名前変換
・噂をすれば影の番外編
・連載完結後のお話


私がこの世界に来てから一ヶ月が過ぎた。アマイモンさんのお兄さん、メフィスト・フェレスさんからこの正十字学園の一角にある小さな平屋建ての家を与えてもらい、日中は学園内の私立大学に通っている。大学に通っているだけでは申し訳無くてせめて何かバイトをしたいと申し出たのだが其れを聞いたアマイモンさんが地震を起こし、メフィストさんに断固拒否されてしまった。
結局私は毎月メフィストさんがお小遣いとして渡してくれるお金を遣り繰りして毎日を過ごしている。

「名前、大学は楽しいですか?」

夕飯を作る私の後ろから首筋や背中に鼻先を近付けすんすんと匂いを嗅いでいたアマイモンさんに声を掛けられる。
この質問にうっかり楽しいと答えてしまった日には、彼の機嫌は一気に下降し私の家にある食料という食料を全て平らげてしまうのだ。兄に言いくるめられ表面上は私の大学行きに納得していた彼も、今じゃ毎日大学から帰って来た私を出迎えては男や悪魔に襲われてはいないかと匂いを嗅いでくるまるで犬のような悪魔になってしまった。

「普通ですよ。でもずっと家に居るよりはマシです」

「ボクはダイガクには入れません。名前に会えないのは嫌です」

「今会ってるじゃないですか」

「ボクが会いたい時に会いたいんです」

この我が儘ボーイめ!これ以上付き合っていられない、背中に引っ付く悪魔は無視して料理を続けている。…と、居間に置きっぱなしの私の鞄から着信を告げるメロディが流れて来た。電話の相手は誰だろうか、メフィストさんなら有難いのだけれど。

「アマイモンさん、携帯取って来て下さい」

「…分かりました」

夕飯はたこ焼きが食べたいと朝から我が儘ボーイを発揮したアマイモンさんの為に私は先程から水で溶いたたこ焼きの素をせっせと掻き混ぜている。"契約者"として、命令の意を込めて頼むと名残惜しそうにしつつ居間へと踵を鳴らして歩いて行き、鞄から取り出した携帯を私の元へと持って来ると此方の世界で人気になっているアニメの主題歌が着信音として流れる携帯の電源をぶちりと切った。

「……取って来いと言ったんですが」

「取った後の指示は聞いていないので、後はボクの自由です」

「成る程、よく分かりました。アマイモンさんのたこ焼きからタコを没収します」

もうそろそろいいかと生地を混ぜていた手を止め大学が終わった後メフィストさんから借りて来たたこ焼き器一式を居間に運んで行く。たこ焼きからメインの具であるタコの没収宣言を受けたアマイモンさんは事切れた私の携帯を睨んだ後、カツカツとブーツを鳴らして近寄り機嫌を伺う犬のように後ろからがばりと抱き付いてきた。

「ちょ、重いです」

「タコが無いとただの"焼き"になってしまいます。悲しいです。ボクのにもタコを入れて下さい」

「じゃあ何で携帯切るような真似したんですか」

「ボクが名前と会える時間は、名前が寝ている時間やダイガクに行っている時間よりも短い。ツマラナイし不公平だ、名前を最初に見つけたのはボクなのに」

召喚者として認めつつも結局私は彼の"所有物"の一つに過ぎない。やがて時が経ち私が老いれば興味を無くし契約も抹消させて去って行ってしまう、そう考えると何だか寂しくて構え構えと甘えてくる彼につい冷たく接してしまう。
図体は私より大きいのに、考え方は何処までも自己中心的。自分の楽しみや欲望を追い求める小さな子供のようだった。

「私と居たってつまらないでしょう」

「ツマラナイかどうかはボクが決めます。…今は名前がいい」

「…今は、ね」

私の脇の下から腕を潜り胸に抱き付いて来たアマイモンさんのトンガリ頭を優しく撫でてやると、もっとと言いたげに頭を擦り寄せてきた。



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