「菓子なんか作らねーから不味くても知らねぇぞ」

「これで不味い方がおかしいに決まってる」

彼氏様から後光が差してきている気がして顔を逸らせば大袈裟だな、と燐が笑った。完璧にデコレイトされたチョコレートケーキの甘い匂いが私の食欲をこれでもかと言わんばかりに刺激してくる。頭も悪いし字も汚いし部屋も散らかってるくせに料理だけは上手いという変な所で女子力が高い現役男子高校生(魔神の息子)である燐に無理矢理頼み込んで作って貰ったのだ。
バレンタインなのに…男が作ってもらうもんだろ普通…等とぼやきながらもしっかりばっちり用意してくれている彼氏様、もうほんと最高です。

「うまっ!」

「おい。ちゃんと切り分けろよ」

「いいじゃん、食べるのあたし等だけだし」

小さなホールケーキにフォークを突き刺し一口放り込む。オレンジとパインの酸味が堪らない、くうーっと唸りながら思わずにやけると呆れた顔で私を見ていた燐が苦笑混じりに笑いながらエプロンを脱ぐ。その儘古びたスツールに座って頬杖をついてぼんやりと私を眺めている。

「どしたの?食べないの?」

「や…何か、ちょっと噛み締めてた」

「舌を?マゾか」

「ちっげーよ!!その、」

幸せっつーのかな、そういうの。
多くは語らない燐の胸中は分からないが、複雑そうな事情は現役男子高校生が抱えるには重すぎる。一歩道を違えれば命を落とす、ただ普通に生きてきただけなのに産みの親の咎を押し付けられなければいけないのだろうか。こんなに優しい味のケーキを作れる人が悪魔なわけがない。

「幸せ?」

「………おう」

「そっかそっか、ふふふ」

「キモイ」

「ヒドイ」

雰囲気に乗って甘ったるい台詞でも囁いてやろうと思ったのに。出鼻を挫かれた腹いせにケーキを刺したフォークを徐ろに燐の口に突っ込めば危ねーだろ!と憤慨の声があがる。それでも嬉しそうにケーキを食べる燐はちょっと可愛かった。だけどやっぱり腹が立ったので喉まで出かけていた「私も幸せ」の言葉はケーキと一緒に飲み込む事にした。

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