学園の授業が終わり塾へ向かう鍵を開けて教室に入った先には、般若のような顔をした男女が無言で互いに互いを睨み合っている修羅場があった。怖ぇーよ、つかまたかよ。

「またかよ…」

「あ、奥村くん。来はったんやね」

ほぼ自分の席と化している一番前の席に刀を立て掛けると俺が来た事に気付いた子猫丸が困ったように眉を下げながら声を掛けてきた。毎度の事ながら隣で騒がしく喧嘩されるのは大変なんだろうな、と近くに座る子猫丸と勝呂に軽く同情する。志摩達の顔も怖ぇのに勝呂の顔も怖ぇ。

「廉造!どうしてアンタは毎度毎度の如くエロ本ばっか読むの!」

「なまえちゃんかてマッチョの雑誌とかけったいなもん読んどるやんか!!」

あーまた雑誌ネタか。飽きねぇよなこいつら。
志摩とみょうじは付き合って三ヶ月程経つ、所謂カップルってやつだが如何せん喧嘩の頻度が多い。ちょっとした事ですぐいがみ合ってぎゃーぎゃー騒いでは勝呂か雪男に雷を落とされている。
中でも雑誌ネタでの喧嘩が一番多い。まあ付き合ってる彼氏がエロ本堂々と読んでて「くるみちゃん可愛え」とか言ってたらそりゃ怒るよな。目を吊り上げて怒ってるみょうじの気持ちは分かるけど同情も擁護も出来ねえ。何故ならこの彼氏にしてこの彼女あり。みょうじもまた“そういうもの”にいたくご執心らしい。

「私のコレは発禁ものじゃないからセーフだよ!」

「マッチョ見てニヤついとるやつの何処がセーフやのん!?」

「アウトだとしても限りなくセーフに近いアウトだわ!少なくとも廉造のよりかはマシ!!」

ドン、と勢い良く机に叩きつけられたのはみょうじが愛読してる雑誌。志摩との会話で分かると思うが、アレの中身は細マッチョからゴリマッチョ、色黒色白問わず兎に角マッチョというマッチョが集められた雑誌である。
茶髪のパーマが掛かった髪を乱しながらみょうじが捲ったページには色白で細身ながら腹筋は六つに割れてるマッチョの姿。

「どう見たって私の室井くんが至高!!」

お前のじゃねぇだろ。
喧嘩を遠巻きに眺める俺達の心の声が一致した所でまたドン、と雑誌を叩きつける音がする。エロ大王と書かれた雑誌を持った志摩のこめかみにはうっすら青筋が浮かんでいる。ページを捲る事すらせずに指でアタリを付け勢い良く雑誌を開きみょうじに向ける。日頃から可愛い可愛いと誉めちぎっている志摩お気に入りの茶髪のモデルが白いレースのブラにTバック穿いてエロい顔でカメラ目線してるページ。隣の席にいたしえみがちらっと志摩を見て一気に顔が真っ赤になった。志摩てめぇしえみにエロ本見せんな!

「俺のみそらちゃんのがかいらしいわ」

迫力のある真顔で、志摩は確かにそう言い切った。「すまん」と何故か何も悪くない勝呂がぼそりと謝罪を口にした。分かる、分かるぞ勝呂、お前もう色々と耐えきれなくなったんだよな。
子猫丸は頭を抱え、しえみは未だに赤面した儘、俺は志摩の持ってるエロ本読みてぇなぁとか考えながら各々この痴話喧嘩を眺めている。これは授業が始まってやって来た雪男に二人とも怒られて両成敗のパターンか、といつもの終末に推測が向き始めた時。この騒動を遠くの席から黙って眺めていた出雲が唐突に口を開いた。

「でもそのモデル、みょうじに似てるわよね」

その一言で全員の視線がザッと志摩の持つエロ本へと集中する。確かに茶髪でパーマ掛かってる所や、やや小柄な所、目元も似ている気がする。出雲に指摘されるなり志摩の強気な態度が一変、いつものヘタレが混じったものにトーンダウンする。

「やっ、別になまえちゃん意識してるわけやないし…ほら、るなちゃんやここちゃんもかいらしいですえ」

ぱらぱらとページを捲る間にモデル達のハメ撮りページを幾つが経た為、早々にしえみが脱落する。で、探し当てたページに写っている二人もまた小柄な茶髪パーマ。言い訳も最早通用しねぇ、つか志摩後でぶん殴る。

「そういえば…みょうじさんのお気に入りや言うてるそのマッチョも、何処となく志摩さんに似とる気がします」

視線が一気に手元に移った事にみょうじが動揺からかしどろもどろになる。室井とかいうモデルは髪こそピンクではないが人懐こそうな表情、特に垂れ目の辺りが志摩を彷彿とさせる。あーあと室井が履いてる下着、確か志摩も同じの持ってたな。それも“似てる”にはいるのか?

「……」

「……っ」

外野からの指摘に反論も出来ずに赤面した儘黙りこくる二人を見て、不意にどうでもよくなってきたのを感じた。他の奴等もそうらしく全員遠い目をしながら悪魔薬学のテキストを鞄から引っ張り出している。
つまり今日の結論は「勝手にやってろ」って事だな。あーこいつら爆発しねえかな、あっ、出来れば俺が志摩を殴ったタイミングで。魔神の息子っつー大層な肩書きがついてんだしその辺りちょちょいって、出来ねえのかな。祓魔師のコートに身を包んだ弟が微妙な雰囲気の教室内に首を傾けるのを見ながらメフィストに聞いてみようと思った。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
くろ様、リクエスト有難う御座いました。
エロ本vsマッチョ本の仁義なき戦いでございました。おかず好きとの事でちょっとおかずネタも挟んでみました。
読んでいる小説や他サイト様の文に影響される事が多いので文体は頻繁に変化してしまうのですが、好きだと言って下さってとても嬉しいです。
これからも気長に更新していきますのでお付き合いいただければ幸いです!

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -