◎「正十字学園の七不思議」後日談につきネタバレ注意

こっくりさんの呪縛から解放されて一ヶ月経ったある日の深夜。まだ本調子とはいかないものの人並みには動けるようになった私に待っていたのは養子縁組の為の手続きと、つい先程まで行われていた御披露目会だった。
両親によって役所に提出されていたのは捜索願ではなく死亡届、つまり私は死んだ事になっていたのである。メフィストによって居場所を突き止められていた両親との再会はこれで取りやめになった。私もその方が良いと思う、心はアラフォー身体はJKの娘になんて今更会いたいないと思う。
次に籍も無く宙に浮いた私の為にメフィストと宝生家が手続きを進め、私を宝生家の養子に入れるように取り計らってくれた。書類とか裁判とかで色々ごたついたけど最終的に私は宝生の名字をいただく事が出来た。宝生なまえ、うん、良い感じ。
柔造と金造は宝生家との長い因縁があるからか渋い顔をしていたもの、私と蝮が手を取り合って喜んでいる姿を見て呆れたように肩を竦めていた。可愛い蝮が戸籍上は姉になったなんて幸せすぎる!

で、今日はその養子に入った私を明陀の皆様に紹介する為に虎屋の一室を借りてお披露目会と名の宴会が催された。細かい所は伏せられたがメフィストと繋がりがある事、柔造・金造・蝮との長年の付き合いを経て正十字学園在籍時には勝呂と廉造の面倒も見ていた事を挙げ明陀に理解ある者として迎え入れるとか何とか言って養子に入れた事を報告していた。

「俺が貰う予定やさかい、野郎共手ェ出したらしばくど!」

八百造さんと柔造に締められていた。何か凄い盛り上がってたなあ。元々頻繁に虎屋や出張所に顔を出してただけあって、皆すんなりと受け入れてくれた。
どんちゃん騒ぎの虎屋を抜け出して宝生家の屋敷で一息ついているところころと草履を鳴らしながら蝮がやってきた。どうやら私を追ってきたらしい、相変わらず可愛いなあ、可愛いよ蝮。

「先輩、調子はどないですか…?」

「蝮…もう私、妹だから先輩付けはいらないよ」

「せやけど、あてにとって先輩は先輩やから…暫くはこの儘で堪忍してください」

恥ずかしそうに目を伏せた蝮に心の中で同意する。蝮を姉呼ばわりするのはなかなか違和感があるしちょっと気恥ずかしい部分もある。蝮が柔造と結婚した暁には柔造の事も義兄と呼ばなくてはならないのだ。家族って難しい、京都に来てからずっとそればかり考えている。蟒さんは優しいし、青ちゃんや錦ちゃんも私の面倒を見てくれるし、蝮は無条件で可愛い。こんな完成された家庭の中に、私は居てもいいのだろうか。

「せーんぱぁい」

「う、ぐ…申が…!」

「未来の婿に申はないやろ、申は」

酒が入って機嫌が良さそうな金造と柔造の声に私達二人は顔を上げる。ぎりぎりと歯ぎしりして嫌悪を示す蝮だったが柔造の一言に口をつぐんでしまった。可愛い。

「なまえ先輩、俺まだ先輩から酌してもろてないんですよぉ…はよ戻って呑みましょ…」

「去ねや。戻るなら一人で戻りよし!」

「まあまあ…折角外に出て来たんだし、皆で散歩してから戻らない?」

私の提案に三人は即座に首を振り、金造、私、蝮、柔造で並んで宛てもなくゆったりとした足取りで虎屋の辺りを散策する。まだ残暑は厳しいけれど少しずつ過ごしやすくなってきている夜の中、平衡感覚がほぼ無くなり直ぐにふらふらしだす金造の手を引っ張りながら私はぼそりと呟いた。

「有難う」

なかなか言葉が出なくて、それでも漸く絞り出せたのは月並みな言葉だった。手を伸ばしてくれて有難う。心配してくれて有難う。傍にいる事を許してくれて有難う。私を慕ってくれて有難う。私を好きでいてくれて有難う。愛してくれて有難う。家族にしてくれて有難う。そんな思いを三人にどうしても伝えたくて、やっと口に出したかと思えばこれだ。人の話を聞くのは好きだけど、自分の話を聞かせるのは苦手だな…というかいきなり礼とか言われても三人も困るだろうな。冗談ぽく軽口を叩こうと振り返ろうとした瞬間、右手がひんやりとした感触で包み込まれた。

「……っ」

ぎゅっと、力強く握ってくる手は最初はひんやりしていたのにじわじわと熱を帯びてくる。言葉に詰まる私の頭に今度はぼすっと何かが被さる。右から掛かる力は強く私の身体は自然に左にいる金造の方へ傾く。わしわし、ぐしゃぐしゃ。お披露目会の為に整えてもらった髪を掻き回して手は引っ込んでいった。

「…っ…、」

乱された髪をその儘に項垂れた私の左手が掴んでいた熱が不意に消え、代わりに右腕が頭に回され酒くさい胸元に迎え入れられた。その手で「離さへんからな、覚悟せえや」と言わんばかりに優しく慈しむような手付きで乱れた髪を丁寧に梳かれとうとう私の目から涙が零れ始める。おかしいね、こんなに嬉しくて幸せなのに涙が出るなんて。
柔造に見守られ、蝮に手を握ってもらいながら、金造の胸の中で私は暫く幼子のように泣き続けていた。

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