフな格好の志摩くんが近寄って来た。ルーズそうな顔なのに入口前の掛け時計を見れば待ち合わせ時間の五分前だった。
「わあ、気合い入っとるね。かいらしいわ」
「ありがと。時間前に来れるなんて偉いね、よしよし」
軽く背伸びして柔らかい志摩くんのピンクブラウンの髪を撫でてやると辞めて下さいよお、と擽ったそうに身をよじられた。
入口で二人分のチケットを購入して志摩くんに渡す。デートとは言えど学生の志摩くんに対し職業は少々アレなものの成人している私が色々負担してやるべきだと言って、チケットを購入すると言う志摩くんを言いくるめた。
「…おおきに」
少々不服そうな顔は完全には納得していないみたいだけど。
園内に入ると何だかやたらとこの遊園地のマスコットキャラである"メッフィー"ことヨハン・ファウスト五世氏の像や風船、看板までもがそこかしこにひしめいている。何か洗脳されてるみたい、なんて考えていると右を歩いていた志摩くんが私の手を取りきゅっと握った。
「何処から行きはります?」
「メリーゴーランド」
「うんうん、今日の服装によう似合うとる」
二人でメリーゴーランドに乗り込むと隣合って並ぶ白馬に股がる。志摩くんも同じ馬に乗ろうとしていたけど流石に其れは厳しいので遠慮させていただいた。
ファンシーな音楽と共に白馬が上下するアトラクションを堪能する。この歳になってメリーゴーランドに乗れるとは思わなかったのでちょっと嬉しい。
ふと隣の志摩くんを見遣るとずっと私を見ていたようでぱちりと目が合う。へらりと笑われたので笑い返すと頬を染めて顔を背けられた。アトラクションが終わると馬から降りるのに手を貸してくれた。
「楽しかったですか?」
「うん、メリーゴーランドなんて子供の時以来だったから」
手を繋いでミラーハウスやお化け屋敷を抜けていく。絶叫系はちょっと無理、と言う志摩くんを考慮してGO TO HELLと書かれたジェットコースターの看板を無視して映画館に入った。
「あ、この映画視たかったんだ。何か摘まみながら視ようか」
「名前ちゃんと二人きりで暗闇…!」
「ちょっと、変な妄想しないで」
途端に顔がへにゃへにゃになる志摩くんの背中を叩きながらハートフルストーリーを売りにしているアニメ映画のチケットを買い、ホットドッグや飲み物を頼む。志摩くんが食事の代金は負担すると言うので、大した額じゃないし…と大人しくお任せする。
ペアシートに二人並んで座り頼んだ飲み物や食べ物を分けあう。
早速ホットドッグにかぶりつくと志摩くんがにっこりと笑った。
「食いしん坊やねぇ」
「映画見ながら食事って苦手なの。うわ、このソーセージ肉汁すごい…」
「ブフォッ!」
暗くなっていく館内、遊園地に来て映画を見る人は流石にあまり居ないらしくまばらに散った観客の中他の映画の宣伝映像が流れだす。茹でたての太いソーセージを頬張るとじゅわりと滲み出した肉汁が熱くて口元を押さえると志摩くんが派手に吹き出した。
「…今のはあかんやろ」
志摩くんの呟きに内心首を傾けるが独り言のようなのでそっとしておいて、私はジュースに口に含み肉汁の熱さを和らげる。きっと宣伝映像に何か気になるのが映ったのだろう、私は全くスクリーンに目を向けていなかった為分からなかった。
時折志摩くんと会話しながら時間を掛けてホットドッグを食べ終えると映画が始まり、私の意識もスクリーンへと向く。暗い館内、遮るもの無く隣に座る志摩くんの腕が時折触れて温もりが伝わってくる。此処最近休み無しでコンビニと雑誌のモデルを掛け持ちしていたせいか強い眠気に次第に目蓋が下がって来る。
志摩くんの肩に頭を乗せてみると彼の身体がびくりと震える。丁度良い高さが心地好くて自然と意識が薄れていった。