AM10:30 奥村燐

学園が春休みに入ったからといって祓魔塾の授業も休みになるわけもなく、本日も午後から祓魔塾の実習と座学がこれでもかというくらいにみっしり詰め込まれている。長期休暇という都合のいい大義名分を得た私は本来住んでいる女子寮、ではなく付き合い始めてそろそろ半年になりそうな燐の幽霊の一体や二体や三体は出そうな旧男子寮の使えそうな部屋を一室間借りして住み着いていた。

「名前ー、おふぁよ…」

台所と風呂場以外で唯一使える水飲み場で洗顔を済ませ、歯ブラシに歯磨き粉を乗せようとした所で右肩に人肌の温もりと頭一個分の重みを感じる。既に雪男せんせーは出勤済み、クロも私があげた朝ご飯を食べた後外にふらりと出ていったから此処に居るのは私と恋人である燐だけだ。歯ブラシに白と青と赤の綺麗なストライプの歯磨き粉を乗せながら軽く首を捻って右後ろに視線を向けると、あちこちに髪が跳ねているし起き抜けでまだ眠いのか放っておいたら立ったまま寝るんじゃないかと思うくらい目が細められている。

「おはよう、ねぼすけ」

「ふぎっ」

洗顔を終えたばかりで冷え切った指先を頬をぴとりと宛がうと虚ろだった目が見開かれ右半身にくっついていた温もりが一気に離れる。残念、温かかったのに。

「あー、目ェ覚めた」

くあ、と大きな欠伸を一つ漏らしながら私の隣の蛇口を捻り水を両手に掬い顔を洗っていく燐を横目に見つつ私も歯ブラシを口に入れて軽快な音を立てて歯を磨いていく。相変わらず彼は寝癖が酷い。行儀悪く歯ブラシをくわえながら指を水に濡らし寝癖を引っ張って直していると眠たそうに垂れていた尻尾が頭を上げて私の腕に絡み付いてきた。何だ、犬みたいで可愛い。

「耳は犬っぽくないんだけどなあ」

「何の話だ?」

水に濡れた顔を上げて首を傾ける燐の首筋を水の雫が伝っていって少しだけドキッとする。何でもないと首を横に振って腕に巻き付く尻尾を外す。お気に入りのピンクのコップで口をゆすぐと首に巻いたタオルで口元を拭きつつ制服に着替えるべく階段を上がって行った。
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