バレンタインチョコを貰った。
図書委員の当番で図書室のカウンターで受付をしながらああ早く部活に行きたい、なんて考えていたらカウンターに差し出された貸し出しを希望する際に生徒が記入するカードと本と、スカイブルーの小さな箱に意識が引き戻される。カードに判を押しながら箱へと視線を向けると「黒子テツヤ様 受け取ってください」の文字。次いで、判を押したばかりのカードに視線が移る。同い年、隣のクラスのみょうじなまえさん。何度かこうやって貸し出しの手続きをした事もあるし物凄い勢いでカードの空欄が埋まっていく様は図書委員の間でも有名だった。
言葉を交わした記憶もなく、バスケ部の誰かへ渡して欲しいのかと思い顔を上げて彼女と視線を合わせる。
みょうじさんは暫くまじまじと僕の顔を見つめた後「良かったら食べて」と素っ気なく言うやいなや本を持って足早に図書室を後にしてしまった。小さな小さな箱は生チョコでも二粒入れるのがやっとだろうという大きさで、正直配った義理チョコが余ったから丁度そこにいた図書委員にあげた、という想像しか出来なかった。女子との関わりがあまりない僕はどうしていいか分からない。ふ、と視線が再び貸し出し希望のカードに向く。


日付 2/14
書名 「あなたに恋をしました」



マフラーに顎を埋め今まさに昇降口を出ようとしている彼女の腕を掴んで引き止める。図書委員の仕事をすっぽかしてしまったし、体育館の方から自分の名前を呼ぶ木吉先輩の声も聞こえたりしたものの肩越しに此方を見る彼女の朱に染まった頬を見て其れ等は全て頭の隅に追いやられてしまった。ぶっきらぼうな態度はただの上辺だったらしい。

「押し付けるのはフェアではないと思います」

「……ただの義理チョコだよ、余ったからたまたま其処にいた図書委員さんにあげただけ」

「……なら、どうしてそんなに顔が赤いんですか」

「……うるさいな。…まさか追ってくるとは思わなかったから…」

そう言ってふい、と目線を下に向ける彼女は大分口が悪い。照れ隠しなのかただのツンデレなのか……相方からツンデレと評価されている緑髪の元チームメイトの姿が脳裏を掠めた。ツンデレ寄りの天の邪鬼という所か。

「すみません、期待させておいてあれなのですが…貴女の気持ちに答える事は出来ません」

「えっ」

義理に見せかけたチョコ。
カードに記載された本の題名。
それを見て追って来た僕。
ドラマのような起承転、あとは結に当たるハッピーエンドを待つだけ。…けれどもそれが現実で起こるとは限らない。
僕の紡いだ言葉に彼女は目を丸くさせて身体を此方に向けた。

「いえ、あの…気持ちは嬉しいんですが……僕、貴女の事を何も知らないんですよね」

「……あー…うん…」

連絡先はおろか、図書室でたまに会う以外の接点は全くない。僕の何処が良くてこんな行動に出たかすらも理解出来ない。僕の他にもイケてるメンズはそれこそ星のように居るだろうに。
納得したかのように頭を縦に動かす彼女に溜め息を漏らしながら取り敢えず、と人差し指を立てる。

「連絡先を交換しませんか」

「えっ」

「それからでも遅くはないと思います。…僕は一応部活に入っているのであまり夜遅くまで付き合えませんが」

「あ、うん。じゃあ…連絡先を…」

「あ…すみません。携帯は教室にあるので今は無理です。メモか何かに書いていただけると…」

「えっ」

「えっ?」
「……携帯…家に忘れてきたの…忘れてた」

「……」

へ、返却日の時に渡すから!
そう言って彼女は今度こそ僕の前から去っていった。脱兎の如く。
図書室に戻ったら一緒に当番をやっていた人に怒られた上に、部活も遅れて散々主将とカントクにしごかれたが、次の図書当番の時にあの真っ赤な顔が見られるのだと考えると自然と口角が上がるのを感じた。
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