・噂をすれば影の夢主とアマイモンの場合
※番外編「この先、虚無界行き」読了済みだと話が分かりやすいです


冷たく澄んだ空気に包まれたクリスマスの朝。目が覚めて直ぐに二日酔いのような頭痛に襲われた。半ば意識を飛ばし書けながら何とか探し出した体温計を脇に挟めればその数字は平均体温をあっさり突破し三十八度という典型的な風邪の症状を導いてくれた。心当たりはある、十中八九昨夜の寝る前までの行動のせいだろう。
ベッドから下りた私の頭に大人しく寝ているという選択肢は存在していなかった。適当にゼリー飲料で腹を満たし風邪薬を飲みストーブの火力を最大まで引き上げて今日の夕飯を作り始めた。

やらねばならないと思ったのはクリスマスを一番楽しみにしていたのが私でもメフィストさんでもなく、うちの我が儘ボーイことアマイモンさんだからだ。
頭痛に悩まされる思考の中でクリスマスの一週間前からはしゃぎまくった末に遊園地"メッフィーランド"を半壊させてしまいメフィストさんに大目玉を喰らった挙げ句使いっぱしりにされ虚無界へと飛ばされている。クリスマスまでには戻って来ると言っていたから意地でも今日中には帰って来るのだと思う。それならば嫁見習いの私は彼の為に料理を作って帰りを待つべきだと判断したのだ。


七面鳥の丸焼きにローストビーフ、シチューにパイなどクリスマスにはありがちな料理が一通り並んだのを確認した私は最後に赤のタータンチェックの包装紙に包まれた箱を置いて寝室に去る。あれが私の体調不良の原因である生キャラメルだ。
此方には生キャラメルの流通はなく私も手作りした経験もない為、キャラメルの作り方を参考に試行錯誤して何とか作り出したのがあの包みの中にある生キャラメルだった。あれを作るのに一日費やしてしまい睡眠時間を丸々使ってしまった為に私は体調を崩してしまったのだと思う。

「……はぁ」

昼から始めたのに体調不良のせいで窓の外は既に暗くなっていた。もう少しすればアマイモンさんが帰って来るだろう、きらびやかな料理に背を向けてベッドに入る。熱があるにも関わらず寒さに震える身体を無視して私は目を閉じた。


「名前」

誰かに名前を呼ばれた気がして意識が僅かに浮上する。声を聞き漏らさまいと耳の感覚を研ぎ澄ませ私の名前の後に続く言葉を待つ。
しかし声が訪れる事はなく、代わりに首まで被った布団が捲られ誰かが私の隣に身を滑り込ませてくるのが分かった。

「名前」

ガタガタと震える身体を後ろから包む腕からふわりと花と土の匂いがする。重い頭を無理矢理動かして後ろを振り返るといつものように無表情の儘のアマイモンさんがすぐ近くに居た。
もそもそ身動ぎして寝返りを打って温もりの中に顔を埋めると寒気の止まらない背中に腕が回され、大きな掌がゆっくりと背中を行き来して寒気を奪ってくれる。

「熱いです。熱があるのにあんなに料理を作ったんですか」

「だって…クリスマス、楽しみにしてたから…」

「名前が居ないとつまらないです。ハヤク、ナオレ、ナオレ」

シャツの襟に通したネクタイを左手で気だるげに解く姿が何かえろいな、とぼんやり考えているとネクタイを床に投げ捨てたアマイモンさんの指先が私の頬を撫でる。引っ掻かないように指先を猫の手のように丸めているせいか何だか擽ったくて僅かに肩を竦める。
魔法の呪文のように治れ治れと呟くアマイモンさんの声を子守唄に私の意識は再度眠りへと誘われていく。
もう身体は震えていなかった。



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