黒子くんから誕生会を開く為の場所を無事確保したとの連絡を貰った土曜日の昼下がり。目深にニット帽を被り赤い髪を隠しながら寒さに何度も挫けそうになりつつも最寄りのデパートに買い物に来ていた。
男性用衣料服の階を何時間も掛けてさ迷った末に購入したのがダークブラウンのマフラーだった。これで暫くは鼻の頭を真っ赤にさせながらも素知らぬ振りをして帰って来る兄の顔は見なくて済むのだと思う。

昼を大分過ぎてから本屋で弁当のレシピ本を購入しデパートを出て、その辺りのカフェでミルクティを啜りながらページを捲っているとふと鞄の中で携帯が振動しているのに気付き慌てて鞄の中を探る。
画面に表示された名前を見て通話ボタンを押す前にぬるくなったミルクティを飲み干して伝票を持って席を立つ。お会計をしながら電話に出ると向こう側も何だかざわざわと騒がしかった。

「ご、ごめん少しだけ待って」

『……ああ』

会計を済ませカフェを出て脇に抱えていたレシピ本を袋に戻してから肩と頭に挟んでいた携帯を持ち直してふう、と息を吐き出す。確か近くに公園があった筈だし、其処でゆっくり話そう。

『出先か?かけ直した方が良いだろうか』

「ううん、大丈夫。それより…緑間くんから電話なんて珍しいね。今部活中でしょ?」

『…ああ』

黒子くんに続き卒業式以来に声を聞く友人の一人、緑間くんはどうやら部活の休憩中に電話をくれたらしく電話の向こうの騒がしさの半分は緑間くんを冷やかす声だった。彼女かー、と声が掛かる度に控え目に違いますと真面目に反論している。

『赤司の誕生日会の参加不参加は早めに答えた方が良いと思ってな。来週以降のスケジュールが先程決まったから連絡したのだよ』

「20日は普通に部活ある気がするから無理でしょう?」

『ああ。…だが、今日から20日までの前払いで部活を休む許可を貰った』

一体彼が部活を休む為に何を支払ったのかは聞かないほうがいいと判断し、取り敢えず無難に礼を言う。休む許可を貰ったという事はそれはつまり誕生会に参加するという事でもある。
緑間くんも兄と顔を合わせる機会はなかっただろうし、きっと兄に会いたいのだろう。自然と話題が近況報告へと変わっていくのを聞きながら私は一つ溜め息を吐き出した。