・おかずの夢主と廉造の場合


「廉造ー、ケーキ決まった?」

クリスマスの夜は二人で過ごすと前々から決めていた為、夕方に家を出て二人で手分けして若者の聖夜にふさわしいディナーの準備にあちこち奔走していた。
駅の近くにあるファストフード店で予約していたクリスマスセットを受け取り廉造が居るケーキ屋の自動ドアを潜ればきらびやかなショーケースを睨み合う廉造の背中が其処にあった。

「悩んでるの?廉造ならちゃっちゃと決めそうなのに」

「そら俺かて悩みますよぉ?名前ちゃんの身体に塗るならバタークリームと生クリームどっちがええかいだだだだ」

「すみません、木苺のショートケーキと生チョコケーキ…あとレアチーズと抹茶ショート」

往来でとんでもない事をいい始めた廉造の肉の無い腰を摘まんで見た目が美味しそうなケーキを幾つか頼む。太りますよ、と漏らした廉造の呟きは彼のスニーカーを踏む私の足によって途中で苦痛に耐えながら吐き出した二酸化炭素と化した。

ケーキの箱は私が。クリスマスセットの箱は廉造が各々持って歩き、触れ合う手を繋いで至る所に電飾を施されキラキラと輝くイルミネーションを眺めながら私のマンションへと向かう。

「良かったね、塾のクリスマス会抜け出せて」

「ハロウィンみたいな大惨事は堪忍や、名前ちゃん奥村くんときゃっきゃうふふしよってからに…」

「男のジェラシーはみっともないよ」

手袋もせずに手を繋ぐ廉造の指先はほんのりと冷たい。指を絡めて緩く揺らす中で私の心の中は僅かな緊張感で満たされていた。
カツカツとヒールのあるブーツの踵でわざとコンクリートを蹴り、自分を落ち着ける為にいつもよりゆったりとした足取りで家路を歩む。

「来年はもっとやらしい名前ちゃんに会えますように」

「廉造が早く枯れますように」

「枯れたら困るん名前ちゃんですえ」

「うぐ。…廉造に口で負けるなんて屈辱的」

冬の冷たい風にアイロンで丁寧に巻いた茶髪が揺れる。イルミネーションは既に遥か後方、幾ら緩慢な足取りでも家にはもうそろそろついてしまう。いい加減覚悟を決めねばならない、エロ本のモデルをやっていても元彼に淫乱に仕込まれてもこの試みは初めてなのだ。

「クリスマスセットてチキンとシチューパイですよね。あーはよ食べたい!チキンが恋しいですわ」

部屋に着いて私がサンタのコスプレをするまであと五分。
今横で肉が食べたいと言っている筈の廉造がその肉やケーキよりも先に私を食べたいと言ってベッドにダイブするまであと六分。
若者達の夜は更けていく。



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