出雲様シリーズの夢主と出雲のお話
・夏ですね、出雲様!の後の話


十月に入って数日。朴さんにこっそり呼び出されたのは他でもなく出雲様のお誕生日が迫って来たからだった。毎年盛大にお祝いパーティーを開く私に今年もやるなら私も、と朴さんがノッてきたのだ。
出雲様がこの世に生を受けた聖なる日を祝わない筈がなく、私は一ヶ月も前から出雲様生誕祭の根回しを地道にやってきた。

寮で騒ぐと寮長さんに申し訳無いからという理由から生誕祭の会場は旧男子寮もとい奥村兄弟の住居を借りる事にした。食堂を借りて飾り付けにケーキ含めた料理を作る予定だ。最初は渋っていた奥村兄弟も兄にはパーティーに出すチキンのお裾分け、一番難関だと思っていた弟は経費は全て私が負担する条件と肉に釣られた兄のゴリ押しによって何とか言いくるめる事が出来た。
そして朴さんの「どうせなら皆で」という意見により急遽京都三人組と杜山さんの参加も決定した。三輪に出雲様のお誕生日の話をした時目が死んでいると言われたが、それは仕方ない。京都三人組のリーダーである勝呂を出雲様はよく思っていないし、出雲様に猛アタックしている志摩が私は嫌いだ。
杜山さんにいたっては出雲様から散々な扱いを受けていたにも関わらず、パーティーという響きだけで既に感激のあまり瞳を潤ませていた。常々感じているのだが彼女は何処か人と感覚のズレというものがある気がする。箱入り娘って怖い。

部屋の飾り付けやケーキを含む料理作りは全て旧男子寮で行うのだが、私と朴さんは出雲様と同室である上に普段から出雲様を挟んで両隣を歩く仲故にあまり仲が良いという訳ではないのでなかなか二人揃って旧男子寮へ赴く事が出来ない。
仕方ないので私は奥村弟から補習があると言って塾に残った振りをして男子寮へと向かい、私一人で飾り付けに使う「出雲様生誕祭」の看板や折り紙で作った輪を繋げる作業に勤しむ。たまに弟のスパルタ補習から休憩と銘打って逃げてきた奥村兄や様子を見に来る勝呂が手伝ってくれて準備は着々と進み、前日にケーキと料理の材料をたっぷり買い込み料理が得意だという意外な特技を持つ奥村兄と共に料理の下拵えをこなした。
くたくたになりながら夜遅くに寮に戻って来ると出雲様は既に眠っていらして、タオルで髪を拭く風呂上がりの朴さんと出来るだけ声量を抑えて最終的な打ち合わせをする。

塾が終わった後、寮に戻った所を朴さんが出迎え今から出掛けたい所があるからと出雲様を私服に着替えさせて一緒に旧男子寮へと向かう。其処には料理とケーキを並べた私や奥村兄弟、京都三人組に杜山さんが「出雲様生誕祭」の看板の下に待ち構えている、といった寸法だった。
驚く出雲様の表情がとても楽しみで思わず口元が緩む。それを見た朴さんは「名前ちゃんのケーキ、今年もきっと喜んでくれるよ」と囁いた。
中学一年からずっと出雲様の誕生日には私特製のシフォンケーキでお祝いしてきた。砂糖ではなく練乳を入れる事によりまろやかな甘さとなった生クリームでデコレイトされたシフォンケーキは毒舌な出雲様でさえ素直にその味を褒めて下さる程で、例年通り今年もケーキは私が担当する事になっている。
準備は完璧。後は夜を明かして当日を迎えるだけだった。



「どうしてこうなった…」

翌朝。目を覚ました私を襲ったのは酷い倦怠感とじわじわと身体を蝕む熱だった。季節の変わり目である十月は残暑厳しい晩夏から一気に朝晩の冷え込みが厳しくなってくる。それゆえにクラスでも風邪を引いて授業を欠席する生徒がちらほらといたのだが、まさか自分にも回って来るとは思わなかった。
朝早く起きて旧男子寮、塾が終わったら夜が更け奥村弟にもう帰りなさいと言われるまで旧男子寮…。お昼以外は食事をろくに摂っていなかった…というか忘れていた為、身体の免疫力が低下していたせいかもしれない。

「名前、アンタ何だか顔赤くない?」

「…や、そんな事無いですよ」

「馬鹿ね、目が虚ろじゃない。やだ、移さないでよね!?朴は大丈夫?」

久しぶりに感じる朝食を食堂の四人掛けの席に三人で座り食べていると、あまり食の進まない私を怪訝に思ったらしい出雲様にあからさまに嫌悪の表情が浮かぶ。身体がだるいのと熱がある以外には特に身体の異常は感じられなかったので明日になれば治るだろう。ただ、どうして今日に限って。それだけが私の頭の中をぐるぐると回っていた。
向かいに座る出雲様の隣に座る朴さんが表情を僅かに曇らせた。

「名前ちゃん、大丈夫…?」

「熱だけなので。風邪薬買って飲めば直ぐに治る筈です…」

遅刻するのを承知で寮から少し離れた所にあるコンビニに向かい強い効き目の風邪薬とミネラルウォーター、マスクを購入してコンビニを出て直ぐに薬を服用してマスクをする。
頭がクラクラして思考能力が著しく低下しているものの動ける事は動けるし、だるさと発熱だけなら今日一日乗り越えられるだろう。楽観的に考えながら高等部の校舎に続く階段に足を掛けた。



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