「後で奥村が飯持って来るから大人しゅう寝とけ」

「名字さん、寂しかったら俺のこと呼んでもええで!」

いつもより弱々しい私に調子に乗ったのかきゃっきゃっと騒ぐ志摩を引き摺って勝呂が出て行くと、一気に部屋の中は静かになり私は胸中に広がる達成感に酔い知れながら静寂に呑まれるように目を閉じた。



階下から響くわあわあという喧騒の中でがちゃりと扉の開く音がして私の意識は浮上する。目の前の天井は見慣れた物では無いが、ふわふわと湯気を立てる盆を持つ人物には見覚えがあった。

「いずもさま」

「死にそうな顔して、馬ッ鹿じゃないの」

「いずもさま、せいたんさいが…」

「アイツ等あたしの誕生日って理由付けてただ騒ぎたいだけに決まってるわ。全く…」

小言を漏らしながら机に盆を置いた出雲様はスツールを引き寄せて座ると膝に三折りにしたブランケットを乗せ布巾を使って小さな土鍋を膝へと乗せた。起きなさいと言われるが儘に重い身体を起こすと土鍋の中で白と黄色が混ざりあった卵雑炊を掬い上げた出雲様がふうふうと息を吹き掛けて冷まし、あろうことか私の口元へと運んで来た。え?これ…何てヘブン?
ぽかんと口を開けた儘呆けているとさっさと食べなさいという怒声と共にレンゲが口に押し込まれた。口内に広がる優しい味をむぐむぐと咀嚼しながら出雲様を見つめると、僅かに頬を染めた出雲様が顔を逸らして頼まれたからとか志摩がウザイからとか、言い訳を紡ぐ唇は徐々に私が生誕祭を計画した事や一人夜遅くまで準備していた事にまで触れていく。

「…シフォンケーキだけど、」

「あ、あ、はい」

「いつも通りの味ね、味も見た目も変わらないなんてアンタある意味天才ね。………礼を言うわ。ありがと、色々」

あああああ!私は全力で叫びたくなる衝動を必死で抑え込んだ。遠回しすぎる褒め言葉やこの三年間で数えられる程しか聞けないお礼でこの準備期間に抱えてきた私の苦労や悩み、今日一日の体調不良が全て吹っ飛んでいった気がした。
誰かに美味しいねよくやったねと褒めてくれるより、出雲様からいつも通りねと皮肉混じりに言われた方が百倍嬉しいと思うなんて、やっぱら私は出雲様が大好きなんだと思う。
新たに口内に入って来た一口を早々に嚥下すると私は出雲様に微笑み掛けた。

「いずもさま、おたんじょうびおめでとうございます!」

「……ありきたりな言葉ね」

「わたし、いずもさまにであえてほんとうによかった。ふたりいっしょにエクソシストになれるといいですね」

後は自分で食べますから、下に戻っていいですよと微笑む私に、ありきたりと突っぱねていた出雲様の表情が僅かに歪んだけれど、その理由が分からなくて私は見ない振りをした。

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