「いたた…ほんなら次、杜山さんと名字さんどっち話す?」
ハタ
勝呂くんに叩かれた頭を擦りつつ志摩くんが私と杜山さんを交互に見てくる。杜山さんと顔を見合わせるとふと彼女の瞳がやたらときらきらしている事に気付いた。
そういえば小さい頃は極度の人見知りだったらしい。こうやって皆で身体を寄せ合って怪談話をするのも夢だったのだろうか。
「私、杜山さんの話聞きたいな」
「!、名字さん…っ!」
にっこり笑って先を勧めるときらりと翡翠の瞳を更に輝かせて杜山さんの頬が少し紅潮する。
じゃあ、と笑って次の語り手の杜山さんが話し始める。
「わ、私!この前小さいおじさんを見たの!」
忘れていた。彼女はドが付く程の天然だった。唐突に彼女の口から語られた衝撃の内容に勝呂くんと志摩くんに奥村くんは派手にずっこけ、奥村先生と三輪くんはずるりと傾いた眼鏡を直すのも忘れて呆けた表情を浮かべていた。
「……」
「ほ、ほんとだよ!私見たの!十五センチ位の小さいおじさんっ!」
皆の反応に杜山さんが慌てて両手をぶんぶん振って必死に訴える。確かにこのタイプの人間は嘘は吐かないけど…彼女の場合、何かの植物を小さいおじさんと見間違えたというのも有り得る。
「……そのおっさん、何してたんだよ」
「半裸で腹筋してたよ!」
派手に床にぶつけた身体を起こしながら奥村くんが問い掛ける。が、杜山さんから返って来た変化球並の返事にまた派手に床にダイブした。しかし何故半裸なのだろう。そして奥村くん達のズッコケは少々古い気がする。
「それ変質者だろ!通報しろよ!」
「えっ、変質者なの!?小さいのに!」
「変質者に大小関係あらへんやろ」
何だか変な方向に話が逸れてしまっている。杜山さんの天然っぷりと奥村くんの何処か抜けている非難に勝呂くんがすかさずツッコミを入れる。志摩くんに名字さんも見た事有ります?と聞かれ頭を横に振った。その様な体験ははっきり言って御免蒙りたい。
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