曇天の日曜。気は乗らないが近くのスーパーでセールをやっていて、買い物するなら今日しかないと無理矢理気分を上げて今週分の食料を買うぞー!と意気込んでスーパーにやってきたはいいものの、買い物を終えて出口にやって来る頃には曇り空だった空からはザバザバと雨が降り注いでいた。

「オワタ!」

冗談混じりにネットスラングを口にした後に凄まじい勢いでの後悔が押し寄せてくる。周りの主婦達は各々折り畳み傘を差すなり車に乗り込むなり、雨合羽を着て自転車に跨がったりと既に対策を打ち立ててきている。オワタ!と言ってみたものの両手はぱんぱんに物が詰まったエコバッグによって持ち上がらない。

「おわた…」

絶望的、その三文字が頭を占めていた。通り雨ならまだしも、この雲の厚さ具合から見るに雨は夜まで降り続けるだろう。本音を言うなら濡れたくはない。タクシーは料金が高いから乗りたくない。スーパーの傘は…うん、何か凄い勢いで他のお客さんが買っていってる、あれは在庫が無くなるのも時間の問題だろう。迎えに来てもらうという選択肢もあるが……うちの同居人は引きこもりだから、その希望は既に私の中からは消えている。これは濡れるしかないかな、雨が跳ねて靴を濡らしていくのをじっと見ながら悩んでいると視界に男物のスニーカーが入り込んでくる。私の目の前で止まって動かないのでもしかして邪魔なのかと顔を上げてみると、其処には。

「お、奥村くん…?」

「……ん、」

私の黒い傘を腕に引っ掛け青い傘を差した奥村くんが静かに私を見下ろしていた。驚きのあまりその場にエコバッグを置いて彼に歩み寄り人違いではないか、生き霊か何かではないかと凝視したり腕をぺたぺたと触って確認していると恥ずかしそうに目を逸らしながらも私が濡れないように傘を傾けてくれた。人違いでもないし生き霊でもない。私の傘を持っているということは一人でふらっと出掛けたわけでもないらしい。

「迎えに来てくれたんですか…?」

「…前、みたいに濡れたら…また、風邪引く、だろ」

確かに私は以前今のような状態に遭遇し、その時は走って濡れ鼠になりながら帰宅したんだった。風邪は引いていなかったけど、洗濯物を取り込んでいてくれた奥村くんに御礼を言う為に部屋に乗り込んだのでかなり彼を驚かせてしまった記憶がある。
前は避けられてたのに、今は迎えに来てくれる位心を許してくれるようになったのか。純粋な好意がすごく、嬉しかった。

「有難う御座います!助かりました」

「……、ん…」

真っ直ぐ見上げて礼を言えば僅かに奥村くんの表情が綻んだ。傘を受け取ってエコバッグを持ち上げると片手の重みが消える。見ると奥村くんが何ともない顔でエコバッグをぶら下げていて、私の片手にあるもう片方のエコバッグも取ろうと手を伸ばしている所だった。

「大丈夫ですよ、これは私が持ちます」

「……」

不服そうな顔をされた。
強引に押し切り傘を差して歩き出すとその顔の儘後ろから付いてきた。部屋に着いてから段々しょんぼりした顔になってきたのでフォローを入れながら夕食を作っていると背中に頭をぐりぐりと押し付けられ、その後風呂から上がった私に奥村くんは無言で携帯を差し出し有無を言わせずに連絡先を交換させられた。

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楪様、リクエスト有難う御座いました!
このシリーズの燐を書いてるとフルバを読みたくなります。ひよこみたいな所が寅の子と似通ってるからかも。杞紗可愛いよ杞紗。

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