三輪くんの話が終わって、次に奥村くんが指名された。奥村くんは腕を組み尻尾を丸めて暫く考え込んだ後、
ナベリウス
「やっぱ屍番犬だな」
と言い切った。確かに屍は継ぎ接ぎだらけな見た目やその他諸々合わせても怖い。奥村くんは風呂場に屍が出た時も停電した時部屋に来た時も屍と戦ってたから、怖いと言われれば確かに納得出来る。
少々怖い話という主旨からは外れるがその他に怖い体験は無かったと言い張る奥村くんにまた勝呂くんが舌打ちをしていた。
「ほんならこの俺のおとっときの話でもしたりますえ」
目に見えて苛々している勝呂くんを見て手を叩いて志摩くんが明るく名乗り出る。志摩くんが話せば残りは私と杜山さんだけか…杜山さんは何を話すつもりなのだろう。
「これは金兄から聞いた話なんやけど。昔少し山に入った所にアスレチックパークがあったんやけど、其処にちっこい舞台があったらしいんです。多分何かのライダーショーとかに使う予定やったのか、作りは良くて。金兄達のバンドの練習場にしよ言うて地主さんに許可貰てアスレチックパークの跡地を見に行かはったんやて」
「そんアスレチックパーク、今はもう閉園してるやつか」
廃れた公園溜まり場にする気やったんか、と呆れたように肩を竦める勝呂くんも苦笑する三輪くんもそのアスレチックワールドがどういうものなのか分かっているらしかった。
首を傾げる私達に三輪くんがアスレチックパークは客足が伸びず直ぐに閉園になった事、今でも志摩くんの話に挙がった舞台以外にも巨大迷路や小川、滑り台や雲梯が一つになったフィールドアスレチックもあった事。
「閉園してから結構年月が経っとったから、雑草伸び放題で舞台行くのも一苦労やったらしいわ。でも舞台は結構綺麗で、舞台はコンクリートやし建物自体は木造やしで雑草刈って掃除したら使えそうやな、と。で、ステージ裏も見てみよってなって舞台両袖にある裏に繋がる開き戸に手を掛けて押し開けた。そしたら…」
「…そしたら?」
話が一番の盛り上がりに近付いていく。一旦息を吐いて気持ちを落ち着かせようとする志摩くんの素振りに皆の期待も高まって自然と彼に視線が集まる。勝呂くんに促されて志摩くんが口を開いた。
「扉開けた瞬間に大量のカナブンの死骸がぼとぼとーって落ちてきたんやて!」
「…………」
志摩くんの口から放たれたオチに全員が黙り込む。確かに極度の虫嫌いで蝉の死骸すら跨げない志摩くんにはこの話は相当酷だったらしい。しかしとりわけ虫が苦手なわけではない私達には沈黙が続く。
「………」
「え!?何で皆さんそんなじっとりした目で見らはるん!怖いやんか!」
「いや…別に怖くねぇし」
「杜山さんは!?」
「私は植物のお手入れするから、虫さんよく見るし…」
「名字さんは!?」
「私も実家が農家だから虫との遭遇は日常茶飯事ですよ」
半泣きになりながら本来虫嫌いな女子である私達に賛同を求めてくるが、土いじりが好きな私達にはあまり苦手意識が無い。杜山さんと合わせて首を横に振るとそんな殺生な…、とがっくり項垂れてしまった。そんな志摩くんを勝呂くんが平手で頭を叩いた。
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