・SSSのもしも〜の淡白大学生夢主とメフィスト


頭上では雲一つ無く抜けるようなスカイブルーが広がっている。秋晴れの空の下白いスーツに水玉ドットのスカーフ、白いコートを羽織った私はいつもとはまた一味違う魅力を醸し出しているでしょう。
そして私の隣には一人の少女…いえ、女性が立っています。彼女の名前は名字名前と言いまして、先日私が理事長を務める正十字学園の大学へと入学した麗しき女性でして…ほんの遊び心で参加した大学入試の面接官を担った際、彼女を一目見てうっかり、そううっかり。私彼女に一目惚れしてしまったのです!
しかし名字さんは顔もスタイルも思考回路もスマートだというのに、このメフィスト・フェレスの恋心をふんだんに詰め込んだ弾丸は届くどころか撃ち落とした挙げ句追撃もしてくる辺り相当シャイな方なのでしょうな。
そんな名字さんを従えて、私は今日自分が経営する遊園地「メッフィーランド」へとやって来たのです!

「入って五分で、出てもいいですか」

「いやはや烏の行水並みですな。実際入浴時間もその位に短…ハッ!温泉、温泉旅行!今度温泉旅行に行きませんか?」

「お断りします」

「フフフ…ならば素直に私と夜更けまで共に過ごしましょう?今夜は正十字学園町から少し遠出をしてロイヤルホテルのスイートルームをああっ!待って下さい待って下さい!」

一週間掛けて綿密に立てて来た計画のほんの一部を語り出した所で話が長くなると判断したらしい名字さんは足早に入場ゲートへ…ああ、チケットは私が買うと決めているのです。私は理事長なのですよ?たかが紙切れ一枚、貴方に負担させることなど何よりこの私自身が許さな…ああ、入ります、入ります。
彼女と共にゲートを潜れば目の前は一気に人で賑わう華やかな景色へと様変わりします。大きく膨らんだ私やメッフィー犬のバルーンが風に揺れ、時折奥にあるメッフィーランドを代表するメインアトラクション「GO TO HELL」からゴウゴウと唸るような音と共に実に小気味良い悲鳴が聞こえてきます。
はてさて。貴方のお好みのアトラクションは何ですか?このメッフィーランドを隅から隅まで把握しきった私が完璧なエスコートを約束しま…って、おや。おやおやおや?

「……名字さん?ええと、あれ?私、もしかして置いて行かれました…?」

視界を左右に動かし彼女の姿を探すも近くにあるアイスクリーム屋はおろか、近くにある店の何処にも彼女の姿は見当たらず歯ぎしりをしたくなるも慌てて考えを改めてていく。そう、これは彼女からの挑戦状だと考えればいい。ほらみろ浮かんで来たぞ、あははは、待てー!うふふっ、わたしを捕まえてー!波打ち際できゃっきゃっうふふと追い掛けっこをするカップル…今私達はそれに当てはまるのだ。たまたま浜辺が遊園地に変わっただけで…ハッ!カップル…まさかこれは彼女からの遠回しなお付き合いの許可なのだろうか…!
そうと決まれば一刻も早く見つけ出して唐突に始まった追い掛けっこに終止符を打たねばなるまい。この時の私は名字さんからの遠回しすぎるYESのサインに浮かれそして意気込んでいた為その顔は酷く恐ろしいものになっていたという。全く私とした事が、常に紳士の心構えを忘れてしまうなんて…お茶目さんですね!

二時間掛けて探し回り久しぶりに体力の限界という言葉を実感した頃、漸く観覧車の列の一番前に立ち今まさに乗り込もうとする彼女の姿を見つけた時には私は全速力で走り出していた。メフィストは風になったのだ。今ならこの時の私の頭の中を原稿用紙二百枚に連ね著書にして販売出来る気がします。長い列の最前に突っ込み閉まりかけた扉の合間を縫うように観覧車に乗り込んだ私はべしゃりと思わず耳を塞いでしまいたるなるような音を立ててドアの向かいの窓へと激突する。呆気に取られる係員や客の視線を背中に感じる中がしゃんと重い扉が閉まると同時に彼女から小さく舌打ちの音が聞こえた。


時折危なげに揺れながらも観覧車はぐんぐん高度を上げ、頂上近い頃には正十字学園の中層部と同じ位の高さになり、少し目線を下げればジェットコースターがレールに沿って走っていくのが見える。既に体力を使い果たし喋る元気すらない私は黙って景色を見ながらメッフィー犬を模したボックスにたっぷり詰められたキャラメル味のポップコーンを食べる彼女の横顔を見つめていた。彼女の薄い唇が薄茶色のポップコーンを挟む度にその柔らかさを、甘さを堪能したいという気持ちに染まっていくのが分かる。これでも頑張って探したのですから、それ位のご褒美は貰ってもいいですよね?
いよいよ頂上、といった所で私は立ち上がり横を向いていた彼女の顎を掴んで此方へと向かせていた。

バコン。そう、キスの感想はまさにそれだった。そうそうキスをする時はバコンとやってしまうのがいい…ではなく。唇を塞ごうとした私に待っていたのは強い衝撃と、息苦しさ。むわっとする甘ったるい匂いにぼろぼろと何かが落ちる音。薄茶色に染まった視界の中で私は一つ溜め息をついて口元にあるポップコーンを一つ唇で挟んで尖った犬歯で噛み潰した。
結局ポップコーンが詰まったメッフィー犬ボックスを私の頭に被せた名字とはそれきり会話もなく、観覧車は終わりを迎える。係員が扉を開けるなり床に散らばるポップコーン達の惨状にうわっと声を漏らす。それに構わず観覧車を降りた彼女に続いてボックスを被った儘頭や額、後頭部に僅かなポップコーンを挟んだ儘ポップコーンまみれの観覧車から逃げ出した。

迷う事なく真っ直ぐ出入口のゲートへと向かう彼女はもう帰るらしかった。ああ、もっと一緒に色々なアトラクションを回りたかった。この遊園地で共に過ごした時間が無言で気まずいあの二十分だけだなんて。これは完全に嫌われてしまったようだ、やれやれと首を横に振りながら両手でボックスを引き抜くとばらばらと落ちるポップコーンの中で質量の違う物質がぽとりと私の足元に落ちた。片腕でボックスを抱えつつ拾い上げてみれば、それは以前私が自らデザインを手がけ、メッフィーランド限定グッズとして売り出しているメッフィー犬のミニチュアフィギュア付きのストラップだった。こんなものを…いつ?傍らに抱えたボックスしか心当たりがなくて今度こそ私は人前にも関わらず歯ぎしりをする。嫌いなら嫌いだと言ってくれませんか!これでは私、貴方に期待してしまいそうです…。視線を出入口ゲートに移すも、愛しい彼女は既にメッフィーランドから去った後だった。

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