・お慕いしております、出雲様!の夢主と出雲


冬休みは夏休みより短く春休みより長い、少し中途半端な長期休暇だ。三週間程だというのにやたらと短く感じるのはきっと年末年始を挟んでいるからだろう。
春にこの学園に入学してから早八ヶ月は経ったわけだ。祓魔師への道を歩み始めて本当に色々な事があった。その中でも一番衝撃的だったのが――

「名前、紅茶お代わり」

「はい、ただいま」

中学の頃から金魚のフンのように後ろをついていっていた出雲様に恋心を抱いてしまった事だった。何がきっかけで、なんてよく分からないけれど。この気持ちに嘘偽りはなく本物だという事だけは確かに証明出来る。
愛が無いならば、今こうやって紅茶片手に大広間のテレビを独占している出雲様に甲斐甲斐しく紅茶のお代わりを淹れる事など絶対有りはしないのだから。
受験を控え毎日のように学校な通っては課外授業を受ける三年生以外は殆ど年末年始を実家で過ごす為に寮を出て行く為この間、大広間のテレビは私達が独占出来るのだ。
クリスマススペシャル、と銘打った特番をぼんやり眺めながら厨房を借りて作ったグラタンとシーザーサラダ、駅前まで走って買って来たファストフードのチキンをかじる。いつものように生クリームに練乳を加えたとっておきのショートケーキは甘い物が好きな朴さんが居ない為今年は控え目な大きさとなっている。

時計の短針が十を越え床に座ってブランケットを被り体育座りをしていた出雲様の頭がこくりこくりと舟を漕ぎ始める。冬休みに入ってからずっと休みもなく勉強と実技の練習ばかりの日々を送っていたせいか疲れていらっしゃるんだと思う。

「出雲様、この特番見たかったんでしょう?寝ちゃ駄目ですよ」

「ん、…」

「眠いんですか?」

「……ん」

小さく返事をしてこくりと頷いて寝惚け眼の出雲様に悶えてしまったって仕方のない事だと思う。私の前では十割ツンで稀に拝む事の出来るデレ出雲様が今、左隣に…!
周りに花を散らしてほわほわと悦に浸っていると唐突に私の左肩に重みが増す。腕でも引っ掛けたのかと思い隣を見遣ると其処には私の肩に頭を乗せて眠る出雲様のお顔が目の前にあった。

「あばばばば…!」

一気に心拍数が跳ね上がりじわじわと全身が熱を帯びていき、左肩を中心にがちがちに身体が固まり身動き一つ取れなくなる。すぐ近くで出雲様の健やかな寝息が聞こえて本当に寝ているのだな、と改めて実感する。

「……どうしよう…」

私今絶対ニヤけてる。
緩む頬を右手で押さえて溢れ出す出雲様への気持ちを必死に抑える。同性愛という人の道を外した私の気持ちは決して誰にもバレてはいけないのだ。分かっていても無人の大広間には誰も来る事はないと理解している為に緩む頬はなかなか引っ込もうとはしない。
肩に掛かる体重が愛しくて肩に止まらずいっそのことこの腕で抱き締めたいが、焦がれる程そう願ったとしても私にその資格ははなから存在しない。

「出雲様…」

すやすやと眠る出雲様の頭に自分のを重ねて小さく唇に愛しい名前を乗せる。返事は勿論のこと、反応すら感じず変わらぬ寝息だけがテレビの音声に混じって響く。

「出雲様、すきです」

叶わない恋であっても構わない。ただ志摩のようなあんぽんたんにさえ引っ掛からず、優しくて出雲様のツンを笑って包み込んでくれる人に出会って欲しい。
そう願う気持ちとは裏腹に、じわりと目尻に滲む水滴を無視して出雲様の丸い頭に触れるだけの口付けを落とした。

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