味気ない茶色の机がいつもと違う雰囲気を醸し出していたのは二月十四日のバレンタイン当日の朝の事だった。左からハート、水玉、星。可愛らしい包装の箱三つとは相反してセロハンテープで貼り付けられたメモ書きが今から私を生か死かに分けようとしている。


【一つだけ選ぶように】
【一つは当たり】
【二つは外れ】

【外れはぶっちゃけ失敗作だから食べたら死ぬかもね】

【神木出雲】


おいおい神木さんよ。そんな物を何故私に食べさせようとするのか、というか何をどうすれば失敗するのかな。貴方昨日「チョコ溶かして固めただけの物」を作るって言ってませんでしたっけ。
バレンタインが平日だったのが悔やまれる。己の机の上がロシアンルーレットの会場になっている私は溜め息を吐き出しながら鞄を机の横のフックに引っ掛けてマフラーを外す。上でちょんと結ばれた正方形の箱が可愛らしい。ちょっと大きくなったクリスマスツリーのオーナメントのようで、箱というオブジェの儘テイクアウトして部屋に飾っておきたいのだがこのロシアンルーレットの仕掛人にして最近やたらとちょっかいを出してくる、神木出雲が其れを許さないだろう。ちらりと仕掛人のテリトリーである隣の席を覗いてみるも神木さんは居らず机に引っ掛けられた鞄だけが其処にあるだけ。机の片隅にちょこんと居座っている猫の落書きに哀愁が漂っている。
防寒具を全て取っ払った私は死刑執行台という名の椅子に座ると何とかして当たりの箱を手に入れる為に思いうる限りの方法を試す事にした。

まずは左右に揺らしてみよう。何か当たり、もしくは外れにだけ特別な音がするかも。手の平に収まる箱を耳元に寄せて左右に揺らしてみるも、どの箱からも僅かな重量感とかさかさと紙が擦れ合う音しか聞こえてこない。うーん、音と重さから判断は出来ないらしい。

次は匂いを嗅いでみる。失敗作ならきっと何かしらの異臭がする筈…!
と思ったがそう言えば昨日まで風邪を引いて学校を休んでいたのだった。未だに鼻が詰まっているせいで匂いが全く分からない。

自分の鼻が駄目なら他人の鼻を利用すべし。近くを通り掛かった男子生徒に声を掛けて匂いを嗅いでもらうことにした。
男子生徒は一瞬目をきらりと煌めかせたものの、私の話を聞いて直ぐに死んだ魚のような目になった。ちょっと嬉しそうにしたから匂いフェチだと思ったのに。
匂いを嗅いだ感想は「どれもキャラメルみたいな匂いがする」だそうで。あれ?チョコレート使うんじゃなかったのか?あれは風邪に苦しむ私が聞き間違えたのか。

もう面倒くさいなー、と半ば諦めを抱き徐ろに真ん中の箱を手に取ってリボンを解く。特に明確な理由はないが私は水玉模様をよく好んでいて文具や私服、下着に至るまでドット柄を使用している。ハート柄は何だかこっ恥ずかしいし、星柄は何だかチープで子供くさい。だから私の好きなドット柄で。それでもういいじゃないか。

「……」

リボンを解いて丁寧に包装紙を剥がし、白い箱を開けた中にはオーブンペーパーのような半透明の紙に包まれた手作りのキャラメルらしきものが三つ程。そういえば神木さんの親友の朴さんが生キャラメルを作るとか何とかって、神木さんが言っていた気がする。女の子の考えの切り替えの早さには脱帽ものだ。
包み紙を解いてじっくりキャラメルを観察してみるも、一時期テレビで見ていた其れとあまり大差無い仕上がりである。

すん、と鼻を啜りながらキャラメルを口に放り込んで舌に絡めていく。

「……」
じわりと口内に広がる濃厚な甘み。
見た目異物が混入している様子も無かったしやっぱりこれが当たりなのかも。

「………ごほっ。ごほごほっ、うぉえっ」

……そう思っていた時期が私にもありました。

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