混ぜ合わせた生地をたこ焼きにたっぷり注ぐと、じゅうじゅうとたこ焼き器に注いだ生地が音を立てる。タコを入れて天かすとネギを盛り暫く待つ。直角に転がして空いたスペースに穴からはみ出た生地や具を纏めて反転させると私の真下から漂う香ばしい香りに鼻をひくつかせる音が聞こえた。

「アマイモンさん、もうちょっとで出来ますから」

テーブルにあるたこ焼き器をつつきながら真下にあるアマイモンさんの顔を見下ろす。我が儘ボーイは調理中にも関わらず抱き付くだけでは飽き足らず、私に膝枕までねだってきた。勿論私が其れを拒める筈も無く素直に膝を差し出すしかなかった。
ソファの端に座る私の膝に頭を乗せて寛いでいる彼の頬をつつくと、少し間を置いてむくりと身体を起こした。

「たこ焼きは出来るまで時間が掛かりますね」

たこ焼きがこんがりと焼き上がったのを確認しアマイモンさんが徐ろに立ち上がったと思えば何処からかお盆を取り出してきた。
上には懐紙が乗せられ如何にも何かを乗せるといった雰囲気が漂っている。その盆を突き出して来るも意図が分からず首を傾けて問い掛けてみれば予想斜め上を行く答えが帰って来た。

「月に供えます。この時期はこうやって月に供え物をして月見をすると兄上に聞いて」

月に供えるから盆の上にたこ焼きを積めと言っているらしい。何の疑問も抱かず無表情で言い切ったアマイモンさんに背中に冷や汗が浮かぶのが分かる。十中八九メフィストさんの冗談だろうけど、本気にし過ぎではないだろうか。幾ら敬愛する兄の言う事とは言え、疑うという事はしないのか。なにより、月見するのにたこ焼き供えて堪るか!
私は焼き上がったたこ焼きを盆ではなく皿に移すとたこ焼き器の電源を切り、光の速さでメフィストさんに電話をした。直ぐに電話に出たメフィストさんの声は愉快気に弾んでいて、其れが私の怒りを助長させた。

「メフィストさん!あなたアマイモンさんに何吹き込んでくれちゃってるんですか!」

『アッハッハ!その口調だと既に巻き込まれていると思える』

「自分がたこ焼き食べたかっただけでしょう?アマイモンさんはともかく、私を巻き込むのは辞めて下さいよ…」

「その通り!いやはや美味しそうなたこ焼きですな、私既に腹がぺこぺこです」

電話口でパチンと指を弾く音が聞こえたかと思えば私達の目の前にアニメ調のきゅるるんとデフォルメされた女の子が描かれた浴衣に身を包んだメフィストさんが現れた。極悪面に萌え浴衣というそのミスマッチ具合に何も言えず沈黙していると、メフィストさんは爪楊枝を取り出して私の作ったたこ焼きにソースを掛けて一つ口に頬張りはふはふと熱がりながら出来立てのたこ焼きを味わう。

「おぉ、熱い。やはりたこ焼きは外カリ中とろに限りますな」

「…アマイモンさん、月見をするのに供えるのは月見団子であって、たこ焼きでは無いんですよ」

たこ焼きに舌鼓を打つメフィストさんを尻目に二人きりの時間を邪魔されずずず、と黒いオーラを纏うアマイモンさんに躊躇いつつ説明をしても彼の表情は変わらなかった。そうして弟を騙した挙げ句"私の睡眠時間や大学に居る時間よりも短い二人の時間"を邪魔したメフィストさんは拳を握り締めたアマイモンさんに拠って窓ガラスを突き破り満月が浮かぶ空の下、ノーロープバンジーをする羽目になった。

「……名前、そのツキミダンゴとやらが欲しいです」

「……買って来ます」

目が据わったアマイモンさんにそう言われ私にはもうどうする事も出来ない。心の中でメフィストさんに合掌しつつ財布を持って家を出た。地の王アマイモンは何処までも己の感情に正直な我が儘ボーイだ。



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