神社に居る朔子ちゃんを呼びに行くと言って去って行った出雲を除いた七人に連れ添われぐちゃぐちゃになった私の屋敷で治療を受け取る。
真っ白な綿の布で覆われた自分の足が痛々しくて思わず目を逸らしてしまう。佳枝さんは未だ意識を戻さず雪男くんによればもう少ししたら起きるとの事だった。

そうして私は私の知らない全ての事実を燐や竜士くんから聞かされる。
私を襲った"何か"は悪魔と呼ばれる物怪の類だという事。
燐達はその悪魔達の魔の手から人々を守る為に異国では職業にもなっている「えくそしすと」というもので、刀で斬ったり種子島で撃ったり念仏を唱えたりして悪魔を退治するらしい。

「燐があちこちで傭兵に迎え入れられてたのはお偉いさんに憑いた悪魔を祓う為っつーわけだ」

三味線を教えているおじいさんからいただいた清酒を勝手に猪口に注いでいるシュラちゃんがぽってりとした唇の口角を上げて笑う。成る程、確かに燐が召し抱えられる家は何処もあまりいい噂を聞かない所ばかりだったのはそのせいだったのか。
悪魔は私達の欲望や心の隙間に入り込み言葉巧みに私達を騙して身体を乗っ取ってしまうらしい。私を襲った悪魔は模倣の技を心得ていたらしく、佳枝さんの姿形を真似たらしい。

「けど、どうして私が狙われたの?」

「コイツを狙ってるからだ。あとは…弱点、とか?」

今回の騒動の最大の疑問。何故私が襲われたのか、そう呟けばその答えをくれたのは燐で差し出された手には彼がいつも持ち歩いている刀が納まっていた。刀が目的なのも、弱点の意味も分からず首を捻ると溜め息を漏らして竜士くんが横から補足してくれた。

「奥村の使てる刀は京にある俺の実家の寺の本尊やねん、それ使て何か企らんどったらしいな。弱点いうんは…ほら、神木はおらんけど此処にいる皆は名前さんと仲良えやろ」

「ああ。悪魔達は竜士くん達が邪魔だったから私を人質にしようとしたのね」

竜士くんの説明のお陰で私が襲われたのも、この家が荒れているのも理解出来た。この家を荒らしたのは燐の刀がこの家に保管されていると思ったからだろう。佳枝さんが襲われてしまったのは憂うべきだが皆命があって良かった。
ほう、と息を吐き出して胸元に手を当て安堵する私は最後に残った問いも聞いてみる事にした。

「それじゃあ皆はどうして町から居なくなってしまったの?」

「それは私から説明致しましょう!」

この場に居ない筈の声がした。慌てて辺りを見渡すと縁側から薄紫色の犬と犬の頭に乗った緑色の小さな鼠が顔を出してくる。と同時に周りの表情があからさまに嫌そうなものへと歪む。え、皆どうしたの?
皆の表情の変化に頭を捻っていると犬と小鼠がぼふんと派手な音を立てて白煙に包まれ…次の瞬間には見覚えのある姿へと形を変えていた。

「メフィストさん!…それに、アマイモン、さん?」

「名前さん、この度は貴女と使用人をこの様な事態に巻き込んでしまって大変申し訳無い」

「そうだぞメフィスト!名前が怪我してんだぞ!!」

アマイモンさんと共に現れたメフィストさんは以前私が見繕った浴衣に通した腕を高々と上げたかと思えば右腕を胸元に添えて頭を垂れる。燐の怒鳴り声に首を傾けつつ再びメフィストさんへと視線を向けると彼は薄く笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

「一人でさぞ不安だったでしょう…心中お察します」

「嘘付け禿!町の住人を眠らせたのもお前の仕業だろーが!」

燐と入れ替わるかのように今度はシュラちゃんの怒鳴り声が響く。皆の刺さるような視線を浴びる中、私は一人再び胸中に疑問を抱く。何故メフィストさんは私に謝るのだろう?
草履を脱いで縁側から広間へと入って来る二人を迎え入れながら私はメフィストさんに聞いてみる事にした。

「何故私に謝るのです。メフィストさんは今回の件に関係してると?」

「このメフィスト・フェレス、本業は祓魔師の皆さんに悪魔退治の任務の斡旋を担っているのです。アマイモンはその補佐を」

「僕達が町を離れたのはフェレス卿から悪魔の討伐指示が出たからなんです」

診療道具が入った鞄を閉じた雪男くんがやっと口を開いた。つまりメフィストさんが悪魔を退治するよう指示を出して皆が町を離れたから、私を人質にして燐の刀を奪おうとした悪魔が私や佳枝さんを襲った…らしい。
ずっと笑っているメフィストさんの顔を見ているとその退治の支持もわざとだったんじゃないかと邪推してしまいそうになるが、其処は彼を信じてぐっと耐えた。

「名前さんも今日は休みぃ」

「え、…あ…でも…」

「今日皆此処に居っから、大丈夫だにゃー」

佳枝さんの隣に敷かれた布団へとシュラちゃんに無理矢理腕を引かれて潜らされる。薄い毛布を掛けられながら瞳を揺らせばシュラちゃんや燐に頭をわしわしと撫でられた。身心共に疲れているのか溶けるような睡魔が直ぐに訪れ、私の意識が靄に覆われていく。
遠くで出雲と朔子ちゃんの声を聞きながら私は眠りに身を委ね緩やかに目を閉じた。

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