「にゃっはー面白かったぁ!」

「最後感動したねぇ」

八月八日、今日はシュラちゃんの誕生日。この日の為に祓魔師の仕事を全て休みにしてくれたシュラちゃんは、昨日の夜から大好きなお酒を我慢して頑張って早起きしてくれた。十時頃に家を出てぶらぶら街に出て歩き回り、少し早いランチにレストランでパスタを食べて学園町にある色んなお店をジャンル問わず見て回った。
夕方から映画館に入りシュラちゃんが見たかったという、とあるヤンキー漫画が実写化された映画を見た。各々複雑な事情を抱えた男子高校生達がすれ違いながらも不器用な友情を育む姿に感動して思わず目頭が熱くなってしまった。

「よし、名前!今日のメイン行くぞ!この時を楽しみにして、昨日は酒を我慢したんだよにゃー」

「シュラちゃんお酒大好きだもんね。居酒屋に居る時が一番幸せなんじゃない?」

「取り敢えず酒は毎日飲みたい」

「よく喉潰れないよね」

今日のメインは町で評判の居酒屋だ。昨日から酒を飲んでおらず、両手をばたつかせてスキップするシュラちゃんにつられて微笑んでしまう。
お互い二十六歳にもなって騒ぎながら歩くのもどうかと思った今日くらいは他人の目線も気にならない。だって今日はシュラちゃんの誕生日であり、シュラちゃんに会うのも数年ぶりだから。

「生二つに、軟骨の唐揚げとレバニラ」

「あと枝豆と焼き鳥盛り合わせぇー」

予約していた居酒屋に入り個室に案内してもらう。シュラちゃんは注文を受けた店員が引っ込んですぐに服邪魔だー!とずっと我慢して着てもらっていたTシャツを勢い良く脱いでいつものビキニにショートパンツ姿になる。
二人でお通しの漬物を食べながらこの数年の出来事をつらつらと語る。

シュラちゃんがヴァチカンに行ってしまって数年、彼女がひょっこり戻って来たのは今年の春。やる事があってお前にはまだ会えねーけど、とわざわざ電話をくれたのを覚えてる。触り程度しか教えてくれなかったけど、どうやら監査官としてヴァチカンから派遣されたらしい。ふらふらしてた塾生の時が懐かしく感じる。

「シュラちゃん、ちゃんと働いてるんだね。私びっくりだよ」

「失礼だぞ名前ー?くらえ、シュラパンチ!」

「痛い!しかもそれパンチじゃないしデコピンだし!」

「んー?何のことかにゃー?」

私がシュラちゃんと出会ったのは五年前、家業である時計屋の店番をしている時に懐中時計の修理にやって来た藤本獅郎さんについて来たのがシュラちゃんだった。
互いの趣味や好みは全く合わないけど何故か気は合い、それからは何か有る毎に名前、名前、と店に来てくれた。
祓魔師になった時も階級が上がった時もこうやって二人で居酒屋に行ってちびちびビールを飲んで細やかな祝勝会みたいなものを開いた。ヴァチカンに異動になった時、シュラちゃんは何も言わずに飛び立ってしまったけど。


「はい、シュラちゃん。誕生日おめでとう」

日が暮れたばかりだと思っていたらあっという間に日付が変わる手前だ。
ほろ酔い気分でシュラちゃんと私は今はもう私しか居ない家の前まで帰って来た。明日も仕事がある私達はもう別れなければならない。次はいつ会えるの、なんてしみったれた言葉を喉の奥に押し込んで鞄の中からずっと前から用意していた小包を手渡す。

「…チョーカー」

「シュラちゃんストールとかスカーフ好きでしょ?いっつも首に巻いてた」

シュラちゃんに渡したのは八月の誕生月であるペリドットを目に埋め込んだ猫のチャーム付きのチョーカーと、ドライフラワーに加工したスターチスをレジンに閉じ込めた髪ゴム。

「スターチスはね、永久不変っていう花言葉なの。…だから、私とシュラちゃんの仲がずっと変わらないでいて欲しいと思って」

「名前…」

照れてしまって最後は小言になってしまったけど、シュラちゃんの目は真ん丸になっていたのでしっかり届いたみたいだった。それじゃ!と半ば無理矢理話を切り上げて店の鍵を取り出しシュラちゃんに背中を向ける。
手早く鍵を開けて店に入って行く私に後ろからシュラちゃんのありがと、大切にする、と照れ臭そうな声が聞こえて思わず私も照れてしまいそうになった。
呑気で猫のように我が道を行くシュラちゃん。例えまた何も言わずに居なくなったとしても、私はシュラちゃんが大好きなのだ。

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