・腐女子登場注意

「七不思議ではない何か…そいつが生徒の神隠し騒動に関わってるのは間違いないね」

人体模型改めもっくんから聞き出した情報は学園の前で廉造から噂の話を聞いた時に立てていた仮説を真っ向から否定するものだった。此処数ヶ月七不思議以外の人ならざるものが校内を徘徊している為、七不思議達は人間達に手を出さないのだと。気配を頼りに成りを潜めている為その正体や生徒達を襲っていたのかは分からないものの、七不思議の中で生徒を隠す事が出来るものはいない。あくまで人間の恐怖心が糧である為人間を食らう必要はないからだ。
私はてっきり七つ目のアイツが悪魔化か邪悪化して嗜好品と称している人間の魂のみでは飽きたらず人間を襲っているのだと思っていた。しかし七不思議達の様子から見てもその予測は外れてしまったようだ。残念。

階段を上がった先の踊り場に姿見があったのでちょいちょいと前髪を直しながら鏡越しに後輩二人を見遣れば、おずおずといった感じで廉造が手を上げた。はい、志摩くん。何かな?

「その“人ならざるもの”ならさっきおりましたけど」

…。
……。
………。
今、なんて?

「俺も見ました」

「えっ。何処で?」

「「保健室で」」

「ば…っ、馬っ鹿もーん!!そいつがルパンだ!」

「ええええ!?先輩怒るかボケるかどっちかにしてやー!」

聞けば黒い靄のようなものが保健室の窓から見える教室棟を徘徊していたそうな。七不思議達は私達の存在を感じ取っているみたいだし、あちらも私達に気付いている可能性が高い。

「……これは…」

「七不思議全てに会う前に片付いてまうかもな」

「あちらさん、絶対俺等ん事値踏みしとりますわー。誰が一番美味しそうかなうふふっ…いやー!俺はあかんでー!」

「……楽しそうに妄想してる所悪いけど。廉造」

鏡に向けていた体をくるりと百八十度回転させて二人に向き合う。暗がりの中できょとんと目を瞬く廉造の右肩を指差す。

「 右 肩 に 乗 っ て る お 人 形 さ ん 、 と て も か わ い い わ ね 」




刹那。踊り場から廊下、延いては学園中に廉造の奇声が響き渡った。

「う、…うう、ひぐっ」

「まさか男子高校生のマジ泣きを見る事になろうとは…」

「現役DKの泣き顔ペロムシャア」

「なっんなんやねん!何で三本足の人形がオタクっぽい口調やねーん!!」

「ねえねえ廉造クンは受けな感じ?それとも攻めな感じ?」

「廉造は女好きだけど受けじゃない?」

「女攻めktkr!!」

「もう俺を辱しめるんはやめて!!」

めそめそと階段に座り込んで嗚咽を漏らす廉造と若干空気になりつつある勝呂の視線の先にある私の肩の上には金髪碧眼、ショッキングピンクのレースが目を引くワンピースに身を包んだミカちゃん人形が居る。これが七不思議の五つ目「演劇室のミカちゃん人形」だ。一応演劇室が付いて正式名称になるのだが、名を冠している割に彼女自身は神出鬼没であちこちで存在が確認されている。七不思議随一の人気を誇る彼女は見た目は可愛いソフトビニール製の人形だというのに動くは喋るは足は三本あるは、遭遇した日にはけたけた笑いながら追い掛け回し逃げ切ったと安堵させた所に背後がどーん!と現れるトラウマメイカーである。そしてばりばりの腐女子でもある。

「ミカちゃんも今回の事件の詳細は知らないみたいだし、先に進むかあ」

「もう二時やし…はよ帰りましょ…」

「あー何でよりによってこないな任務回って来たんや…」

ぐちぐちと泣き言を言い出した二人を連れて階段を上がると、くすくすと笑いながらミカちゃんが私の髪の毛を引っ張る。タタタン、とリズム良く揺れた足が私の肩にぶつかる。

「名前チャン、あの二人って七不思議に全て会ったらどうなるか…知ってるの?」

「それを知ってるのは七不思議と七不思議全てに会った人とフェレス卿だけだよ」

「ふふふ。名前チャンは“アイツ”のお気に入りだからいいけど、あの子達は呪われちゃうかもよ?」

「そうなったら“アイツ”にワンパンかましに行くよ」

くすくす、くすくす。ばいばい名前チャン、くすくすくす。
ミカちゃんは笑いながら私の肩から飛び降りて廊下の暗闇の中へと走り去ってしまった。
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