「ほんなら、次は坊に話してもらいましょ」

にこにこ笑いながら志摩くんが隣に座る勝呂くんに話をするよう勧める。急に話を振られた勝呂くんは眉根を寄せて志摩くんを睨み付ける。

「何で俺やねん」

「ええやんかぁー、坊なら色々ありますやろ?」

「勝呂は幽霊とかバシッと退治したりすんのか?」

「奥村は黙っとけ」

寺の息子と聞いているが、不思議な体験はそれなりに経験しているのだろうか。はしゃぐ奥村くんを一蹴しつつ周りから集まる視線に堪忍や、と頭を掻く勝呂くん。暫く考えを巡らせた後、幼い頃の体験を話してくれた。

「俺は小さい頃から子の志摩と子猫丸と一緒やった。三人でつるむようなってから少し経った時、ふと気付いたら離れた所に女の人が立っとって此方を見とるのに気付いた。そいつは志摩の家の畑やらうちの旅館、寺、志摩家や宝生家…何処に行っても必ず居った。それにいつ見かけても髪を二つに結って、白いポロシャツにロングスカートやった」

「ストーカーか」

「んな堂々としたストーカーが居るか阿呆!旅館の中にまで来とったんえ!?」

不気味な女性について語りだした彼に再び奥村くんが茶々を入れて怒られる。しょぼんと尻尾と一緒に頭を垂れて落ち込む奥村くんに楽しいなら仕方ないよね、とフォローを入れると名前は優しいな!とニカッと笑ってくれた。
そんな様子に勝呂くんは一つ舌打ちを鳴らしぶつぶつ小言を呟きつつ話を再開させた。

「ある日俺が八百造、志摩のお父と一緒に檀家の家に行った時、縁側に座る八百造の足の間からあの女が顔を覗かせていたのを見てもうて」

丁寧な語り口からリアルな風景が浮かんでくる。七月に会った志摩くんのお父さんが何処かの家の縁側に座って檀家さんと話している。その足の間、つまり縁の下から髪を二つに結んだ女性が顔を覗かせて此方を見つめてくる。
一気に背筋が冷えていくのを感じていると勝呂くんが話を切って「名字、大丈夫か」と気を遣ってくれた。

「ちょっと想像しちゃった」

「おぉ、坊の話は怖いわぁ。その女の人もやけど、何より坊が一番怖いわぁ」

「しばかれたいんか志摩ァ」

ごちん、と鈍い音を立てて志摩くんの頭を拳骨で殴る勝呂くん。いつも見るお馴染みの光景に顔を覗かせる女性が靄がかって消えていく。二人共気を遣ってくれたらしい、本当に優しい人達だ。

      カン
「…最初はお母に頼まれて俺が悪させえへんか見張っとるんや思とったんやけど、床下に這ってるそいつ見て普通の奴やないなって気付いたん。そしたら次の日からそいつはぱったり居なくなってもうたんやけど…ほぼ毎日一緒に居った志摩や子猫丸に聞いてみてもそんな奴は見てへんと言われた…っちゅー話や」

「な、な、何だか怖いね…」

「百物語ですからそういう物ですよ」

奥村先生のは不思議な話だったけど、勝呂くんのはもうずっと怖い。実体験だから更に怖い。想像しただけでも怖いのに実際に体験しても一切怖がる素振りを見せない勝呂くんが志摩くんの言う通り、一番怖いのかもしれない。
その後、三輪くんが以前本で読んだという本当は怖いグリム童話の話を聞かせてくれた。三輪くんのお話は怖いというより、不気味な話だった。



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